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再戦~竜の巣~

「ねぇ、腹ごなしにちょっと勝負しない?」

昼食を食べ終えて店を出たところでヘカテリーヌがそんな事を言い出した。

相手は新進気鋭のにゅーかまー、キルシュアだ。

「後輩いびりはよくないぞ」

いくら彼女が半魔族だからって。

「別にそんなんじゃないし、ちょっとした腕試しよ」

そうは言ってもキルシュアの実力は聖剣祭で確認済みだ。

たぶん俺達の誰よりも強い。

ヘカテリーヌもあれから成長したとは思うがそれでも厳しいだろう。

「ねえ曜君、私あの子の事よく知らないんだけど…」

そういえば先輩にはちょこっと話しただけだったな。

岩に腰かけて説明していると二人の勝負が始まっていた。

「先輩もあいつが魔物に見えますか?」

「うん、フード被ってる時は大丈夫だったけど、今はちょっと、怖い」

異世界人であることが条件かと思ったが違ったらしい。どうして俺には呪いが効かないのか。

ぼんやりと考えながら二人の試合を観戦する。

ヘカテリーヌが防戦一方のようだ。

「意外だな…」

俺はあっさり決着がつくものだとおもっていた。だが意外にもヘカテリーヌが粘っている。

彼女は怪我のせいで剣を握るのも久しぶりの筈だ。

キルシュアが手を抜いているんだろうか。

「君の知らないところで勇者様は努力しているのさ」

いつのまにか隣に来ていたハルシャークがまるで自分の事のようにドヤる。だいぶウザい。

あいつが努力している事くらい知っている。ただここまでだっただろうか?

「怪我の最中はずっと左手をメインに使っていたからな。左右のバランスが良くなったんだろう」

「ほー……」

そんな事もあるのか。まさに怪我の功名だな。

「曜君も隠れて努力してるもんね」

「…そうっすね」

それでもさばくのが精一杯で攻撃に転じるすきがない。このままではじり貧だろう。

「お前さ、勇者なのに弱くて幻滅とかしないの?」

そうきくと勇者教の幹部筆頭は笑って答えた。

「信仰とは弱き者の為にある。弱きを知らぬ者に救済などできるか」

「なるほどねー…」

「勇者とはすなわち勇敢なる者であり勇気を与える者の事、骨身を砕き苦辛する姿にこそ、我々と共にあるという何よりの証。ああーなんと美しいのか……これこそ正に我らの求めし……」

なんか語りだしたのでこの辺にしておこう。

こいつに勇者の事はきかない方がいいな。

「あー、負けたーー!!」

どうやら決着がついたらしい。

芝生に身を投げ出して寝そべるヘカテリーヌに歩み寄った。

「あんまり無茶すんなよ、これから行くんだろ、竜の巣」

「ん」

手をさしのべて引っ張り起こす。

「まあキルシュアがいれば大丈夫じゃない?」

今の勝負で彼女の実力は認めたらしい。ちょっと拗ねてるけど。

「私一人で 充分」

「なぁんですってー!」

「喧嘩は止めろって…」

ひとまず俺達は小国アセスへと向かった。

「どうだった、クルスディーネさん」

「ぐっすり眠ってたよ、順調に回復してるってさ」

「よかった……」

胸を撫で下ろすヘカテリーヌ。

キルシュアは複雑そうな表情をしていた。

見舞いを済ませた俺達はいよいよ竜の巣へと足を向けた。

「何か作戦はないの?」

「どうかな……」

相手は生物の頂点に君臨する怪物だ。半端な搦め手は通用しないだろう。

だからこそ正面からぶつかるのもばからしい。

ゲームなら罠をはったりするんだが…。

たぶんクルスディーネさんならもうちょっとましな解答を用意できるんだろう。

竜が死ぬところを見た彼女ならどれくらいやればそこまでたどり着くかわかる筈だ。

倒した事が有るか無いかの違いは大きい。

そんな彼女が手伝ってくれる、すなわち倒す算段があると言ってくれたのを今は信じるしかない。

「二手に別れるか」

「それだと戦力が減ってしまうぞ」

「すぐ救援できるようにする。うまくいけば竜の不意をつけるし、倒さなくても勇者の装備(アウステラ・シリーズ)を見つけられれば良いんだ」

という訳で俺達は二手に別れて竜の巣へ侵入した。

「相変わらず暑いわねここ…」

先輩が冷気を求めてエリをぱたつかせる。里美やヘカテ程ではないが形のいい胸元がチラと見えた。

「おっぱい見てる」

「え」

突然キルシュアが罪状を突きつけてきた。

「どうしたの?」

それに先輩が反応してしまう。

「ヨウがおっぱい見てた」

「ふーん、欲しいなら言ってくれればいいのに」

ただでさえ暑いのにさらに体が熱くなる。

この組み合わせは失敗だったかもしれない。

「冗談言ってないでちゃんと探してください」

「はーい」

先輩は額に手を立てて大袈裟に周囲を見回した。

冗談だったのか……。

「もっと遠く 見てこようか ?」

キルシュアが袖を引っ張ってくる。

彼女が本気を出せばたぶん50メートルを2秒くらいで駆け抜ける事が可能だ。

「いや見落とすかもしれない、一緒に探そう。はぐれると危ないしな」

俺達が。

「まさかあの中ってこと無いよね…」

先輩が指差したのは今も黙々と煙をあげ続ける火口だ。

中は地獄の釜のように煮えたぎっているだろう。招待はごめんこうむりたい。

一週間前に噴火したばかりで今も冷えて固まった溶岩が黒々と道を作っていた。

「それか噴積物に埋もれちゃったりとか」

勇者の装備が封印される前からここの火山群は存在していただろうしそれくらいは配慮していてほしい。

だがもしその事をふまえるなら封印場所は火口から離れた高所に絞ることができる。

「とは言ってもなー…」

上を見てもそれらしい物はない。

そもそもここに目当ての物がある保証も無いんだよなぁ。

勇者装備を封印した神殿は一つも見つかっていない。だからあまり人が訪れない場所を探しているのだが…。

「それでも続けるしかないよな」

他に手がかりはないんだ。

自分に檄をいれてもう一度歩き出す。

その時だ。

ビービービービー。

「!」

ポッケの緊急信号が着信を告げた。

グワオオオオオオオオオォォォォ!!

直後に豪声が轟いた。

即座に声のした方向に駆ける。

そして岩影から向こうを覗く。

30メートルはあろうかという巨大な竜がヘカテリーヌ達を襲っていた。

「曜君」

「はい、作戦通りに」

俺がそう言うと先輩は魔法の詠唱を始める。

発動までにはいくらか時間を要する。その間も鼓膜から精神を揺さぶる轟音が鳴り響く。

それでも今はやれることをやるしかない。

先輩の準備が整った。

そして竜に匹敵する巨岩が上空に出現した。

それは大きく弧を描いて飛翔する。

やがて竜の不意を突いて衝突した。

しかし奴はびくともしない。

霧散する瓦礫の中で王者の雄叫びをあげる。

竜には魔法が効かない。

固いとかそういうことではなく本当に効かない。

体を覆う鱗が魔力を掻き消してしまうのだ。

だが本当の狙いはこのあと。

岩に乗っていったキルシュアの斬撃だ。

天空に向かって吠える竜を横目に飛び散る瓦礫を移動する影。

そして頃合いを見て飛びかかった。

標的は竜、その背中。

あの巨体を空の覇者へと変える二枚の翼。

あれをもぎ取って同じ土俵で戦ってもらう。

キルシュアの赤い剣を謎の暗闇が覆う。

あれが彼女のスキルなのか。

飛び出した勢いのまま腕をふって斬りかかった。

漆黒の刃が翼の根本をとらえた。

「!?」

だがそれでも王者の体は他の侵入を許さない。

触れたとたんキルシュアの剣から暗気が消え去った。

まさかスキルまで無効化されるのか!?

単純なパワーのみで挑まねばならないのか。

あるいは竜騎士のスキルだけはその限りではないのかもしれないが。

責めて根っこではなく風を受ける薄皮を狙っていればっ……。

「逃げろ、キルシュア!」

いつまでも背にとどまっていたらやばい。

「!!」

そして竜は健在の両翼を羽ばたかせロケットの如く直角に飛び上がった。

グングンと高度をあげてみるみる内に小さくなっていく。

「なんということだ!?」

ハルシャークが叫ぶ。

その通りだ。いったいどうすればいい!?

「勇者様がいない!」

ああ?なんだと?

周囲を確認する。確かにヘカテリーヌがいない。

「まさか…」

透き通るように青い空を見上げる。

そこには燃えるように赤い竜と見えないが必死にしがみついているであろうキルシュア。

そしておそらく、ヘカテリーヌも………。















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