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くたびれもうけ

「何もなかった?!」

勇者の装備を奉った神殿から帰った三人に話を聞くと驚愕の真実を告げられた。

「どうやら誰かが先に持ち出したようだ」

そりゃあ、あり得ない事ではないがここまで来て空振りだとくるものがあるな。

「いったん王都に戻りましょう」

ヘカテリーヌが空元気をふりしぼって提案する。

「その前にお祈りをして良いでしょうか?」

「お祈り?」

「クルスディーナさんのお兄さんか」

ハルシャークはその場にひざまづくと手を揃えて何事かを唱え始めた。

俺達は静かにそれを見守った。

「あの人 何してるの?」

すると横にいたキルシュアが問いかけてくる。そういえば彼女は知らないのか。

「死んだ人の魂が迷わないようにあの世に送ってあげるんだってさ」

「あの世って?」

「……死んだ人達の世界かな」

「どうして死んでいないのにわかるの?」

なかなか際どい事をきくじゃないか…。

「その方が気が楽だからかな」

「気が楽…?」

「あの世では辛いこと全部忘れて楽しく暮らせるんだと」

「なら 早く死んだ方がいいの?」

「いや、生きてる時にいい人でないとあの世でも楽しめないんだよ」

「……なら 私は無理だね」

キルシュアの瞳はその事に対してなんの憂いもないようだった。

ただ事実として運命を受け入れている。

その事に無性に腹がたった。

「お前が、本当に悪いことをしたと思ってるなら、もっと苦しまなきゃ駄目だ」

「え?」

彼女の目に困惑の色が灯る。

「償って、償い続けて、どんなに苦しくてもお前は天国を目指さなきゃいけないんだ」

瞳の揺らぎは困惑から驚愕へと変わり、やがて憂いへと落ち着いた。

彼女が何を思っているかはわからない。

それでも俺の言うことは決まっていた。

「手伝うから」

その後一瞬目があって同時にそらした。

なんだか自分で恥ずかしくなってきた。

「よろ しく」

風に紛れて聞こえたそんな呟きに俺はスッと一息ついた。

「これで魂は安らかに眠れるでしょう」

ハルシャークが祈りを終えこれであらかた目的は達成した事になる。

「ねえ、これってどうするの?」

先輩が指さしたのは竜がせっせこ集めた金塊の山だ。

売ればどれ程になるのか見当もつかない。

「ちょっとくらい持っていっても良いかな…?」

「先輩…」

「欲深き人心に救いを……」

「だ、だって置いといたら誰かにとられちゃうかもしれないしっ!」

まあ既にここを守っていた竜は俺達が倒してしまった。だからこそ奪っていくのも居心地が悪い。

「こいつの食費とかにあてたいんですけど」

今も側にくっついている子竜を無造作に撫でる。

産まれたばかりだが既に背丈は俺の腰くらいある。きっとたくさん食べるだろう。

「こいつルゥとキャラが被ってるルゥ」

毛玉が何を言ってやがるんだ。

「先輩は欲しいものとかあるんですか?」

「え……無いけど」

「なのに持ってこうとしたんですか?」

「うわーん、曜君がいじめるー」

「別にいじめてるつもりは……」

とりあえず俺達はいったんアウステラへと戻ることにした。

今日はここで解散して俺は元の世界に帰った。

「そういえばお前はどうするんだ?」

道すがら後ろをついてくるキルシュアが気になってたずねてみた。

「………」

「………」

「………」

「……どうした?」

しかしいっこうに返事が返ってこない。

「もしかして、あてがない?」

するとキルシュアは首をフルフルと回す。

「…野宿」

「そりゃあてとはいわん」

むしろ放り出されている。

「宿に泊まるとか…」

「顔を見せないと怪しまれる」

確かにそれはそうか、万が一見られてしまうと大変な事になる。

だが魔物が彷徨いている外に置き去りにするのもかわいそうだ。

「よかったら、うちに来るか?」

「いいの?」

「まあばれなきゃ平気だろ」

というわけでキルシュアを連れていつもの宿に向かった。

向こうに戻ると里美がいない事を確認して素早く自分の部屋へ移動する。

魔物に見えてしまう彼女が里美と出会ってしまうと面倒な事になるだろう。

なんだか親に内緒で犬猫を拾ってきた気分だ。

「とりあえずここで待っててくれ」

「ん」

俺は部屋を出ると一階に向かう。

「お帰りなさい」

「ただいま」

里美はキッチンで料理をしていた。

鼻孔をくすぐる良い臭いが漂ってくる。

先輩も一緒だった。

「え…と、今日は自分の部屋で食べても良いかな…?」

「なんで?」

「ちょっと風邪気味でさ、皆にうつすと悪いから」

「……そっか、じゃあお粥にしようか?」

「いや、そこまでじゃないよ……」

料理ができるとそれをもって部屋へ戻る。

「風邪気味なのにそんなに食べるの?」

「へ?」

キルシュアの為と欲張ったのが仇になったようだ。

「た、たくさん食べれば栄養になるかなって…」

「分解にも体力使うから適量にしないとダメだよ?」

「そうだな…」

仕方ない、他の方法を考えるか。

「曜ちゃん…何か隠してる?」

「な、何いってんだ。そんな訳ないだろ」

「先輩も~」

「えー、わかんないなーい…」

「むー……?」

なんとか追究をかわして一人分の食事を持って部屋に戻る。

ムシャムシャ。

「おいしい」

「そんなに慌てるなよ」

特製ソースを絡めたピリ辛野菜炒めをご飯と一緒に掻き込むキルシュア。見ているだけで腹が減ってくる。

なんとしても俺の分も調達せねばならない。佐竹先輩に里美の気を引いて貰おうか。

よしそうしようと立ち上がった時だった。

「うをぁっ!?」

扉の前に立っていた人影に驚いておしりが床に再会した。

「その子、誰?」

俺を見下ろす里美は笑っていたがその顔には暗く陰が落ちているように見えた。

後ろで先輩が謝っている。どうやら作戦は実行前に破綻したらしい。

「ち、違うんだ……これには訳が……ん?」

今、その子って言ったか?

「里美、こいつが何に見える?」

「?、女の子だよね?」

「え、トゲトゲのテカテカしたヤバそうな奴じゃないの?」

先輩にはそんな風に見えてるのか……。それは確かにヤバイ。

俺はまた別の事で驚いているが。

「呪いが効いてない…?」

俺自身効いていないのであり得ない話ではないが…。

いや、むしろ勇者らしい里美に効かないのは当たり前で側にいた俺がその影響を受けているのかも。

「で、なんで隠してたのかなぁ?」

「それは……色々面倒だから……」

「面倒…?」

「ごめんなさーい!」

こういう時はもう謝るしかない。

むしろ謝れば解決するのだから安いものだ、そう思うしかない。

「まあまあ、曜君も悪気があった訳じゃ……」

「先輩も同罪ですよ…?」

「「すいませんでしたー!」」

二人で精一杯へりくだる。

家長には逆らえないのだ。

「全くもう…みんなで食べた方が美味しいのに」

里美は額を床に擦り付ける俺達の横を通りすぎてキルシュアにはなしかける。

「名前は何て言うの?」

「…キルシュア」

「キルシュアちゃん、一階で一緒に食べよう」

そして手を引いて部屋を出ていく。

顔のほぼ半分を占める傷にはふれない。気を使っているのだろう。まるで天使のような暖かさだ。

「曜ちゃんは晩ご飯抜き」

そんな……。

同時に悪魔のような厳しさをも持ち合わせている。そんなところも素敵だと思う。

「私のを別けてあげるから」

「先輩……は平気なんですか?」

「うん、いいダイエットになるよ」

「いや…そうじゃなくて………キルシュアのこと」

思ったより先輩達には不気味に映っているようなので心配になったんだ。

「ああ……曜君はあの子を除け者にする私がみたい?」

「それは…」

見たくない。

「安心して、君が嫌がることはしないから」

けどそれは我慢するということなんだろう。

勤労には対価が支払われるべきだ。

「曜君は気にしなくていいの、愛は無償なんだから」

対価を要求したらそれは愛ではないとでもいうように先輩は人差し指で俺の口を塞ぎ、二の句を告げなくした。

「さっ、行こ」

そして腕をとって引っ張っていく。

俺はただされるがままになっていた。

「1割程魔の血が入っておるの~、まあわしは悪魔っ子も守備範囲じゃが」

「この人 胸がムカムカする」

「それはな、気持ち悪い、キモいって言うんだよ」

「キモい」

「んほ~、ありがたや~」

「ところでじいさんも呪いが効かないのか?」

「昔は痴情のもつれでよく呪われとったからなぁ、慣れとるんじゃよ」

「もう、食事中ですよ」

とはいえ俺の前には皿がない。

「はい曜君、あ~ん」

「自分で食べれますよ……」

「遠慮しないで、ホラホラ」

「先輩、曜ちゃんの分をよそってくるのでもう大丈夫ですから」

「ぶぅ、里美ちゃんお邪魔虫だ」

「何か?」

「なんでも?」

「曜や、後で呪いに利くお札を分けてやるからな」

「怖いこと言うなよ……」

「おかわり!」






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