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冒険の始まり

目の前で眩い輝きを放ちながら揺れる黄金の髪。

横顔から覗く瞳は蒼く瞬き、くりくりと可愛らしくありながらも気高い意志の強さを感じさせた。

「この鎧を売るわ、それと交換して」

「毎度あり」

女の子は老婆から豆を受けとるとさっさとこちらに歩いてくる。

「行きましょ」

「」

そのまま横を通りすぎて店を出ていってしまった。俺は唖然としてその場を動けなかった。

「ちょっと、何してんの?」

向こうから呼ばれてようやく俺は後を追いかけた。

再び噴水の前まで戻ってくる。

「はいこれ」

食べると幸運が訪れるという豆を投げ渡してきた。

「わっわっ」

「どうしたの?さっきからボーッとして?」

「べっ別に…」

まさかあのド派手な鎧の中身がこんな美少女だったとは。これまでは普通に話せたはずが意識してしまうのか口の滑りが悪い。

どうせこんな娘とどーこーなることなど絶対にない。向こうはただの善意で付き合ってくれているだけなのだ。なのに緊張してしまうという悲しきSAGA。

俺は豆を飲み込んでそれをごまかす。

「ごほっごっほっ」

「ちょっと、大丈夫?」

「ダイジョブ、ダイジョブ…」

女の子が背中をさすってくれる。何をやっているんだ俺は。

「どう?なんかキてる感じ、ある?」

「…わからん」

本当にこれで幸運が舞い込んでくるのだろうか?

「よかったのか?あの鎧売っちゃって」

「良いのよ、安物に色塗っただけなんだから」

「え?お前、100万、パニー?って」

「あるわけないでしょ」

女の子は得意気に胸を張る。豊かな胸がたゆんと揺れた。

「それって勇者としてダメじゃね?」

「え?」

「それって詐欺とかになるんじゃ…」

「だ、だだだいジョブよ、向こうだってOKしたんだし!」

「そういうもんか」

「そういうものよ」

この世界の法律はどうなっているんだろう、俺には知るよしもないが。

「何よ、せっかく助けてあげたのに!」

大丈夫なのに女の子はご立腹のようだった。

とりあえずここに居てもらちが空かない。どうせ幸運が舞い込むならこっちからも歩いていくべきだ。

「町の外に出ようと思うんだ」

「そうね」

女の子は意を得たりというように頷いた。

女の子…。

「そういや名前を聞いてなかった」

「私?ヘカテリーヌよ」

「片倉曜だ」

「カタクラヨー?変な名前」

「ほっとけ」

「まあいいわ、宜しく」

「ああ、宜しく」

俺とヘカテリーヌは固く握手を交わした。



「み、見るな~~!!」

「そんなこと言われても…」

そんな俺達の船出はあまり芳しいものではなかった。

今、目の前ではヘカテリーヌがあられもない姿で拘束されていた。

こうしている間にも衣服が溶かされて白い柔肌が露になっていく。これが幸運か!

「くっ、このぉ」

ヘカテリーヌはなんとか振りほどこうとするが体に張り付いたスライム状のモンスターは絶え間なく這い上がってくる。

「うぅ…」

このまま口まで到達してしまえば呼吸ができなくなってしまう。

「くそっ!」

俺はヘカテリーヌとは反対側へと走り出す。

「あ…、待って…」

その後急停止→Uターンして来た方向にとって返す。

「オオオオオオオオオオオ!!」

勢いのままヘカテリーヌに向かって飛びかかった。スライムどもを弾き飛ばしてそのまま二人で転がっていく。

「はあ、だいじょぶか?」

「もう、最悪…」

スライムの破片がこびりついてぬるぬるする。

手のひらに大きめの塊が当たる。それをひっぺがそうと指に力をいれた。

「あっ」

指先が滑ってうまく掴めない。なんとか持ち上げようと奮闘するがどうもうまくいかない。

きっと触覚だけを頼りにするから悪いのだ。

しっかりと視界に収めようと体を持ち上げる。

しかし俺の手の中にスライムなどなかった。

あったのは雪のように白いおっぱいだった。

そのまま俺は真横に2メートル程吹っ飛ばされた。

「痛てぇ…」

「変態…」

赤くなったほっぺをさすりつつ俺は外套を脱いでヘカテリーヌに渡す。

「……」

「……」

なんか妙な雰囲気になってしまった。

いけないと思いつつ俺は右手にやんわりと残る感触に意識を奪われる。

触ってしまった、触ってしまった、触ってしまった、触ってしまった、触ってしまった、触って…。

慌てていたのであまり覚えていないのがよかったのか悔しいのか。

「……った」

「え?」

「逃げるのかと思った…」

外套に顔を埋めてヘカテリーヌは呟く。

まだ俺は信用されていないらしい。

今日あったばかりなのだから当たり前だ

それでも俺がヘカテリーヌに感謝しているのは本当だ。できる限り彼女を裏切るような事はしたくない。

「行こうぜ、あいつらが集まってきそうだ」

「うん」

彼女に手を伸ばすとそれをぎゅっと握り返してきた。

「第一、なんのジョブにもついてないのがおかしいのよ」

「だからジョブってなんだよ」

神と契約することで特別な力が引き出される職業のことらしい。

グヲヲオヲヲヲオオオオオオオオオオオ!!

「「うわああああああああああ!!」」

俺達は雄叫びの聞こえた方の反対へと全力で走る。

「てゆうか、お前、何で勇者の癖に、弱いんだよ!」

「うっさい、勇者も、最初は、弱いのよ!」

「あそこだ、あそこに隠れるぞ!」

俺達はちょうど目の前に見えた洞窟へと逃げ込んだ。

「はあ、はあ、はあ、くそっ!」

岩肌に身を預けてながら憤る。

ちっとも思い通りに進まねぇ。何が幸運を呼ぶ豆だ。

今こうしてる間も里美が死にかけてるかも知れねぇってのに。

何をやってるんだ、俺は!

「?」

ふとヘカテリーヌに目をやると洞窟の奥をじっと見ていた。

「どうした?」

「何か…光った気がして…」

光った?

俺も隣にたって目を凝らす。

チカッ

「!?」

確かに一瞬光った気がした。

「行ってみる?」

「………ああ」

こうなったら怪しいところはしらみ潰ししていくしかない。

俺達は薄暗い洞窟の中を進むことにした。




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