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学校

「ヘカテリーヌを学校に連れていく?!」

寝癖も直さぬうちに里美の提案に絶句する。

「いい気分転換になると思うし、三時間毎に回復魔法をかけるなら近くにいた方が良いでしょ?」

確かに言う通りではある。

「…しょうがないか」

「なになに、学校行くの?」

「学校ですか懐かしいですね」

そういえば向こうにも学校はあるのか。俺達はまだ高校生だがヘカテリーヌ達がそうでないところを見るとだいぶ制度は違うんだろうな。

「服はどうする?」

「私のを着ればいいよ」

「しかしカタクラのサイズを私が着れるでしょうか?」

「お前は高校生に見えないから留守番だよ」

「そんな……」

隅っこに縮こまって拗ねるハルシャークを置いて俺達は家を出た。

「おはよーす、曜に伊達さんにいつぞやの美少女から佐竹先輩までーーっ!?どうなってんだよっ!?!」

「朝から騒がしいな、俺の唯一の友人で高校デビューしたものの彼女に合わせて元に戻りつつある茂庭 駆流よ」

「その説明毎回やんのか?」

お前の登場回数が少ないのが悪い。

「それはいいとして、いったい全体どーなってんだよ。なんでお前の周りだけこんなに女の子が集まってくるんだ??」

「お前彼女いんだからいーじゃん」

「確かに」

ちょうどいいので俺は女性陣と離れる事にする。

さすがに目立つからな。さっきからすれ違う人が皆二度見していっている。

「やっぱ後ろ姿だけでも絵になるよなー、お前はどの子が本命なんだよ」

「お前がみとれてたって新田さんにちくろーかな」

「おっおい、俺を売る気かっ」

適当に話を交えつつ三人の後ろ姿を見ながら学校へ向かった。

「私、職員室に話してくるね」

「俺も行くよ」

ヘカテリーヌの事について了承をへて教室へと向かった。

ザワザワザワ。

教室に入ると案の定注目を集める事になった。

「ヘカテリーヌさん!」

「え?誰?」

「どうしてここに?」

群がる生徒達を横目に俺は自分の席に座る。

「その右手どうしたの?」

「えーと、骨折れちゃって」

ヘカテリーヌは動かない腕を首に吊ってカモフラージュしている。

「なんで制服着てるの?」

「もしかして転校とか?」

「皆さーん、席に着いてください」

質問攻めに困惑していた所に助け船がきた。

「今日は我がクラスに特別ゲストがきていまーす、どうぞ自己紹介して」

「え…と、アウステラ・リッツ・ヘカテリーヌといいます。よろしくね」

その瞬間、教室内に歓声が沸き上がった。

その後は普段通り授業を受けいつもと変わらない時間を過ごす。

しかしヘカテリーヌの存在で教室は一段と華やいで見える。

そしていつの間にか彼女はクラスの中心にまで溶け込んでいた。

元々物怖じしないやつだし、見た目も悪くなくスタイルもいい。外人補整も受ければ人気者になるべくしてなったという感じだ。

「ヨウ、ご飯食べよー」

その癖普通に話しかけてきやがる。

「他の奴と約束してるんだろ、そいつらと食べろよ」

「だから一緒に食べようよ」

「あのな…」

俺はお前と違って誰とでも仲良くできる訳じゃないのだ。

クラスには仲良しグループがあって、そこに混ざったところで一人とその他でしかないんだ。

「良いじゃん、片倉も来いよ」

クラスの中心的な男子が話しかけてきた。

まあ飯食うくらい別に良いんだけどな。

以前の俺はそこにやたら過敏だった気がする。

だが異世界の存在を知った今そんな自分がちっぽけに見えてしょうがなかった。

そんなの大したことではないのに。

俺ははしゃいでいるのかもしれない。

優越感に浸っているのかもしれない。

ヘカテリーヌの腕を見る。竜にこてんぱんにされて動かなくなった腕。

異世界も楽しいことばかりではない。

だというのにそれにであってから孤独感は増すばかりだ。

俺は変わっていく自分に恐れていた。

「悪い、俺はいいや」

過去の自分の面影を捜して俺は返事をした。

「付き合いわりーな」

そんな声が聞こえた気がした。

うん、そんな感じだ。

俺は一人で教室を出ていく。

廊下に出ると涼しげな風が頬を撫でた。

「ヨウ、待って」

それよりさらに澄んだ声が俺を引き留めた。

「私も断ってきた」

「なんでだよ…」

「だってヨウと一緒が良いもん」

彼女はそういうことをさらっと口にする。

満面の笑顔で口走る。

それは日常に現れた異物。

「サトミとは一緒に食べないの?」

「ああ」

俺と里美の関係は特別だ。だから周囲から見ると異質に映る。

世間に溶け込む為にあえて接触は避けている。

その辺は佐竹先輩も同じだ。

彼女は人気者なので目立つのが嫌な俺に気を使って学校ではあまりアプローチしてこない。

わきまえているんだ。

だというのにヘカテリーヌは平気で話しかけてくる。

さっきから周りの生徒にチラチラと見られていた。

だからこそ可愛いげがあるというか、無下にできないんだよなぁー。これが人徳というやつか。

「サトミはどこで食べてるんだろ」

まだ諦めていないのかそんなことをいう。

「ん?教室に居なかったか?」

里美はいつも数人の友達と一緒に食べていた筈だ。

「ううん、クラスの人に連れられてったよ」

「……探そう」

足早に校内を散策するが里美のさの字もない。

「どうしたの?」

「いや……」

思い過ごしだと良いんだが。

「待てぃ、そこの童ら!」

やはり人目につかない所にいるのか。首筋に嫌な汗が伝う。

とりあえず一つずつ見ていくしかない。

「おい、待てと言っとろーが!」

「ノゾミコ!」

ヘカテリーヌが生徒会長に向かって走りだしそのまま抱き締めた。

「会いたかったよー」

「なっなんじゃ、わしはお前など知らん!?」

面倒だから無視していたのにこいつにそういうのは無理か。

やがて観念したのか会長はヘカテリーヌになすがままになった。

「なんの用ですか…?今急いでるんですけど…」

「ふっ驚くな、この金髪の女の正体を掴んだのじゃ!」

「へー」

「なんじゃその反応は!もっと驚き怯えんかい!」

本当ならわりと大変なことだがヘカテリーヌに抱き締められながら頭を撫でられているから子供の戯言にしか聞こえなかった。

「この女は別世界の人間じゃろう?」

おー正解だ。

「それでなんの用なんだ?」

「え?」

「え?」

「………」

「………」

「え?」

「え?」

特に返事もなく時間が過ぎていく。まさか……。

「秘密を暴いたってのを教えにきただけですか?」

「いっいかんのか!?だってビックリするじゃろ!怖いじゃろ!」

「………」

「………」

「良かったですね」

「なんじゃー、その張り付けたような笑みは!」

柴田 笑美「呼びましたー?」

「呼んどらんわ!はぁ……はぁ…」

だいぶお疲れのようだ。

「これよかったら」

「…くるしゅうない」

ペットボトルの水を渡すとごくごくと飲み干した。

「ところで里美知りません?」

「む、ちょっと待っておれ」

会長は何かの端末を取り出すと素早く操作した。

「どうやら屋上へ出る階段にいるようじゃ」

「そっか、サンキュー」

「あ、待て!」

俺はすぐにそこへ向かった。

曲がり角からそっと覗くと里美と数人の女子生徒がたむろしていた。

「何やってるの?」

「見てればわかる」

ようく耳をすませて様子を探る。

「だからさー、ちょっとでしゃばり過ぎじゃない?って事」

やっぱりそういうことだったか。

「今までお一人様きどってた癖にさー、何?幼馴染みとられて焦っちゃった?笑」

「っ………曜ちゃんとはそういうんじゃなくて…」

「なぁにー?聞こえないんですけど?被害者ぶってんの?」

「………」

「ちょっと、黙ってないでなんか言いなよ」

聞く耳もないくせによく言うな。

「この世界にもあるんだ、ああいうの…」

ヘカテリーヌの震えた声が聞こえた。

そういえば以前の彼女は自称勇者の詐欺師として嫌われていた。

「助けにいかないの?」

「………」

助けたい、それだけは間違いない。

でもどうやって?火に油を注ぐだけかもしれない。

人間の悪意は底知れない。

モンスターのように殴って倒すわけにもいかない。

「でも、見てるだけなんて嫌よ」

こいつはそういうやつだ。

自分から火の中に飛び込んでいく。

「ちょっと、やめなさいよ」

「ヘカテリーヌさん……」

突然出てきた彼女に肝を冷やした様子の女子生徒達。

「皆で仲良くできないの?」

「私達はそうしたいんだけど…伊達さんが何も言ってくれなくて…」

ヘカテリーヌ相手だと下手に出るんだな、女子の交友関係はよくわからない。

「こんなところに連れてきといてほんとにそう言えるの?」

「っ……もうわかったって」

たまらず女子生徒達は逃げ出していった。

「ヘカテリーヌちゃん…」

「サトミ、大丈夫だった?」

身を寄せ合う二人。

これで事件は円満に解決した。

かに思えた。

しかし後日学校に来てみると里美の上履きが無くなっていたのだ。

「ゆっるせない、人のものをとるなんて泥棒よ!ガツンと言ってやるんだから!」

「やめとけ、証拠もないししらばっくれられたらおしまいだ」

「むー、ヨウってこっちだとネガティブ…」

別にどこでもネガティブだと思うが。

まあ確かに学校のことがあまり好きではない俺はここだとセンチメンタルなのかもしれない。

「まあそのうち収まるだろ」

「そうかなー……」

俺がいった通りすぐに上履きは返ってきてその後は何事もなくなった。

「うーん、やっぱり皆仲良しが一番ね!」

帰り道をはしゃぎながら歩くヘカテリーヌを見ながら俺と里美は同じペースで歩く。

たまたま置いといたカメラにたまたま犯行現場が映っていたので何となく脅してみた甲斐があったというものだ。

やがて今日の日も沈み晩ごはんの時間がやって来る。

「ダテ殿、カタクラのハンバーグだけ少し大きいのではないですか?」

ハルシャークが文句をいっている。神官の癖に強欲な奴だ。

「今日はサービスだよ」

大きめのハンバーグは少し贅沢な味がした。



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