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二日目の朝

「おっと」

フィールドを出ると気が抜けたのか急に疲れが襲ってきた。

トーレンスが支えてくれる。

その後回復魔法までかけてくれた。

「情けないぞ」

「ははは…、それにしても多芸ですね」

「私はハンターだからな、これくらい当然だ」

そうゆうものらしい。

しかしもう限界だ。今すぐ帰って寝たい。

控え室に戻ってくると既に最終試合なので残っているのは王様だけだった。

「まあまあだったな」

「そりゃどうも」

「それでは、私は失礼します。カタクラ、実戦では負けないからな」

ええ、まあ、そらそうでしょうよ。

トーレンスが出ていき二人きりになる。

「ヘカテリーヌは?」

「見ていない」

まだ医務室にいるのかな。

医務室のドアを開けるとヘカテリーヌは着替え中だった。

なんというか、もう興奮する気力もない。

俺は静かにドアを閉めた。

後から大きな悲鳴が轟いた。

「ほんっと、信じられない!」

「んー」

「んー、じゃないわよ!人の裸見といてその反応は何?!」

そんなこと言われても…。

「お前は元気そうだな?」

「昔から回復は速いのよ」

そいつは羨ましい。

「じゃあね」

いつもの交差点で別れる。

「で、いつまでついてくるんだ?」

後ろを見ると王様がいる。

「お前の疑いが晴れるまでだ」

やれやれだな……。

「まさか家の中までついてくる気じゃないだろうな」

「………」

王様は腕組みして考え込む。

おいおいマジかよ。

「言っておくが、貴様らを認めた訳じゃないからな」

そう言って夜の町に帰っていった。

もうなにもかもめんどくさくなった俺は、ツンデレ乙と心で呟いて先を急いだ。

現実世界に戻ると里美が出迎えてくれる。

「曜ちゃん、裸!?服着てないよー!!」

「あー」

「きゃっ」

里美の顔を見て安心した俺は里美を押してベッドに倒れこむ。

「どうしたの、曜ちゃん」

「んー」

柔らかものが全身を包み込んでとても気持ちいい。そのまま俺は眠りの谷へと落ちていく。

薄れていく意識が微かな声を拾った。

「…お疲れさま」

ああ。

俺は里美の腕の中で眠りに落ちた。


次の日目が覚めると、里美のベッドに裸で寝ていた。

なぜだ、記憶がまったくない。

しかも隣で里美が俺の腕を抱いてグースー寝息をたてていた。

寝ぼけて勇者パワーを発揮しているのかまったく抜け出せない。

腕に柔らかいものが当たってこのままだと色々とまずい。

俺は苦肉の策として苦渋の決断をして、その柔らかいものを変形させて脱出した。

異世界から戻ってきた時に脱げたのであろう、辺りに散らばった服を着て部屋を出る。

今日は聖剣武闘祭の二回戦と三回戦が行われる筈だ。

だが一回戦を突破して面目は保てただろうし、もう棄権してもいいだろう。

俺は茶々っと朝飯を作りつつ今日の予定を思案する。

フライパンを持つ手が重いのは昨日の疲れが残っているからだろう。

テロリスト(仮)もまだ捕まっていないだろうし、こっちにいた方が安全かも知れない。

すると里美が目を擦りながら降りてくる。

「ふぁ~、お早う~」

「おう、席に座って待っててくれ」

「おじいちゃんも、お早うございます」

「おーう里美ちゃん、今日もかわええぞい❤」

既に起きて新聞、ではなくスマホを見ていたじいさんと挨拶をかわす。

俺も完成した料理を持って席につく。献立は卵とソーセージのホットドッグ。

「「「いただきまーす」」」

しばし食卓に舌鼓をうつ。

「曜ちゃん、今日はどうするの?」

「あー……、家にいようかな、たまってるものもあるし」

「そっか、私もそうしよっかな」

「わしもイベントを周回せねばならんからのぅ、ゑいなちゃんの新コスチュームを手にいれるんじゃ!」

元異世界人の癖に文明に染まり過ぎだろ。

食べ終わると食器を片付け自室へ戻る。

それにしても筋肉痛がいたい。日頃から体を動かしていたつもりっだがあっさり越えてしまったらしい。

コンコン。

「どうぞー」

マッサージしているとドアを開けて里美が入ってくる。

「どした?」

用件をきいてもうつむいて返事がない。

そのまま俺の寝ているベッドに腰かけた。

「昨日の曜ちゃん、すごい、疲れてた」

「あー…」

その時の事は覚えていない。けど疲れているのは今も変わらぬ事実だ。

「危ないこと、してない?」

してるかいなかといえば、してる。

昨日の試合なんて何度死んだと思ったかわからない。

答えられずにいると里美は俺の隣で横になった。

そして朝と同じように腕を抱く。

「くっついてたら、危ないことできない?」

そう上目使いで心配そうに覗き込んでくる里美はきっと宇宙一可愛い。

俺はそんな彼女から目が離せなくなる。

「ごめんね、困らせたい訳じゃないの」

そう言って里美は腕を放す。

「でもねときどき不安になるの、異世界にいったまま、戻ってこなかったらどうしようって」

その気持ちは知ってる。最初に里美が戻って来なかったとき俺は死を覚悟した。

あんなのは二度とごめんだ。

「けど…異世界にはこっちで便利な物もたくさんあるんだ」

「だから私も一緒に…」

「駄目だ」

ひどい矛盾だった。

里美は勇者だからおかしな運命に付き合わされるかもしれないと、自分に言い聞かせる。

ふと、彼女は聖剣を抜けるのだろうかと疑問に思った。

きっと抜けるんだろう。勇者だから。

でも別の誰かが抜いたら、ヘカテリーヌが……。

「曜ちゃん!?」

両の頬を思いっきり叩く。今最低な事を考えた。彼女は心から勇者になることを望んでいる。その純粋につけこもうとした…。

「そんなことしたら、痛いよ」

里美が柔らかい手で顔を包む。

そもそも聖剣を抜いていないのに誰が勇者だと教えたんだろう?

けれど今きいても意味がない。

「記憶、どれくらい戻った?」

プレッシャーになってはいけないと普段あまりたずねないようにしている。

たぶんこの先1ヶ月くらいは封印するだろう。

「あんまり…」

「そうか…」

記憶がなくても俺達の生活はあまり変わらない。

具体的に覚えていなくとも確かに残るものがあるんだと思うと胸がじんわりする。

だが今の里美が頼れるのは俺だけだというのも事実だ。

その立場に甘んじてはいけない。

里美が一人で生きていけるようになるなら、それは喜ばしい事だ。

だけどもしその時が来たら、俺は心から喜べるだろうか。

「すーすー」

気がつくと里美は隣で寝息をたてていた。

ふと時計を見ると時刻は9時になろうとしている。

もう武闘大会が始まる頃だ。

……ちょっと様子を見るだけだ。

俺はベッドを抜け出して部屋を後にする。

「…行かないで」

そんな声が聞こえた気がするがきっと風の音だろうとそのままドアを閉めた。

異世界に行くと毎度のごとく脱げた服を着替えて外に出る。

この低い建物ばかりの景色にもだいぶ慣れた気がする。

さてスタジアムに向かうとするか。

すると。

「あっカタクラだー!」

「ほんとだカタクラー!」

子供達が騒ぎながらよってきた。

「あらカタクラさんじゃない」

「まあ、カタクラさん」

その騒ぎに気づいた人達も一緒になって集まってくる。ちょっとしたお祭り状態になってしまった。

「握手してー」「私もー」「今度家の店に寄ってってよ、サービスするから」「俺はお前に小遣い全部賭けたからな、頼むぜー」

ええ…、まさかこんな事になるとは。

「あの…スタジアムに行きたいんですが…」

「おい!カタクラがスタジアムに行くってよー」

「がんばれー」

「頑張ってね」

やばい、これって棄権できない雰囲気…?

とりあえず俺は騒ぎを避けながらスタジアムに向かった。

「はぁ…はぁ…、試合の前からだいぶ疲れたぞ」

「遅い!何やってたのよ」

控え室に行くとヘカテリーヌが仁王立ちしていた。

「まあ、いろいろ…」

「それより聞いて!私いろんな人に応援されちゃった!」

ヘカテリーヌはその場で小躍りする。よほど嬉しかったんだろうな。

「はっ、んなもん祭の間だけさ」

声を挟んできたのは全身傷だらけの大男。

「何よ、さっき謝ってきた癖に、もう偉そうにして」

こいつは賭けに負けて俺の召し使いになったんだ。ちゃんと約束守ったんだな。

「お前も勝ち進んでたんだな」

「俺様の華麗な戦いを見てなかったのかよ、そりゃあもう拍手喝采の大安売りだったぜ」

傷だらけの体は説得力があった。華麗よりグエ~って感じだが。

当然だが昨日より半分ぐらい減って控え室はなんだか物悲しくなっている。知ってる奴がいると心強い。

「それじゃあ、俺は向こうで飲んでるからよ。何かあったら言ってくれ」

「酒は程々にしろよ」

「主様の命令でもそれはきけねぇなー、はっは!」

そう言ってまだ朝時だというのに酒場エリアに向かっていった。

「あんたらいつのまに仲良くなったわけ?」

「まあいろいろあってな」

「?」

自分の勝負で賭けをしていたと知ったら怒るかもしれない。それに俺がこいつに賭けたのも恥ずかしい。

会話が一段落したところで周りを見る。

昨日は多数を占めていた勇者教の白ローブが数を減らしている。

やはり一対一の決闘では分が悪かったのか。

ただその筆頭格らしいハルシャークと呼ばれた男は柱に寄りかかって悠然としている。顔が整っているだけに薄暗い地下室でも絵になる奴だ。

それと武闘派王子様にお目付け役のアイドル好き老騎士も残っている。

しかしまたもや言い争いをしているようだ。

「この国はグレム家、ティロン家、ホリット家の御三家が互いを制御することで成り立っているのです。もしこのバランスが崩れでもしたら……」

「その話は聞きあきたわ、だからこそ聖剣を引き抜けなかった父上に変わり、この俺が勇者となり名誉を取り戻すのだ!それとも俺には無理だとお前は言うのか?」

「そ、そんな事は…しかしですな…」

どれかから勇者が出たらそれはそれでバランスが崩れる気がする。

国を維持するって大変だなぁー。

「いいじゃない、やりたいって言ってるんだから、やらせてあげれば?」

するとヘカテリーヌが話に割り込んでいく。

またお前は余計なことを。

「ええい、部外者は黙っておれっ!」

ほら怒られた。

しかしヘカテリーヌはへこたれず食い下がっていく。

「だーかーらー、私も勇者の末裔なの!天下の遊び人リッツの名を冠する一族なの!」

「またそのような戯れ言を、たまたま似たような名前だっただけじゃろう」

「ちがーう!」

老騎士の言葉にヘカテリーヌは顔を真っ赤にして怒る。

「あんたも、王様になるならもっとガツンと言ってやりなさいよ」

「あ……ああ」

王族相手にこの態度、誰にでもできるもんじゃないぞ。

「バウリーグ様、このような者の話など…」

「美しい…」

「え?」

ん?

「女、お前見所があるな。よく見れば顔も悪くない。どうしてもと言うなら俺の嫁にしてやっても良いぞ」

「はぁ?」

まさかの展開。

よかったじゃないか、王族の一員になれるぞ。

「嫌よ、私は優勝して勇者になるんだから」

「はぐれ者にされているお主の家族の名誉も回復してやろう」

「それは…」

ヘカテリーヌは二の句を言い淀む。満更でもないのか…?

「いけません、このような下賤な者と、血が汚れます」

「血など名誉でいくらでもつぎ足せるわ、そうだ、この大会で俺がお前より優秀な成績を修めたら、婚姻しよう」

「………良いわよ」

「なんじゃと!?」

「よしっ!」

そしてヘカテリーヌは神妙な顔をして戻ってきた。

「よかったのか?」

「だって…お父さんとお母さんが…」

「やめとけ」

「え?」

「誰かを理由に将来決めんなよ、お前全然嬉しそうじゃないし、やめとけ」

ヘカテリーヌは驚いたように目を見開く。

そして直ぐにいつもの笑顔に戻った。やっぱりそっちの方がいいと思う。

その後例の王子様に断って、謝ってこの件はうやむやとなった。

『えーみなさんこんにちわー!初めての方ははじめまして!お馴染み実況放送を務めます、ジッキョーともうします!え?いつもより元気がない?そうなんですよー!実は私今とても緊張していましてー…、なんと!今日はスペシャルスペシャルもひとつおまけにスペシャルゲスト様がいらっしゃってるんです!それでは自己紹介、どうぞ!!』

『どうも、リッヒデンバーグです』

『そーなんですよー、なんとっ!なんとなんとっ!この国を治める王様のお一人!軍事王リッヒデンバーグ様が解説にいらっしゃってるんでーすよー!』

あのおっさん今日はいないと思ったらそんな事してたのか。

『このリッヒデンバーグ様…えー長いので軍事王様でいいですか?軍事王様はですねーなんと6年前に行われた前々回大会の優勝者であらせられるんです!覚えている人もいるでしょう!もう解説にはうってつけなんですねー!え?早く始めろ?それでは王様開会の宣言を…っどうぞ!』

『開会!!』






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