竜騎士との再会
そしてやって来た新たな終末、あるものはやがてくる辛酸な未来に絶望し、あるものは強制的に奉仕を義務づけられ休む間もなく同族達と互いを消耗し合う。
間違えた、じゃなくて週末。
人々はつかの間の休暇を謳歌し、娯楽施設では非日常を満喫する。
というわけで、俺も通例となった非日常という異世界に此度も足を運んでいた。
俺達は激しい戦いの末、魔王軍幹部の一人ビャクエンフを倒し勇者の盾を手に入れることができた。
これで奴らも本腰いれて向かってくるかもしれない。早いとこ次の装備を集めたい所だ。
というわけで俺達は世界地図とにらめっこしていた。
「お婆ちゃんは人のいないところって言ってたけど……」
この世界は魔物がばっこしているので結界の中の限られた地域でしか人は暮らせない。
だが逆に立ち入り禁止になっている訳ではないので基準が曖昧だった。
「一つ一つ潰していくしかないわね」
女の子が潰すっていうと、ちょっとひゅんってするよね。
「ここから一番近いのは『竜の巣』かしら」
「竜……がいるのか?」
この世界には魔物の他に自然動物達が存在する。
彼らの多くは魔物と対抗する為に強く進化した。
しかも魔物と違って結界が効かないのでたまに村を襲うことがある。なので彼らの討伐も冒険者の仕事の一つだ。
その中でも竜は最高位に位置する存在だった。
それを倒すと特別なスキルを与えられる程の。
「竜騎士か……元気かなあの人」
聖剣祭の武闘大会で出会った銀色の髪をなびかせる鎧の人。
世界でただ一人の竜殺し。
『竜の巣』に行くならあの人の協力が欲しい所だ。
「それじゃあ、目的地は小国アセスで決定ね!」
半分私室のようになっている宿屋から町に出ると何やら人混みができていた。
「ラジュ!」
「ヘカテリーヌ」
こっちが名を呼ぶと向こうも同じように返してくる。
こだまかな?いいや、友人だろう。
お互いに金色の髪を揺らして、まるで姉妹のようにはしゃぐ。
はっきり違うのは耳の長さだろう。
ラジュは俺達とは違う、森の妖精、耳のとんがったエルフ族の長だ。
けれど彼女達にとってそんな事は関係ない。
だがそれを見る周りの眼は違うようだ。
見たことのない存在に戸惑いを隠せない。懐疑的な視線を送る人々。
未知は恐怖に繋がる物だ。
安ずるより産むが易しというか、人は得体の知れない物が実在以上に大きく見えてしまう時がある。
ラジュの後ろに控える数人の軍人も護衛と称した監視役だろう。
と、その中に見知った顔があった。
「バウリーグ」
「む、カタクラか」
この国を統べる三人の王、その後継者の一人。
「どうなんだ?エルフとの話し合いは」
「外交はホリット家の仕事だ、詳しくは知らん。ただ…」
「ただ?」
「軍に攻撃命令は届いていない」
「そうか…」
どうやらファーストコンタクトはまずまずの結果に落ち着いたらしい。
ラジュ達エルフ族は長い沈黙を破って人族との融和を目指すようになった。
だが彼らは今まで森に入った人間を殺害し続けていたのだ。その溝は簡単には埋まらないだろう。
下手をすれば一触即発の危機ですらあった。
「外交王は当然だが、あの女もなかなかのやり手だぞ。ああ怖い、俺は剣だけ振って生きていたいよ」
次期王様がそんなんでいいのか。
外交王アウステラ・ホリット・バンプーダァ。ぽっちゃりとした優しそうなおじさんだったがやはり王さまなだけあって手腕は確かなのだろう。
それに対抗するラジュさん、確かに恐ろしいかもしれない。
いったいどんな話し合いになったんだろう。
「ところで……お前は勇者と結婚するのか?」
「あぁ?」
いきなり何を言ってるんだこいつは。
「いや、最近見合いの話が多くてな」
そういうこと…、前に政略結婚するとかいってた奴が現実になろうとしているらしい。
同い年くらいだろうに貴族というやつは大変なんだな。
「セイリスとかいう姫様はいいのか?」
ホリット家にはヘカテリーヌに似た王女がいる。だが王様の家系同士は結婚できないらしい。
「う、うるさい、お前には関係ないだろう」
そっちから言い出した癖に。
「駆け落ちとかしちゃえば?」
「俺は王を継ぐ男だぞ!?そんなことできるか!………それに、あいつも俺とでは不安だろう」
「まあ否定はしない」
「しろよ、お前が言い出したんだろう!」
…………。
「「ハハハハハハハ。」」
辛い話は笑って吹き飛ばすにかぎる。
結婚か、俺もいつかはするんだろうか。
ヘカテリーヌも、里美も、………。
今はまだ若さを言い訳にするしかなかった。
「小国アセスにいくのだろう、宮廷魔導師なら一っ飛びだが、どうする?」
「助かる」
俺達は一度お城に向かうと魔法で目的地に飛んだ。
「ここが小国アセス……」
小さい。
国というより村程度の規模だ。
老魔法使いにお礼を言って別れた後、正面のゲートに向かう。
「竜騎士の国アセスへようこそ、失礼ですが身分を証明できるものはありますか?」
そう問われてヘカテリーヌは王様から貰った勇者の証明書を提示する。ドヤ顔で。
「こっこれは!?しっ失礼いたしました!まさか勇者様御一行がこんな辺鄙で何もない僻地にいらっしゃるとは……!、ささっどうぞお好きにお入りください」
竜騎士の国じゃなかったのか…。
期待通りの反応だったのかヘカテリーヌはご満悦で証明書をしまった。
「えーと、ここにクルスディーネさんがいるって聞いたんですけど」
「ええ、正面にある役所の右側があいつの家です」
「ありがとうございます」
「ごゆっくり~」
とりあえず案内された場所へと向かった。
周辺で唯一立派な役所を曲がると平凡な木造住宅に突き当たる。
ここが竜騎士様の家なのだろうか。
若干首をかしげながら扉横のベルを鳴らした。
「はーい」
中から女性の声がして暫く待つと当人がドアを開けて顔を見せた。
若干年齢を感じさせるもののそれがかえってセクシーな御婦人だった。
「どちら様でしょう?」
「私は勇者のヘカテリーヌ、竜騎士さんの力を借りたいと思って来たんですけど……」
「あらまぁ、クーちゃんなら二階にいるのでどうぞ上がってください」
ご厚意に預かって入らさせてもらうことにする。
確か竜騎士様の名前はクルスディーネだったか。だからクーちゃんなのか。
お母さまなのかな。
階段を上がると二つの部屋があらわれた。
それぞれの扉にプレートが下げられており、片方はドラゴン、片方はネコ。
竜騎士というくらいだしまずはドラゴンの扉を叩く。
しかし返事がない。
「?」
ヘカテリーヌが扉を開けると中には誰もいなかった。
今は留守なのだろうか?しかし先程の女性は二階にいるといっていたが。
不思議に思ってもう片方の部屋も開けてみた。
「えっ…」
「あ…」
そこにいたのは銀色の長い髪を先の方で纏めた均整な顔立ちの女性だった。
長いまつ毛をしばたかせて驚きに目を見開いた表情は、完璧な美人の隙を見つけてしまったような背徳感を覚えさせ、それがいっそう魅力的に思えた。
屈むような姿勢なのは下半身を包むロングスカートをつかんでいるからだろう。
半分ほど足が通されているが脱ぎかけなのかはきかけなのかはわからなかった。
片足で立ち続ける見事なバランス感覚だ。
何より目を奪うのは差し出すように両腕で押し潰された豊かな乳房。
重力によって形を変える様は直接触れずともその柔らかさを伝えてくる。
さらにその先に屹立するピンク色の乳頭は白い肌も合わさって雪原に咲く一輪の花のような儚さと力強さを感じさせた。
半裸の竜騎士は表情を固めたまま壁にかけてあった大剣の柄を掴む。
あっ、死んだわこれ。
「イヤアアアアァァァァ!!」
そして迸る叫声と共に腕を振る、えずに半端にはいたスカートに足が引っ掛かってそのまま倒れてきた。
「あっあっ、あああ~~っ!」
ドタンっ。
「ん~……」
「………」
積もった粉雪に飛び込んだような柔らかさを全身で感じた。
特に頭部は呼吸困難になるほどのフィット感だった。
違うのは人肌の温もりを感じられるところだろうか。
母の腕に抱かれる赤子はこんな気分なんだろうなと思いました。
「おっぱいが一つ……おっぱいが二つ……」
「しっかりして、曜君!」
頭を打ったのかな?エンジェル達が俺をよんでいる気がする……。
「はっすみませんっ、つい気が動転してしまってっ、大丈夫ですか?」
柔らかい温もりが離れると同時に抱き起こされる。
「しっかりしてください!」
肩を揺さぶられる度に目の前の二つの皮袋も俺を誘うようにゆらゆら揺れる。
押し潰された太股の間に映る白い布も扇情的だ。
「その前に服を着た方が……」
「えっ……キャアアァ!」
結局ぶん殴られて俺の意識は天に召された。
「ん……」
目が覚めると後頭部に柔らかい感触。
そして額を優しく撫でる手触り。
「起きた…?」
ほどよい膨らみの向こうから微笑む佐竹先輩の顔が覗いた。
慌てて身を起こすと見慣れない空間で、椅子に腰かけるヘカテリーヌと銀髪の二人組がこちらを見ていた。
「ノックもなしに開けるからそうなるのよ」
何となく状況を思い出してきた。俺達は勇者の装備を探しに竜の巣へ行くため、竜殺しの騎士に会いに来たのだった。
「すいません……」
「い…いえ……鍵をかけなかった私も悪いので……」
竜騎士のお姉さんは恥ずかしそうにうつむいて顔を隠す。
どうやら生真面目で穏やかな性質であるらしい。
「あーら駄目よ、女の子の着替えを覗いたんだから責任とってもらわなきゃ」
しかしおばさんは穏便に済ませるつもりがないようだ。
「この子やたらごっつい鎧いーつもっ着てるから嫁の貰い手がなかなかいなくてねぇ、勇者様のお仲間なら安心だわ~」
「お母さんっ…!?」
「母さんだっていつまでも居てあげられないんだから、いい加減、孫の顔くらい見せておくれ」
「……」
竜騎士様は手を足の間に挟んでもじもじと体をよじる。
うつむいた横顔は赤く染まり、チラチラとこちらをうかがってきた。
そんな顔で見られても困る。
「駄目ですよ、曜君は私が貰うんです」
「!」
先輩が首に手を回して抱き寄せてくる。
甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「あんた達そんな関係だったの!?里美はどうするのよ?!」
ヘカテリーヌが茶々をいれてくる。
「なんだい女なら誰でもいいクズ野郎か、クーちゃんこいつだけはやめときな」
俺の評価を犠牲に話は収まったみたいだ……。グスン。
「それで、今日はどのような御用ですか?」
「私達、勇者の装備を探してて、それが竜の巣にあるんじゃないかと思ってるの」
「なるほど、あそこは人が滅多に立ち入らない場所ですからね、つまりは手強い竜がいるということですが…」
「そう、だから貴女の力を借りたいの」
ヘカテリーヌがそう切り出すと予想とは裏腹に竜騎士は沈鬱な顔つきになる。
「悪いけど、可愛い一人娘を危険な目にゃ逢わせられないね」
うつむいて黙ったままの彼女の代わりに答えたのはお母さんの方だった。
「どうして?だって、以前は竜を倒したんでしょう?」
「ふん、そこのクズ野郎なんかを連れてるパーティなんて信用できるかい」
「ちょっと!それは言い過ぎでしょ!!」
ヘカテリーヌが激昂して机を打つ。立ち上がった拍子に椅子が吹き飛んだ。
「そう怒るなよ」
このままでは話もできない。
「だって…」
お前がそんな風に怒ってくれるだけで充分なんだ。だから俺は冷静でいなければ。
ここまで言うって事は何か別の理由があるんだろう。
「すみません、今日は帰っていただけませんか…」
すると今度はクルスディーネさんがそうきりだした。
「どうして…」
「すみません……」
暗い表情に立ち込める暗雲は何かを隠すようだ。
家主にそう言われたら無理に居座ることはできない。
仕方なく俺達は家から出ていく事にした。
「カタクラさんが素晴らしい人格者であることはわかっていますので、母も本心ではないと思いますし……」
「いや、そこまでじゃないですよ」
見送りにきたクルスディーネさんが頭を垂れて中へ戻っていった。
「どういうことよいったい」
少し離れた場所でヘカテリーヌが憤る。
「でも、どうすればいいのかしら」
俺達だけで竜の巣に向かうしかないのだろうか。そうなるとまともに戦えるのがヘカテリーヌだけになってしまう。
「てゆうかハルシャークはどこ行ったんだ?」
「あいつ?えーと……」
「お呼びですか、我が勇者よ」
「うわぉっ」
急に現れんな。
「エルフの森で聖気を操る鍛練をしていましたが、皆様が出立したと聞き追いかけてきたのです」
「うまくいってるの?」
「……残念ながら」
先代村長が編み出しラジュさんが受け継いだ魔族に対抗する為の術。
いいなぁ、俺もそういうの欲しい。
しかし俺のジョブは鍛冶師、剣を作れても奮うことはできない。
ぐ~~。
すると重く響く音。
発生源に目をやるとヘカテリーヌと目があった。
「何よー、しょうがないでしょ。生理現象なんだからー」
お腹をおさえて頬を染めて言い募る。
別に何もゆうとらんでしょうが。
「おいたわしや、できることなら我が身を食して頂きたいですがそれも叶わぬこと。なぜなら」
「さっさとご飯屋を探しましょう」
「これはこれは勇者様、よくぞいらっしゃってくれました」
突然声をかけてきた初老の男性。
「私はこの国の長を努めております。聞けばお食事をご所望との事で、よければ私にご馳走させていただけませんか?」
「はぁ…」
無下に断るのもなんなので、俺達はやたら腰の低いおじさんについていくことにした。




