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二歩下がって…

時の秘宝をぶっ壊して元の世界に戻ってくると、どうやら日付が二日程前に戻っているようだった。時の塔に潜ったせいかもしれない。

つまり今日は平日だった。

しかし既に時刻は午後、それでも俺はどうしても気になることがあり学校へと向かった。

息をきらして通学路をかける。

校門をぬけ無造作に上履きに履き替え階段を駆け上がる。

「いったっ……」

爪先を強打したが構わず走る。

そして目当ての教室の扉を開けた。

「先輩…!」

そこは三年C組、佐竹 紫摺先輩の教室。

「授業中だぞ」

「え……あ」

そういえばそんな時間だった。

教室中の視線がこっちに向いている。

冷や汗が洪水のように溢れてきた。

「すみませんでしたっ」

慌てて扉を閉める。

その間際、先輩と目があった。

眼鏡の奥の瞳は大きく見開かれていた。

その後俺は自分の教室に戻って普通に授業をうけた。

「急に来たからビックリしたよー、あれ?そういえば何で休んでたんだっけ?」

HRが終わると里美が話しかけてくる。

記憶に混乱が生じているらしい。

「悪い今日は先に帰っててくれるか」

そう言うと一瞬黙った後笑顔で了承してくれた。

里美と別れた俺は再び三年生の教室へと向かった。

しかし既に教室は放課後のムードでそこに先輩の姿はなかった。

くそっ。逃げられたのか?

俺は急いで校門へと向かう。

学校を出られたらもう追いつけない。

「!」

息をきらして校舎から出た。

そこで不意に立ち止まってしまった。

佐竹先輩と里美が会話していたからだ。

いつの間にそんな関係になったんだ。

俺は汗を拭うとゆっくり二人に近づいていく、やがて話声が聞こえてくるが穏やかな感じでは無さそうだった。

「先輩」

横合いから声をかけると今度は睨むように目を向けられた。

里美はなぜか心配そうな顔をしていた。

「悪い、先輩と話したいことがあるんだ」

「…うん」

里美はそのまま離れていき俺と先輩は後に残される。

「えと…場所を変えても良いですか?」

少し黙った後小さく頷いた。

俺達は校舎の屋上に移動する、ここなら話を聞かれることもない。

「確認しますけど、先輩は同じ時間を何度も繰り返しているんですよね?」

そう言うと先輩は大きな瞳をいっそう見開いて驚く。

「どうして……」

それはどうして知っているのか、という問いだろうか?

「時魔法の塔で会ったじゃないですか、あれが俺です」

「…そう」

「…それで、先輩に伝えたいことがあって」

どう言えば良いのかわからなかったが、隠しとおす事はできないので今はっきりと伝えるしかない。

「あの後そばにあった水晶をぶっ壊したんです。だからもう、大丈夫だと思いますよ」

先輩は時の呪縛から解放された。

何度繰り返したかわからないが性格が変わってしまう程の苦しみから解放された筈だ。

だけど先輩の表情は暗く沈んだままだ。

たぶんそれはもう戻らない関係を思ってのことだろう。

先輩が俺と過ごした時間、それはかけがえの無いものだっただろう。

けれどもやはり俺にはどうしようもなかった。

そいつは俺であって俺ではないのだから。

どれだけ言葉を取り繕ったところで奇妙な差は埋まることはない。

先輩を助けたい、暗い穴から引き上げてあげたい。

その思いは本当なのに、実際に彼女を心から愛する事はできない。

自分が酷く歪なものに思えた。

「それだけ伝えたかったので……」

いたたまれなくなって、その場から逃げ出したくて、俺は先輩に背を向けた。

それで終わりだと信じたかった。

「待って」

だが突如かかる制止の声。

抗えるはずもなく振り向いた。

風の音が通りすぎる。

長い沈黙。

意を決したように先輩は口を開いた。

「私を貴方の仲間にして」

時が止まったのかと錯覚するほどこの時俺の思考は固まっていた。

しかし先輩の宣言は終わらない。

「私諦めない。もう一度、貴方を振り向かせて見せるから。私を好きにさせてあげるから」

全てを聞きおえてようやく時間は動き出した。

俺と先輩の新しい時間が。



次の日。

時魔法のせいで二日ほど時間が巻き戻り今日もまだ平日。

同じ授業をもう一度受けねばならないと思うと三割増しに気分が落ち込む。

けれど佐竹先輩はこの何百倍もの苦痛に耐えて来たのだと思えば奮起せずにはいられない。

顔を叩いて気合いを入れると鞄を持って玄関に向かった。

ピンポーン。

するとインターホンが来訪者を告げる。

「はーい」

里美がパタパタと靴を履き替え入口を開ける。

そして俺は目が離せなくなってしまった。

そこにいたのは佐竹先輩。

だけどいつもの彼女ではない。

無造作に延び散らかしていた髪は綺麗に肩口で切り揃えられていて、眼鏡ではなくコンタクトになっていた。

誰だかわからなくなる程の七変化だが、一年前のミス帝陣コンテストでの姿を覚えていたのでなんとか認知できた。

あの時の先輩が還ってきた。

「かわいい…」

里美が思わずといったふうに呟く。

「曜君はどう?」

「え…えと…」

同意しかない。

しかしそんな事を堂々と言えるような男ではないのだ、俺は。ていうか曜君とは?

「せっかくわざわざ見せに来てあげたのにな~」

「……!?…!」

昨日の今日でパンチが効きすぎている。

初な男の子である俺には効果抜群どころかオーバーキルだ。

「まあ、かわいい反応だったからいいけど」

もうだめだ。勝負になる気がしない。

本気をだした先輩がここまで強力だと思わなかった。

「曜ちゃん、そろそろ時間だよ」

放心状態の俺は里美に手を引かれながら家を出た。

学校に近づくほど周囲が騒がしくなる。

校内一の美女が帰還したのだ。それも当然かもしれない。

しかしその隣にいる俺はなんともいたたまれない。

「先輩…そろそろ」

「うん、またね片倉君」

別れた後も奇異の視線にさらされながら下駄箱に向かった。

「おい、曜、曜!どういうことだよ!」

中学からの付き合いで俺のたった一人の友人であり、高校デビューしたものの彼女の意向で元に戻りつつある茂庭 駆流がふためきながら駆け寄ってくる。

「何でお前が佐竹先輩といるんだよ?!しかも昔みたいに戻ってるし!」

「いろいろあってな…」

「そのいろいろの部分をきいてんだよ!」

説明するのもめんどくさい。適当にあしらっておこう。

「少なくともお前が想像してるような事はない」

「そうか…、てっきり異世界転生してチートでハーレムでも作り始めたのかと…」

「バカ、現実とアニメを一緒にすんな」

「だよなー、ハハハ」

そんな話をしながら教室に向かった。

そして昼休み俺はとある場所に向かうために席をたった。

廊下に出るといまだに俺をチラチラと見てくる奴がいる。

この分ならきっとあいつの耳にも入っているだろう。

階段を上がり突き当たりに出る。

そこには同じ校内かと疑うほどの豪勢な扉が設けられていた。

それに手を伸ばす。しかし俺が触れる前に扉は自らその口を開いた。

「お待ちしていました」

中から出てきたのは羽柴 女神。生徒会書記を務めている女子生徒だ。

どうやら俺が来るのは想定済みだったようだ。

「?」

横を通りすぎる時一瞬睨まれた気がした。普段から部長面なので気のせいかもしれない。

生徒会室内に入ると役員が勢揃いしていてなんとも威圧感がある。

なかでも一番の圧力を放っているのが中央の会長席に陣取るジャイアントカイチョウ号だ。

「それ、まだ捨ててなかったのかよ」

「捨てる?何を言っているのかな?」

はりぼての口が動きどこからともなく声が聞こえてくる。

無駄に凝ってんな。

「まあいいや、佐竹先輩の件は聞いてるよな?」

「ちょっと、先輩にその言葉使いはなんですか!」

突然口を開いたのは右側手前にいる女子役員。

会長と同じぐらいの背丈で丸々とした瞳を一生懸命細めて睨み付けようとしているのが可愛い。確か会計の丹羽 春葵だったか。

言われて気づいたが二日巻き戻った事で会長は俺の家にはまだ来ていない事になっている。

つい砕けた口調を使ってしまったが一緒に過ごした時間も無くなってしまったのだ。

「リストにあった問題をクリアしました。これで条件は達成された筈です」

「確かに……いったい何をしたのだ?」

「……言えません」

「例の不可思議な法則を使ったんじゃないんですか?」

口を挟んだのは羽柴書記。

不可思議な法則とは夜の学校で見た白い影のことだろう。結局あれの正体はわかっていない。

その事を聞いても他のメンバーが憮然としている辺り既に周知されているんだろう。しかも俺がそれを扱える事になっている。

「まさか、そんな訳ないでしょう」

「嘘よ、貴方は嘘をついている」

「もうよい、サル」

すると巨大会長の後ろから本物の会長が飛び出してきた。

「よかろう、貴様は解放してやる」

「そりゃどうも」

用件は済んだ。俺は反転して出口へ向かう。

「そうだ、うちのアパートに引っ越して来るとかやめてくださいね。ゲームとかならいつでも付き合いますけど」

そして部屋を後にした。

その後はいつものように授業を受け帰宅した。




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