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人喰いの森

なんとかスライムから逃げ切った俺達は息を切らしながら鬱蒼とした森を進んでいた。

ここは人呼んで人喰いの森、名前の通り一度入れば戻ってこれない死の森だ。

故に中に何があるのか誰も知らない。

勇者の装備を求めて俺達はやって来たわけだが……。

「ロープが切れた」

迷わないように森に入ってから直ぐの木にくくりつけてここまで引っ張ってきたものだ。

「誰かが切ったってこと?魔物?」

「………」

そういえば森に入ってから一度も魔物にでくわしていない。

そもそもあいつらは生き物以外興味ないので縄を切るかは微妙だが。

「他の生き物かもしれない、とにかく先を急ごう」

「そうね、コンパスもあるし大丈夫でしょ」

磁気が乱れなきゃいいけどな。どういう仕組みかはわからんが。

とにかく日の入りづらい暗がりの森だ、あんまり長居したくない。

「ねぇ、何か話してよ」

黙々と歩いているとヘカテリーヌがそんなことを言ってくる。

ふりが雑すぎる。

「何でだよ…」

「だって…静かだと…怖い」

「勇者の癖に」

「うっさい、怖いものは怖いの!」

グワワァ。

「ヒィッ!?」

彼女の叫びにどっかの鳥が反応する。

「おい、くっつくな、歩きづらい」

「だから何か話してよ~」

そんなこと言われても…。

「そういえばさっきから何かに見られてる気がする」

「バカなの!?よけい怖くなるでしょうが!!」

しかし気にしない訳にもいかない。俺の自意識過剰なら良いんだが。

「嘘…」

突然ヘカテリーヌが立ち止まる。

「どうした?」

「コンパス壊れた」

見ると針がグルグルと回り続けている。

「どうしよう、どうしよう、どうしよう……」

落ち着け。

「切れたとはいえロープは木が密集してて簡単にはずれないし、樹皮に印もつけてるだろ。いざとなったら引き返せばいい」

そんなに広い森じゃないし真っ直ぐ行けば外に出る筈だ。

俺達はなおも進み続ける。すると木々の隙間に明らかに不自然な物が見えてきた。

「何?あれ!」

「ばか走るな」

「うぎゃっ」

ほら見ろ転んだ。

「いたた…何よもぅ……ヒィィッ!?」

つまずいた何かにヘカテリーヌは恐怖の叫びをあげた。

「骨…か?」

それは朽ちかけた頭蓋骨だった。

人類のものに見える。

直後さらさらと崩れ落ちてしまった。

「お前が蹴飛ばすから」

「ごめんなさい、謝るから!呪わないでぇ!」

拝みたおすヘカテリーヌを横目に俺は奥にあるものを臨む。

そこにあったのは骸骨と同じように朽ちかけた建物の群れだった。

何かの集落だろうか、こんなところに…?

とりあえず中に入ってみる。

「ちょっと、呪われるかもしれないわよ!」

「そんな事言ってたらかわいそうだろ、古いからって怖がるなよ」

「そっか…、それもそうね」

気を取り直して俺達は遺跡の調査を始める。

とはいえちょっとした岩の壁が建っているだけなのであまり見るものもないんだが。

「………」

「どうかした?」

「いや、前にも似たような事をしたような…」

「ふーん、そういうのが趣味なの?」

そんなはずはないんだが…、なんだろううまく思い出せない。モヤモヤする…。

「うぎゃっ」

するとまたしても悲鳴が響く。

「また仏さんか」

さっきから幾つも見つかっている。

「なんなのよ~ここ」

ここまで放置死体が多いということは何かに襲撃されて滅んだって可能性が高い。

いったい何に襲われたのか。

「魔物か、人災か、不運か、殺人ウィルスか……」

「これが人喰いの真相なの…?」

「どうだろうな、だいぶ昔のものみたいだし」

そもそもここに暮らしていたなら人喰いというイメージとはかけ離れている気がする。

「それでどうするんだ?大したものは無さそうだが…」

「この人達…ずっとここに居たのかな…」

まあそうだろうな。たぶんこれからも。

「どうにかできないの?」

葬儀の仕方は地域によって違うからな。

もしかしたら放置するのがこの村の習わしだったかもしれない。

まあ臭いが酷いだろうし可能性は低いが…。

「ハルシャークがいればなんとかなったかもしれんが」

あいつ一応聖職者だし。

「まったく…肝心なときに居ないんだから」

お前が毛嫌いしたせいだけどな。

「もうすぐ日がくれるルゥ」

もうそんな時間か。

「じゃあここで野宿かな」

「ヴぇぇ…」

いったいどこからその声出してんだ?

「ひ、引き返しましょうよ!」

「今からだと日没に間に合わないし、ここはいい感じに拓けてるし」

「だ、だって、骸骨さんが…」

お前さっきそいつらの事心配してただろうが。

「それならこれを使うルゥ」

するとルルが大きく口を開ける。

中から更に大きなクローゼットが出てきた。

いつも使っている宿屋のクローゼットだった。

「まさか……」

扉を開けると中には歪む空間。

俺達の世界とこっちの世界とを繋ぐ異次元の扉だ。

「お前、これごと持ってきたのかよ」

「ルゥの口は何でも入るんだルゥ!」

エッヘンと胸をはる聖なる獣。

しかし勝手に持ってきてよかったのか?

まあ勇者だからいいか。

俺達はクローゼットの中に入って向こうの世界へと戻る。

「って、イヤァー!?」

そういえば裸になるんだった。

「曜ちゃん?戻ってきたの?」

すると里美が様子を見に来た。

ヘカテリーヌが俺に馬乗りしているところを見られてしまった。

しかし里美は笑顔を絶やさない。

「早く着替えたら?」

「お、おう」

とりあえず服を着て部屋を出る。

「今日は泊まってくるんじゃなかったの?私は嬉しいけど…」

「予定が変わってな」

一緒に台所に立って晩飯の準備をする。

「ヘカテリーヌちゃん、こっちの世界ではおっぱいを触り合うのが挨拶なんじゃ」

「ああ、だからヨウはいつも触ってくるのね!」

「嘘を教えんじゃねー!」

あとそんなに触ってねー、見てはいるけど。

ガッシャーン。

「大丈夫か?」

「うん」

割れてしまった皿を片付ける。

「すごーい、こんな美味しいもの食べたことない!」

今日の献立は旬の食べ物をふんだんに使った野菜カレー。

よほど舌にあったのかヘカテリーヌはものすごい勢いでかっ込んでいく。

「ごほっごほっ」

「いっぱいあるから、落ちつていね…」

里美がコップを渡す。

それを飲んでようやく一息ついた。

「お父さんやお母さんにも食べさせてあげたいな…」

「…持っていってあげて…」

異次元の扉を潜るとなぜか持ち物が散らばってしまう。

食べ物は難しいかもしれない。

向こうで再現できればいいんだが…。

「ところで、わしのご飯は?」

「一週間飯抜きっていったろ」

「そんなぽっと出のセリフ読者は覚えとらんじゃろー!?」

「ぽっと出だろうと伏線は伏線だ」

「かわいそうじゃない、私のをあげるわ」

「優しぃのー、どうせならヘカテリーヌちゃんのミルクでもええんじゃよ?」

「どういう意味?」

「おじいちゃん?食事中」

「はい、すみません」

そんな訳で賑やか?な食事も終了して俺達はそれぞれの時間へと戻り始める。

「お前の部屋はここな」

適当に空いてる部屋をあてがう。ちょっと埃っぽいかもしれんが一晩くらい大丈夫だろう。

「……?」

しかしヘカテリーヌはなかなか入ろうとしない。

「どうした?」

「……私一人?」

は?

「何いってんだお前」

「だって、さっきの骸骨さんとか思いだしちゃって…」

だから怖いと…?

そうはいってもなぁ。

「サトミぃ一緒に居て!」

「え!?」

様子を見に来た里美に抱きつくヘカテリーヌ。

「ええっと……」

「頼めるか?」

「曜ちゃんがそう言うなら…」

「わーい、ありがとう!」

里美に頬擦りするヘカテリーヌ。

うむ、悪くない。

「里美に変なことすんなよ」

「しないわよ、ヨウじゃあるまいし」

「何の事だよ」

「ヘカテリーヌさん、お部屋でお話しよっか?」

「うん、ヨウは来ちゃダメだからね」

「行かねぇよ」

というわけでヘカテリーヌは里美の部屋で寝ることになった。

そして次の日の朝。

二人がなかなか起きてこない。

そこで仕方なく部屋に入ると、二人はスヤスヤと眠っていた。

その手はかっちりと握られている。

きっと遅くまで話し込んでいたんだろう。

「起きろーもうすぐ9時だぞー」

むにゃむにゃ。

呼び掛けても起きる気配はない。仕方なく揺さぶろうとすると…。

「うわっ」

寝ぼけた二人に腕を引っ張られる。

そのまま楽園へとダイブした。

「女の子の部屋に無断で入るなんて信じられない!しかもベッドにまで…!」

「お前らがいつまでも寝てるからだ、不可抗力だ」

「ごめんね…目覚ましセットするの忘れてて」

「里美は悪くない、いい年して一人で眠れないこいつが悪いんだ」

「はぁー?しょうがないでしょうが!あれは!」

「そんなことで大丈夫なのか?今日も行くんだろ?」

「……わかってるわよ」

というわけで朝食を終えた俺達は異次元の扉を前にする。

「ちょっと待って、これに入ったら裸になるのよね?ということは……」

「どうせ誰も見てないだろ」

繋がっているのは昨日の森だ。

「最悪……」

いちおうルルが森の外まで運べばいいんだろうが面倒なので黙っておこう。

「あんた先に行ってよ…」

「しょうがないな、ちゃんと来いよ」

俺は歪む空間に飛び込む。

「え?」

そして視界が開けるとそこは木々に覆われた不気味な森、ではなかった。

「誰か出てきたぞ!?」

「きゃー、裸よ!」

「なんだあいつ?!」

ザワザワザワ……。

周囲を囲む人だかり。

怪しげな森に放置された廃墟は見るかげもない。

目も眩む青空と降り注ぐ太陽光が俺を襲った。




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