それぞれの二回戦
『それでは二回戦第一試合、アウステラ騎士のご意見番、グスダフ選手対!日の出づる島国からやって来た戦闘民族!サイゾー選手だー!!』
ワアアアアアアアアアァァァ!!!
「日の出づる島国?どっかで聞いたフレーズだな」
「奴らの住むジッポンガは今なお戦争を続けてる野蛮な地域だからな、そのせいで魔物が殆どいないらしい。お手並み拝見だぜ」
解説おじさん、あんたも勝ち上がっていたのか。
『試合開始!』
合図と共に甲冑じみた鎧を纏うサイゾーが突進する。対して老騎士は大きな槍を構えて誘い込む。サイゾーも槍を握っているので長物対決といった感じだ。
『グスダフ、巨大な槍をぶん回し敵を牽制!これは近づけないかぁ!!』
『若い頃はアウステラ一の使い手でしたから、老いてなおこの動きは流石ですね』
持ち手に向かって太くなる半開きの傘のような槍のグスダフ、細い柄の先に刃があるサイゾー、パワーとスビード勝負か。
『ああっと、台風に突っ込んでいくーー!』
サイゾーは一度フェイントを入れると振り抜いた後を狙って走り出す。
『甘いですね』
『しかしグスダフ!素早く切り返してサイゾーを強襲!!なんというスビード、そしてパワー!!?いや!?』
「あいつ、槍に張り付いてやがる」
槍を抱え込むようにして一体になる。だが老騎士の顔には笑みが張り付いていた。
『なーんと!サイゾー選手ごと槍を持ち上げたーーー!そしてそのまま叩きつけるー!!』
しかしサイゾーは直前で槍を放し空中散歩、槍の上に乗ると一直線、グスダフに槍をつきだした。
「グスダフ!?」
それをギリギリでかわす、だが直後、サムライは右膝を老騎士に叩き込んだ。
「!!」
『耐えた、耐えましたグスダフ!!』
そして槍をかち上げてサイゾーを天高く吹っ飛ばした。鬼気迫る表情、雄叫びがここまで聞こえてくるようだ。
『空中では身動きがとれません』
『どうする、サイゾー!?』
するとサイゾーは空中で器用に体を反らせると、手に持つ槍を放った。
『天タ穿ツ黒鉄ノ星』!!
それに答えるようにグスダフも槍を構えた。
『ヒートアップ ランスチャージ』!!
二つの槍が衝突し閃光を生んだ。
『サイゾーの槍が弾かれた!やはり空中では踏ん張りが効かなかったか!?』
「違うな、投げたから衝突の間も自由だ」
サイゾーは刀を抜いて飛びかかる。
グスダフもわかっていたのか、それに槍を合わせた。
「単調過ぎる」
「!」
これもフェイント、槍は空を切る。
まるで全てわかっていたかのような動きだ。
グスダフは槍を戻そうとするがさっきまでのキレがない。
その前にサイゾーの刀がグスダフの首に伸びた。そこで。
『試合修了ーーー!!』
審判がサイゾーを差し示す。
ワアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!
サイゾーの刀はグスダフの首寸前、魔法の壁によって止められていた。
「危なかったな、あと少し降参すんのが遅かったら死んでたぜ。老成の賜物かな」
「グスダフ!」
王子様が老騎士を出迎える。
「ふぅ、わしもまだまだじゃな…」
「もう少し若かったらいけたんじゃねぇか?」
解説おじさんも労いの言葉をかける。
「歳は言い訳にしない事にしておる、しかし若を止める者がいなくなってしまった…」
「何を言うか、俺を止められる者など初めからいない、…グスダフ!?」
すると、突然老騎士が倒れてしまった。慌てて王子様が抱き起こす。
「やれやれ、口では強がっていても寄る年波には勝てんようじゃな…」
「無理をするな、俺は優勝してお前の指導が正しかった事を証明する」
「あのサムライにも勝てますかな…?」
「……ぐ、それは…」
「王が剣をとるなど兵士としては恥じも同然なのです、どうかこの老いぼれの願い、聞き入れては貰えませぬか…?」
王子様は眉根を寄せて老騎士の言葉を噛み締める。
「…………ええい、わかった。お前の言う通りにしよう」
「そうですか、では早速棄権を伝えて参ります」
「グスダフ!?」
老騎士はスッと立ち上がると本部に向かっていった。
「騙したなーーー!?」
『いやー、ただいまの試合、残念ながらアウステラ騎士が負けてしまった訳ですが、ご覧になられていかがでした?』
『グスダフには後で新人に混ざってトレーニングさせます』
ワハハハハハッ!!
『しかしサイゾー選手の戦略は見事でしたね、あれだけのスピードで打ち合いながらの駆け引きはそうとう実戦を積んでないとできませんよ。それこそグスダフ以上にね』
『なるほどー、流石は戦闘民族といったところですね。それでーはっ!!続きまして二回戦第二試合、婿を探して三千里、スカボッチャ選手対!勇者教が誇る武装集団、勇聖騎士団団長ハルシャーク選手!!』
「おっと、私の出番ですか」
白い鎧を纏った騎士が腰をあげる。
「グスダフ殿が負けてしまいましたからね…、少々気が乗らないのですが」
そんな余裕綽々なイケメンの前に立ちふさがる影。
「あぬぁたがわだすの相手?やぁだ、好みのタイプじゃなぁい」
その影は騎士の倍以上の体躯で奇妙な格好をして奇妙な言葉を喋った。
「失礼、あなたは女性?それとも男性かな?」
「どぅおういう意味よぉ」
騎士の質問に影、というか壁は殺気を放つ。
「いえ、女性を傷つけたくはないので、できれば棄権していただきたいのです」
「素敵ぃ、やっぱり男はこうじゃねぇとね♥」
これ相手でも気遣いできるのか、ちょっと尊敬したぞ勇者教。
「わかったぁ、棄権するから、今度わだすとでえとして~」
「それは構いませんが、私は勇者様に全てを捧げた身、貴女を愛する事はできませんよ?」
「いぃのよ~、わだすの魅力で悩殺してあげるからっ、じゃ、棄権してくる~」
ドスドスドス。
『えーただいま連絡が来ました。スカボッチャ選手が棄権したため第二試合はハルシャーク選手の勝利となります!』
ワアアアアァァ………。
ドスドスドス。
「それじゃあ、でえとの日取りをキメましょう」
「ええ、喜んで」
ハンサム騎士は壁のような女?と腕を組んで、終止笑顔のまま控え室からさっていった。
そこにいた面々は皆、その堂々とした背中に心の中で拍手を送ったのだった。




