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新しい始まり

徐々に光が収束していく、最初に見えたのは白いレンガで舗装された道とその脇に建ち並ぶ大小様々な建造物、そしてその奥にそびえる大きなお城だった。

見たことのない景色、間違いなくここが異世界だ。

希望に胸を膨らませている場合ではない。

さっと自分の体を見下ろす。特に変わった様子はない。腕も足も二本ずつついていて、尻尾や鱗が生えている様子もない。

辺りを見渡して噴水を見つけた。

水面に移った自分を覗き見る。

まごうことなき人間の顔だった。

例えゴキブリになろうとも里美を助け出すと意気込んでいた手前若干、拍子抜けだが。

とはいえ最初の関門を突破した事に変わりはない。

まずは情報を集めようと通りかかったお姉さんに近づいていく。

「あっ、あの…」

「?」

やっべぇ、盛大に噛み散らかした。

そういえば俺ってコミュ障だったわ。まずは犬とかで練習するべきだったか。

「どうかされましたか?」

しかしこんなにも挙動不審な俺を見てもお姉さんは引くどころか優しく語りかけてくれた。

「そのっ、ここは、どういった町なのでありましょうか?」

「ふふ、旅の御方ですか?ここは王都アウステラ勇者の末裔が納める大陸有数の都ですわ」

つまりはここがはじまりの町というわけか。

「あの、もう一つきいても良いですか?」

「ええ、何でもきいてくださいな」

優しいお姉さんのお言葉に甘えて俺は本題に入ることにした。

「勇者が今どこにいるかわかりますか?」

その言葉を聞いたとたんお姉さんの顔がひきつったように見えた。

「お姉さん?」

「え…ああー、どうだったかしら…?はっそういえばこのあと約束があるんだったわ!それじゃあね!」

口早にそう言ってのけるとお姉さんはそそくさとその場を後にしてしまった。

「…なんなんだ?」

何かおかしな事を言っただろうか?

その後も勇者という言葉を聞いたとたん顔色を変える人が続出し大した情報を得ることもできず噴水のある広場に戻ってきてしまった。

「は~~」

噴水の縁に腰掛けため息をつく。

皆明らかに勇者に対して拒否感を持っている。

里美が彼らに何かしたんだろうか?

ありえないと首をふる。

あいつは確かに天然でドジなところはあるが誰かに迷惑かけたり、かけてもそのままにしたりはしない筈だ。

謝りすぎて逆に謝られたりするくらいだ。

では彼らの反応はいったい何なんだろう?

「君かい?僕を探しているというのは」

突然声がして俺は顔を上げた。

目の前には金色のフルプレートアーマーを着こんだ身の丈2メートルはありそうな騎士がたっていた。

あまりの眩しさに目が焼けそうになる。瞼を押さえながら俺は問い返す。

「いや誰だよ!」

「目をつむっているから見えないのは当然だろう?」

「お前が眩しいんだよ!」

「そうか僕の勇者としての高貴なるオーラは卑しいものには直視できないか」

ちげえよ、物理的に太陽光が目に突き刺さるんだよ。ん?こいつ今。

「勇者つったか?」

「いかにも、君は僕を探していたんだろう?」

あー、なんとなくわかった。町の人が勇者を忌避してたのは全部こいつの仕業か。

「君ね、いい年して勇者とか言ってて恥ずかしくないの?そんな派手なカッコまでして」

「なっ、僕はれっきとした勇者だ!」

「何か証拠はあるのか?」

「そっ、それは…」

「やっぱねぇんじゃん」

「ち…」

「ち?」

「父上から、そう聞いたもん…」

フルフェイスの兜を被っていて顔は見えないが、今にも泣きそうな表情をしていることは容易に想像できた。かわいそうなのでこれ以上の追求はよそう。

グー。

するとどこからともなくうなり声が聞こえてくる。ちがった、俺の腹がなったのか。

そういえばお金を持っていない事に気づいた。

参ったな、今からモンスターと戦わねばならないのか?空腹を意識すると妙に体がだるくなってくる。

「お腹空いたの?」

すると金ぴかの巨人が話しかけてくる。

「ああ、でもお金が無くてな」

「なら僕が奢ってあげるよ」

「えっまじ?」

「うん、困ってる人を助けるのが勇者だからね!」

金ぴかにつれられて近くの露店に寄る。

「どれがいい?」

「任せる」

出てきたホットドックのようなものに勢いよくかぶりついた。

辛味のあるソースとチーズのような粘りけのある何かの旨味が食欲をそそる。あっという間に食べきってしまった。

「おいしかった?」

「ああ、お前案外良い奴だな」

「あ、案外は余計だよ」

金ぴかの騎士は体をくねらせて恥ずかしそうにしていた。

ただの軽口のつもりだったが誉められ慣れていないのだろうか、かわいそうなやつだ。

「それで、誰か探していたんじゃないのかい?」

「ああ、幼馴染みが行方不明なんだ」

「なるほど、それで僕に頼りたかった訳だね」

「実はそうなんだ、てつだってくれるか?」

「もちろんだとも!しかし何か手がかりはないのかい?」

困ったことにそれがないに等しい。

里美はどこにでもいる普通の女の子だ。外見もこれといった特徴がない。

今までも似たような後ろ姿を見かけたらそれとなく回り込んでみたが全てハズレだった。

里美は装備をうまく転送できなくて下着姿になってしまったと言っていた。だからこっちでどんな格好をしていたのかもわからない。

黙りこくっていると金ぴかが提案してきた。

「あそこならもしかしたら…」

「?」

「ついてきて」

俺は金色の背中を追って歩き出す。

しばらく歩いて狭い路地にはいったと思ったら今度は階段を下り始めた。

薄暗い道にキョドりながら歩いていると明るい場所に出る。

扉を開けると奇妙な音楽が流れてくる。辺りを見回すとこれまた奇妙な品々がところ狭しと並んでいた。何かのお店だろうか?

「いらっしゃーい」

「うをっ」

するとじーさんなのかばーさんなのかもよくわからないしわくちゃの老人がどこからともなく現れて声をかけてきた。

「人を探しているんだ」

「うちは迷子は扱ってないよ」

「そうじゃなくて、探し物に使えるアイテムはないの?」

老人は奇妙に首をひねった後おもむろに棚を漁り始めた。

「これなんてどうだい?」

「それは?」

「探し物を破壊する槍だ」

「誰が使うんだそんなもん!!」

「壊せば探さずに済むだろう?」

「逆転の発想!?」

ひねくれすぎだろ、作ったやつは何を考えていたんだ。

「じゃあこれなんてどうだい、代わりになるものを見つけてくれるんだ」

「駄目だ、あいつの代わりなんていない」

「面倒だね、そんなに大事ならなくすんじゃないよ」

痛いところをつきやがる…。

「お婆さん、他にはないのかい?」

ばーさんだったのか、老人はため息をつくとポケットから何かを取り出した。

「ラッキービーンズ、幸運を運んでくる豆さ」

「それで、見つかるのか?」

「さあね」

それいこう老人は黙ってしまった。

「わかった、それをいただこう」

すると金ぴかがそう切り出してくれた。

「いくらだい?」

「100万パニーだよ」

「なっ、高すぎる!」

「店に一粒しかない貴重品だからねぇ」

そういわれてははがたたないのか金ぴかは黙ってしまう。

「無理なら自力で探すんだね」

俺達は何も言い返せずただ時間だけが過ぎていく。

「もういいよ、ばーさんの言う通りだ。大事なものは自分で探さないと」

そう言って俺は店を出ようとする。

「…わかった」

金ぴかも同意する。

俺はもう一度振り替えってかの騎士を見た。

そしてその光景に目を奪われた。

身の丈2メートルはあろうかという、黄金に身を包んだ騎士の姿は何処にもなく。

その場所には、透き通るような金色の髪を後ろに纏めた女の子が立っていた。






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