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始まりの終わりの始まり

まだ日が出ている時間だが洞窟内は暗く冷ややかだ。時おり肌を撫でる風に身震いしながら進んでいくと徐々に光が大きくなって来た。その正体は岸壁に飾られた松明だったのだ。明らかに人工的に作られたものだ。

「お前、知ってたか?」

「ううん、こんなところに人が住んでるなんて聞いたことない」

火がついているということは今も日常的に使われているんだろう。

ごくり、と生唾をのむ。いったいこの先にどんな秘密が待っているのか。

俺達は転々と飾られた松明に沿って奥に進んだ。

「これは…」

暫くすると開けた空間に出た。奥にはまだ穴が続いていてここがゴールではなさそうだ。

視線を横にやるとそこにもいくつか穴が開いている。しかし細い棒で行く手を塞いでいるので小さい部屋のようになっていて、その中では人の形をしていたであろう骸骨が、それも今は昔と横たわっていた。

「これは…牢屋なのか?映画のセット…とかじゃないよな?」

冷たい風に仄かに混ざる異臭に顔をしかめる。間違いなくここはそういう場所なのだろう。

初めて見た。

映画や漫画、それこそ創作物では人の生き死には茶飯事だ。生の骨も親族の火葬場で見たことならある。

だがこの惨状はあんまりではないか。むき出しの岩肌に着るものもそのままに横たわっている遺骸達。彼らはこんなことになるために産まれてきたというのか。いや、死んだ後すら誰にも顧みられずにいる。

もしも、もしもだ…。

もしもこの中に里美がいるとしたら…?

「あぁっ」

思わず叫びそうになった時、そっと誰かが俺の袖をつかんだ。それでなんとか正気を保つことができた。

「これは魔物の仕業なのか?」

横にいるヘカテリーヌに問いかける。しかし彼女の声は返ってこなかった。俺の袖を掴むその手は震えているようだ。

「ヘカテリーヌ?」

「え?あ…」

またしても彼女の返事は要領を得ない。

「きついのか…?」

「そうじゃ…なくて」

彼女は唾を呑むとようやくゆっくりと話始めた。

「魔物の仕業じゃ無いと思う。あいつらは人を食い散らかすけど、生きたまま捕らえたりはしないはずよ」

魔物の仕業じゃ無いとするといったい誰の…。

その時俺はある結論に辿り着いた。恐らくヘカテリーヌも同じ事を考えたのではないか。

「人間…」

最初と同じように返事は返ってこなかったが、袖を掴む手がぎゅっと、りきんだ。

「…いったん戻りましょう、私たちの手におえる問題じゃないわ。町の衛兵に相談して」

「ダメだ」

洞窟内に声がこだまする。思ったより大きな声を出してしまったようだ。

それでも俺は関をきったように話し続ける。

「もしここに里美がいたら…、ちんたらしてる余裕はないんだ」

俺は袖を掴むヘカテリーヌの手を振りほどいた。

「お前は助けを呼んできてくれ」

そのまま洞窟の奥まで駆け出した。

ふと気配を感じて突出した岩肌に身を隠す。

そっと様子を伺うと何かがのそのそと歩いてくる。

松明に照らされてその顔が暗闇に浮かび上がった。

モンスターだ。

苔むした豚の頭がよだれを垂らしながら酔っぱらいのように横揺れしながら歩いてくる。

やはりここはモンスターの住みかなのだろうか。

ヘカテリーヌが嘘を言っているとは思わない。

だが俺はこっちでの時間が短い分、全てを鵜呑みにはできないのかもしれない。

そっと、腰に吊るした剣の柄に触れる。

脇差しほどの長さで洞窟の中でもとり回しやすい。ここに来たときから身に付けていた代物だ。

ジャリッジャリと獣の足が大地を踏みにじる音が一定のリズムで近づいてくる。

やがてブッッルウブルウゥ、という吐息まで聞こえるようになった。

外は斬撃の効きづらいスライムばかりだったので俺はまだまともにモンスターを倒したことがなかった。

できるだけ静かに深呼吸して呼吸を整える。

首筋を汗が伝った。

今だ!!!

グモオオオオオオオ!!!

!?

その時だ、俺の後ろから雄叫びが上がった。

振り向くと目の前で豚顔のモンスターが前足を振りかぶっていた。

何も考えられなかった。

直後、鋭い蹄が俺の脳髄をぶちまけようと直進してくるその途中、ザブッという音がして豚男は勢いのまま横に倒れ付した。

赤黒い鮮血のその向こうには剣を振り抜いたヘカテリーヌが立っていた。

「後ろ!」

「!」

俺は咄嗟に剣を抜いて振り返った。そしてそれがたまたま豚男の首筋を穿ち、俺の初討伐となったのだ。

「はあっ、はあっ、はあ…」

「大丈夫?」

ヘカテリーヌが優しく背中をさすってくれる。

俺は思わず彼女に抱きついた。

「ちょっ、ちょっと!?」

「悪い、助かった」

今も手足が震えている。

もし彼女が来てくれなかったら、俺は訳もわからないまま再び死を迎えていただろう。

その瞬間を想像するだけで恐ろしい。

人間とはああも唐突に死ぬものなのか。

「ありがとなヘカテリーヌ」

「わかった、わかったから、離してよぉ」

ようやく手を離すとヘカテリーヌは離れていってしまった。しかし引き返すことはない。

「…ついてきてくれるのか?」

「当たり前でしょ、ていうかあなたそんなんでまだ進む気なの?」

いまだ心臓はバクバクと早鐘を打っていた。

それでも進まない訳にはいかないのだ。

どんな恐ろしい目に遭ったとしても、それが里美の身に降りかかるかもしれないと思えば。

「行こう」

あと少し早ければ…、そんなのは最悪だ。

後悔しないためにも今は歩き続けるしかない。


今度は二人で慎重に洞窟を進んでいく。

「人間の住みかにモンスターが入ってくることはあるのか?」

「…町には結界が張られているから。こんなところに拠点を作るなんてよっぽどの事情か、追放された罪人よ」

するとヘカテリーヌが足を止めた。

「何か聞こえる」

「?」

俺も立ち止まって耳をすませる。

ポタリポタリと地下水が滴る音に紛れて、確かに不自然な旋律が聞こえた。

その瞬間俺は勢いよく走り出す。

「ちょっ、ちょっと!?」

間違える筈がない。その声は常に傍らにあったんだから。毎日毎日、飽きるくらい聞き続けて来たのだから。

「もう、なんなのよ!」

最近はもう聞こえなくなってしまったその音の源にめがけて、一心不乱に駆け続けた。



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