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日帰り旅行

いろいろあったゴールデンウィークも残りは二日、これが過ぎるとこれまたいろいろあった体育祭がやって来る。

いろいろありすぎてぜっさんお疲れ中の俺はベッドの上で体を休ませていた。

回復魔法で目に見える傷は治したものの、のし掛かる疲労感にはまいる他ない。

何か疲れを癒してくれるようなイベントが舞い込んでこないだろうか。

コンコン。

すると部屋のドアがノックされる。

部屋を訪ねる奴なんて里美以外にいない。俺は条件反射で招き入れた。

「商店街の福引きで当たったんだけど…」

見せてきたのは日帰り温泉のペアチケットだった。

期日はゴールデンウィークいっぱいとなっている。

「最近曜ちゃん疲れてるみたいだから、おじいちゃんと二人で…」

「それはない!」

どうしてあの老いぼれじじいと二人でお出かけせにゃならんのか。かといって里美をいかせるのはもっとない。

「おじいちゃん一人お留守番だと大変だろうし…」

「心配するでないぞ」

すると件のじいさんも顔を出した。

「わしゃこれからガールフレンドとお泊まりしてくるからの、お主らも羽を延ばしてくるがよい」

そのまま鼻唄を歌ってスキップしながら出かけてしまった。

「えっと…」

「しょうがない、行くか」

こうして俺達は二人で出掛けることになった。

バスと電車を乗り継いで目的地に向かう。

「曜ちゃんは座らなくていいの?」

「座るとなまる」

「なにそれー」

ぶっちゃけめちゃくちゃ座りたい。

だって筋肉痛とかやばいし。

でも一つしか空いてなかったからしょうがないのだ。

「じゃあ、私も立とうかな」

「いや座れよ、勿体ない」

「いいの、なまるから」

「なんだそれ……」

すると電車が大きめに揺れた。

「おっと」

バランスを崩した里美を支える。

「大丈夫か?」

「うん…」

その後電車は安定したが里美は俺の腕を抱えたままだった。

きっとつり革の代わりなんだろう。里美は胸が大きいからか腕を上げるのをあまり好まない。

「昔は…よくお出かけとかしたの?」

少しドキドキしながら過ぎていく景色を眺めていると会話をふってきた。

昔、というのは記憶がなくなる前のことだろう。

「そういや…あんまりしてなかったな」

里美の両親が亡くなってから、家の事で忙しくてなかなか外には意識が向かなかった。楽しむことを避けていたのかもしれない。

「もしかしたら今日が初めてかも」

「そうなんだ…ちょっと以外」

「そうか?」

「うん、すっごく仲良さそうだったから…」

まあ悪くはないと思う。けど俺達は仲がいいというのも何か違う気がする。

「って、何か思い出したのか?」

仲が良さそうだとわかるということは…。

「ううん、ごめんね」

「いや、いいんだ、こっちこそごめん」

お互いに謝ってなんだか変な感じになってしまった。

少しの間沈黙が続く。

俺も里美も会話が得意な方ではなかった。だから何も言わなくてもそれは当たり前で。

今はなんだかこそばゆい。

するとまた里美が口を開いた。

「最初に家を案内してくれたでしょ?」

「あ、ああ、そうだな」

「その時いろんな思い出を聞いたよ、滑って頭をぶつけた柱とか、模様が怖かった天井とか、アイスクリームをこぼした廊下とか」

「そんな話したっけ?」

全然覚えてない。たぶん無意識だったんだろう。

「だから思ったの、曜ちゃんは里美ちゃんの事が好きなんだろうなーって」

「ええ!?」

思わず叫んでしまった。周りの乗客に睨まれる。

「いや…好きとかじゃなくてだな…」

「だから曜ちゃんは悪くないよ、私が独り占めしちゃってるの」

独り占め?どういう意味だろう?

すると電車は目的の駅に到達する。

ホームに降りて改札を抜けて駅を出る。

そこは自然の残る風通しのよさそうな場所だった。

「んーー」

窮屈だったせいか里美は腕を広げて背筋を伸ばした。豊かな胸部が強調される。

「もうちょっと歩くんだっけ?」

「ああ」

バスも出ているが俺達は歩いて行くことにした。

異世界へ行けるようになってからそれなりに便利なアイテムをゲットし生活費を浮かせられているが金銭感覚というものはなかなか変わらないらしい。

歩くのも嫌いじゃないしな。

普段とは違う景色を楽しみながら目的地を目指した。

「スミマアセーン」

その途中見知らぬ人に声をかけられた。

見たところ外国人のようだ。

「ココニイキタインデスケドー」

「ええっと…、これは…向こうの駅から⭕⭕行きで7つめの駅ですね」

「オーサンキュウネー」

お互いに手を振って別れる。

緊張したー。

それからまた歩いて目的の旅館にたどり着いた。

「ねぇ曜ちゃん…」

「ん?」

「さっきの外国人さん、7つ目じゃなくて8つ目の駅じゃなかった?」

「え!?」

うそだろ?

俺は慌てて脳内の地図を開く。

「ほんとだ…、間違えた…」

どうする?あくまで一駅分だ、近くまで行けば気づくかもしれない。でも、もし気づかなかったら騙されたと思うかもしれない。そうでなくても日本観光が悪い思い出になってしまうかも…。

ふと脳裏にヘカテリーヌの顔が浮かんだ、あいつならにべもなく戻るんだろうな。

「どうするの…?」

「ここに居てくれ、ちょっと走ってくる」

そう言い残してダッシュで今来た道を引き返す。

すると里美もついてきた。

「ハプニングも旅の醍醐味だよ」

「いいのか?」

「うん」

そのまま二人で街道を駆ける。

実は里美は運動神経がいい。

勇者だからだろうか?だが聖剣を抜いたのはヘカテリーヌだ。勇者は二人いるんだろうか?

息をきらしながら最初の駅まで戻ってくる。

「いないな…」

改札を抜けてホームに出る。

「いた!」

ちょうど来た電車に乗るところだった。

「ウェイト、ウェイトプリ~ズ!」

呼び掛けるがどうも聞こえていないようだ。

そして扉が閉まり始める。

『駆け込み乗車はお止めください』

なんとか乗り込もうとしたがその前に無情にも扉は閉まってしまった。

車内の外国人さんが俺に気づいて手を振ってくる。俺も手を振りかえした。

「どうしよう…」

俺はホームにあった時刻表とにらめっこする。

「ここで乗り換えて、こっちの急行なら追い付けるかもしれない」

ただ行って戻ってくるとそれなりに時間がかかる。

「行こう」

「でも…温泉が…」

「曜ちゃんと一緒ならどこでも楽しいよ」

そう笑顔で言われたら、断れる筈もない。

俺達は再び電車に揺られ観光客を追いかける。

予定通り駅について待っていると見送った電車が到着した。

そして外国人さんに事情を話す。

「ほんとにすいませんでした」

「オー、ワザワザ追イカケテキテクレタンデスカー、日本ノ人ハステーキデスネ!」

どうやら日本代表としての役割は果たせたようだ。

「コレアゲマス」

すると何やら手渡される。

見ると俺達が行こうとしていた温泉旅館の宿泊券だった。

「ソレジャマタドコカデー」

俺達はまたまた電車で揺られながら今後の予定を相談する。

「えっと…、どうする?」

「泊まるかってこと…?」

「まあ…、でも明後日は学校だし、俺達高校生だし…」

またしても微妙な沈黙が流れる。そしてまたしても口火をきったのは里美だった。

「私は…いいよ」

驚いて隣を覗き見る。

うつむいていて表情はわからなかった。

こうして俺達は宿に泊まることになった。

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