戦い続き
『それでは気を取り直して二回戦第三試合!!といきたかったのですが、なんと軍事王様のご子息であるバウリーグ様が棄権なさったのでこちらも試合はなし!?王様…これは?』
『…あいつの剣の師はグスダフですから、師より先にいくのはまだ早いと判断したんでしょう』
『なるほどー美しき師弟愛ですなー、それは仕方ありません!それではさらに気を取り直して参りましょー!!四回戦は変則マッチ!昨日行われた一回戦で惜しくも負けてしまった選手の中から抽選で選ばれた二名が復活!三つ巴の戦いに挑む!』
へぇ、そんなルールあったんだな。
『人々を襲うおそろしき竜をほふった気高き騎士、クルスディーネ選手!魔法の国の喧嘩番長、ボダッルフォ選手!そして抽選の結果見事復活を果たした、大海を呑む男、キャプテン・ギャリドゥー!!』
「オッシャー、腕がなるぜ!」
解説おじさんが突然叫びだした。そっか、この人も選手だったな。
続いて登場口に向かったのは全身を鎧で隠した騎士、昨日ヘカテリーヌを庇ってくれた人だ。
そしてその時に賭けをして敗けた俺の召し使いも酒場から立ち上がった。
「ちょっと待て、あんたなんつったっけ?」
「ああ?ギャリドゥーだが?」
「あんた一回戦で負けてたのかよ!」
「うるせぇなあ、酔っぱらって寝ちまったんだよ」
だからほどほどにしとけって言ったのに、てゆうか今も酒臭い。
「負けるなよ」
「誰にもの言ってやがる、ヒック」
不安だ。
『それでは用意が整ったようなので……試合っっっっ開始っ!!』
ドゴッオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
スタートと同時にフィールドは巨大な砂嵐が吹き上げた。
解説おじさんことボダッルフォが拳を地面に打ち付けたのだ。
「いや、それだけでこうなるか?」
どんな怪力だよ。
砂煙が視界を奪う中、さらに高速戦闘が行われもう何が何だかわからない。
やっぱり解説おじさんがいないと駄目だ。
「説明してくれヘカテリーヌ」
「ちょ、ちょっと待って、あれが…あれで、こうなるから、そんでもって……」
こりゃ駄目だ。
「良ければ私が解説しましょうか?」
話しかけてきたのは勇者教ナントカ団団長のハルシャークだった。
その顔にはどでかい手形がつけられていた。
「デートの日取りは…決まらなかったみたいだな」
「毎日祈りを捧げねばならないと言ったらぶたれました」
「避けられなかったのか?」
「いえ、それで怒りが収まるのならと」
なんだろう、こいつ良いやつかな?
「騙されちゃ駄目よ、そのうち変な壺とか買わされるから」
「変ではありません、司祭様が浄化してくださった幸運の壺ですよ!」
うーん、人間って一筋縄じゃいかない。
「それでは僭越ながら…ボダッルフォは『強化』『硬化』『増幅』『装着』ありとあらゆるスキルや魔法を殴り合いの為だけに使ってますね、よほど好きなんでしょう、防御などせず殴られても笑顔で殴り続けてます」
解説おじさん、そんな人だったのか…。
いつも上半身裸で変な模様とか文字とか書いてあるからおかしいとは思っていたけど。
「おそらく戦闘系の適正があるのでしょう、魔法の国ディミストリ出身者では珍しいですね。適正でいえばクルスディーネは世界でも稀な『竜騎士』の持ち主です。私もよくは知りませんが…」
「竜を倒したんだっけ?それって珍しいのか?」
「そんな事も知らないのですか?勇者を詐称するような無能の元には同輩が集まるのですね」
「勇者を便利グッズか何かと思ってる奴らが言うと説得力あるわね」
「私の信仰は本物です!」
「私だって本物よ!」
こいつら仲悪いなー。
しかしそうなるとギャリドゥーだけ微妙に格下じゃないか?いかり振り回してるだけだし。あれ何のジョブなんだよ、キャプテン?
「彼は…運が良いですね」
「運?」
「他の二人が脳筋なのでうまく立ち回って潰し合わせてます」
『ドラゴニック バーン』
『メテオ インパクト』
よく見ると二人がぶつかってる間に酒を飲んでいる。
「ふざけた奴ね…」
「同じく脳筋の貴女には無理でしょうね」
「そうだな…」
「ちょっと、どっちの味方よ!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!
ド派手なぶつかり合いに観客のボルテージが上がっていく。
三人ともタフで全然倒れる気配がない。
しかし決着は思わぬ形でつくことになった。
『エンペリオ ドラグーン』
『レジェンド オブ デストロイ』
『グランオーシャン ビッグイーター』
ゴガギャゴガガガグギュゴゴギャゴギュギゴギゴガギョギャギゴ!!!!!!
パリーン。
『あっ、あーと!?強力な技の余波により観客を守る結界が壊れてしまいました。大会規定第三条、結界を破壊した者は失格とする、この場合は?』
『全員失格です』
ワアアアアアアアアアァァァ………。
「はっはっは、楽しかった!」
「不覚、まさかこんな形で去ることになるとは……」
「あー疲れた、酒飲ませろ酒ぇー」
三者三様に控え室へと戻ってくる失格者達。
「凄かったぜギャリドゥー」
「はっ、たりめーよー」
口調のわりに表情には疲労の色が滲んでいる。わりとマジで疲れたんだろう。
「ばかどもに付き合うとろくなことがねぇ、店主、一杯くれぇー!」
「申し訳ありません…、選手の方限定でして…」
「えええー、マジかよぉ!?」
「すみません、一杯ください」
俺は店主に頼んで酒を注いでもらう。
「一杯だけだからな」
「神かよ!?一生ついていくぜご主人様ぁー」
抱きつくな気色悪い。
「カタクラ殿、といいましたか」
すると竜騎士様が声をかけてきた。
そして兜をそっと外した。
中から出てきたのは銀色の長い髪を揺らす美しき麗人だった。
「先日は話に割り込んだにも関わらずそこの男の口先に拐かされてしまい申し訳ありませんでした」
「あ…いえ、別に…」
「あの時の貴方の胆力、そしてお二人の関係性には心打たれました。末長く健やかでおられることを願っています」
「ご丁寧にどうも…」
「私は南西にあります火山の麓の国で暮らしているので、何か有りましたらぜひお便りください」
そう言い残して竜騎士は去っていった。
『いやー、凄い試合でしたぁ、まさかスタジアムの結界が破られてしまうとは』
『私の記憶にもありませんね、怪我をした人はすぐ役員に申し出てください』
『それでは参りましょう!波乱含みの二回戦、第五試合!勝利の女神に魂を売った男、ジャンガルーガ選手対!始めの一歩を極めた男、イスマ選手の登場だーーー!!!』
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!
「イスマさんならあのクソ野郎を倒してくれるわよ!」
前者は初日に俺達から参加資格を奪った男、後者は以前寄った花屋の店員さんだ。どちらも面識のある人物の対戦となった。
イスマさんの適性は職人系で戦闘系とは相性が悪い。
にも拘らずそれしか覚えられない初級スキルを鍛え上げ、一回戦では同じ格闘家を一撃で倒して見せた。
だが相手の男は卑怯な手も容赦なく使ってくる奴だ。
嫌な予感がする…。
『準備がととのったようです。それでは五試合目、レディ……ファイト!!』
「!?」
試合開始と同時にイスマさんが苦しみだした。
膝をついて喘ぐように口を閉開させる。
「毒だな」
毒!?
「毒は禁止されてる筈だろ?!」
「タイミング的に始まる前に盛ったんだろうな」
あのやろう……。
モニターを睨み付ける。地面に這いつくばるイスマさんにジャンガルーガは悠々と近づき頭を踏みつけた。
そのまま何度も足を押し付けた後、下から蹴りあげた。
『これはどうしたことでしょうイスマ選手、何らかのスキルが発動しているのか?』
『………』
「反則じゃないの?!」
ヘカテリーヌが叫ぶ。
「反則ですね、バレれば、ですが」
「何よそれ!反則は反則でしょ!」
「どこ行く気だ?」
「決まってる、止めに行くのよ!」
「今行ったら嬢ちゃんが反則失格になるぜ」
その言葉にヘカテリーヌの足が止まる。
「なんで…」
「ギャリドゥー、お前ならいけるだろ」
酒場にたむろしてる召し使いに声をかける。
「まあそう慌てなさんなって」
「慌てるなって、今……」
『ああっとぉ!!イスマが立ったーーーー!!』
「!」
慌ててモニターを見直す。
さっきまで虫の息だったイスマさんが二の足で立ち、逆にジャンガルーガがへたりこんでいた。
「どうして…」
「奴さんは花屋なんだろ?ならジョブは『植物博士』だ。解毒剤くらい自前で作れるだろ」
ワアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!
形成逆転、今度はイスマさんがゆっくり近づいていく。
ジャンガルーガは慌てて地面を這うように逃げる。
「ざまぁないわ、やっちゃえイスマさん!」
だが次の瞬間、イスマさんの足元が輝いて痙攣するように足を止めた。
「トラップ、あいつ『罠師』か」
罠だと!?
再びの逆転、またもやジャンガルーガはサンドバッグのようにイスマさんを痛め付ける。
そして剣を抜くと……。
「やめろぉぉーーー!!」
イスマさんの両腕を切り落とす。
………前に影が乱入し剣を弾いた。
止めに入ったのは、ハルシャークだった。
『これはいったいどういうことだ!?ハルシャーク選手がイスマ選手を庇った??』
『これは…二人とも失格ですね』
『なるほど、この試合、勝者はジャンガルーガ選手ーー!!』
ワアアアアアァァァ……!
「あいつ、失格にできないの?!」
「難しいな、どうせ体に残りづらいタイプだろうし薬で中和しちまった。そもそもあいつが盛ったという証拠もない」
「つっかえないわね!警備は何やってんのよ!」
「たくよー、こっからが面白いとこだったのに何してくれてんだよ」
控え室に戻ってきて早々愚痴をこぼすジャンガルーガにヘカテリーヌは食って掛かる。
「あんたね、こんな勝ち方して恥ずかしくない訳!?」
「ああ恥ずかしいね、だからどうした?」
「はぁ?」
「どう思われようが俺はやり方を変えるつもりはねぇよ、ざまーみろ!」
「このっ、ちょっと、放しなさいよ、ぶん殴ってやる!」
「だから失格になるっつーの、勇者になるんじゃなかったのか」
「だって……」
ヘカテリーヌは少し大人しくなる。
「かーー、ほれみろ!結局勝たなきゃ何にもならねぇんだよ!安心しな、俺が優勝しちまっても聖剣には小便かけるだけにしてやるからよ、がっはっはっは!」
「こいつっ………」
やばい、俺の腕がもたない。
かくなる上は……。
モミモミモミ。
「!?」
全力でヘカテリーヌのおしりを揉みしだく。これで怒りの矛先が変わってくれれば…。
「な、な、な、何してんのよーーー!!」
ドゴーン。
宙を舞い壁にめり込む。
「おい、あいつ今殴ったぞ、失格だろ!」
「バカいってんじゃねェよ、俺が自分で吹っ飛んだだけだ、だろ?」
警備の人は困っているようだった。
「行くぞヘカテリーヌ」
「え?…うん」
個人部屋に入って傷の手当てをする。
「…あの…その…私の為に…」
「な?隠蔽も悪いことばかりじゃないだろ。利用と卑怯は表裏一体ってな。あいつはお前を挑発してたんだ。次勝てば三回戦で戦うのはお前だから」
「…うん」
するとヘカテリーヌは席を立つ。
そしておもむろに服を脱ぎ始めた。
「は!?」
そして青い下着だけになる。
「これは…お礼…だから」
そう呟いて体を差し出してきた。
ゴクリ。
文字通り生唾を飲む。
しなやかに鍛えられ引き締まった体と、そこから突き出ただらしない脂肪の塊。
そのコントラストがお互いをより強調しあって神秘的なエロスを醸し出す。
いけないとはわかっていてもその誘惑から目を離すことができない。
起伏のあるボディラインと薄い素材の下着が普段勝ち気な彼女も女の子なんだと強く意識させる。
次はいつ拝めるともしれない極上の女体が目の前にある。
これを自由にできる…。
俺の両腕はまるで運命のように存在する二つの膨らみの重力に導かれて少しづつ接近していく。
「ん…」
「ビビってんじゃねぇか」
とりあえず落ちてる服を被せた。
「そういうのは好きな相手としろよ」
「…」
着替えられるように俺は部屋を出ていく。
「その時は、受け入れてくれる?」
不意な問いかけに俺は答えられぬまま扉はしまってしまった。
『続きまして二回戦六試合目、諦めの悪さなら勇者級、ヘカテリーヌ選手対!正体不明!?ドロシー選手!』
放送が終わるとヘカテリーヌが部屋から出てくる。
「……礼がしたいなら勝ってこいよ」
「…うん」
モニターのある共通ステージに行くとさっきのメンバーがかけることなく残っていた。
「よかったのか?失格になって」
いつものごとく澄まし顔でカッコつけてるハルシャークにたずねる。
「ここは勇者様の御前ですから、それに後悔するくらいならまずしませんよ」
まずまず予想通りの答えが返ってきた。
「ご主人様は自分の準備はしねぇのかい?」
「これが終わったらな」
モニターを見るとヘカテリーヌと黒いローブを着た謎の人物が写っている。
「誰かあいつの一回戦見たか?」
「私が、目にも止まらぬ早さで同胞がやられてしまいましたよ。あれはそうとう鍛えてますね」
スピードと黒いローブ。
俺は昨日あった赤い髪の女の子を思い出していた。
あの子も凄まじい速さで気づいた時には切っ先が首筋に添えられていた。
そして……。
『私が何に見える?』
結局あの子は誰だったのだろう。
もしかしたら今あそこにいるのは……。
『それでは双方の準備が整いました。試合ィィィィっ開始!!!』




