真相
その日の夜、俺と戸沢委員長は息を潜めて倉庫近くの茂みに隠れていた。
そして監視が通りすぎたのを確かめると職員室からくすねた鍵を使って倉庫に浸入し見えづらい位置にカメラを設置した。
「犯人、現れますかね」
「今日の仕掛けがまったく話題になっていないからね、犯人は怒ってるだろうしきっと来るよ」
昨日の夜は12時まで見張っていたが誰も来なかった。にもかかわらずトラップが仕掛けられていたところを見るとそれより後に来た可能性が高い。
あまり遅くなると里美が心配するので今日のところはこれで退散する。明日確認して犯人が写ってるといいんだが。
しかしその日も次の日曜日もそれらしい人物は写っていなかった。
休日だし犯人も休んだんだろうか?もしかしたら家族でお出掛けでもしたのかもしれない。まったくいいご身分だ。
取り越し苦労の徒労感を抱えていつもの通学路を歩いていると校門前まで来たところで走りよってくる人影が見えた。
近づくにつれそれが駆流だとわかる。
「おう、お前は元気そうでいいなー」
「何気の抜けた事いってんだ!それより大変なんだよ!」
「まさか、また事件があったのか?」
「ああ、けど犯人はもう特定された」
「!、マジか、誰なんだ?」
「お前だよ!!」
「…ふー、やれやれだな、俺は疲れてんだ。冗談ならまた今度に……」
「マジなんだって!!」
やたら真剣な駆流の顔に俺もようやく事態を飲み込み始める。
だがやはり眉唾だということは俺が一番わかっている。
「けどよ、俺はやってないぞ」
「それはわかってっけど……」
「片倉だな?」
すると教師の一人が話しかけてくる。
「ちょっと職員室まで来てくれないか?」
「……どうしてですか?」
「君にとある事件の容疑がかかっている」
どうやら駆流の話は本当だったらしい。
「分かりました」
「曜ちゃん……」
「大丈夫だ、先に教室に行っててくれ」
その後職員室につれていかれると数枚の写真を見せられた。
夜の学校で隠れている俺、職員室に侵入する俺、倉庫に入る俺。
「これは真実か?」
真実と言えば真実だ。
ただ教師のいう真実は+αがありそうだが。
もしうなずけば一連の事件に関与した事になるのだろう。
「写真は本当です、ただそれは備品を壊した犯人を捕まえる為に…」
「嘘をつくな、お前が侵入した際にも備品が破壊されたんだ。それに犯人は武藤先生だったはずだが?」
備品が破壊された?そんな…委員長がカメラに犯人は写ってなかったって…。
「……犯人はまだいたんです、実行委員長に確認してください。この時も一緒にいました」
「写真には写っていないようだが?」
そうだ、どの写真にも写っているのは俺一人だけ。
「この写真、誰が撮ったんですか?」
「それは……わからないが…」
「わからないってどいうことですか?」
「今朝これが職員室に置いてあったんだ」
「そんなものを頼りに人を犯人扱いするんですか?」
「ぐっ……、私はただ君に質問しているだけだ」
「ならもう全て答えました」
教師達には一度相馬達に冤罪を吹っ掛けた負い目がある。それに武藤先生の件も。
この時はなんとか逃げ切れたがそれも時間の問題かもしれない。
そして事実など関係なく生徒達の間には既にこの話が蔓延していた。
「あの人って……」
「全部自作自演だったんだって?」
「そこまでして人気になりたいのかしら」
「なんか臭くない?」
ザワザワザワ…。
俺は一連の事件のいくつかを解決してそこそこの有名人になっていた。それが一転するとこうなるのか。
教室に入ると意地の悪い視線がいっせいに向けられる。
「曜ちゃん…」
「今は俺に話しかけるな。お前まで変に思われるぞ」
「そんなの気にしないもん」
「俺が気にするんだ、とにかく今は一人にしてくれ」
そう言って里美を払いのける。
「曜…」
「お前は里美を頼む」
駆流に後を託すと俺は鞄を置いて教室を出た。
向かうのは俺をはめた奴の教室だ。
階段を上り足早に人の波を掻き分けていく。
「!?」
すると足を引っかけられた。周囲ではクスクスと笑い声が漏れる。
それらを無視して立ち上がると再び歩き出す。そして目当ての場所にたどり着いた。
教室に入ってこちらを見て薄笑いを浮かべているそいつの前まで進み出た。
「残念だよ、君は真面目な人だと思っていたのに」
「それはこっちのセリフですよ、戸沢委員長」
あんな写真を撮れるのはこの人しかいない。
今すぐ殴りつけたかったがそれでは相手の思う壺だ。
キーンカーンコーン。
「予鈴だ、早く戻らないと遅刻だよ?」
俺は歯を軋ませながらその場を後にした。
授業中や昼休みも好奇の目にさらされながらようやく放課後になる。
そして実行委員の会議室へ向かう。
教室のドアを開けると楽しそうな話し声が止み、針のような沈黙が俺の行方を遮った。
それでも引き返す訳にはいかない。俺は悪くなど無いのだから。
席につくと既に何人かが集まっている。
相馬や大崎、葛西、蠣崎。皆一様に目を背ける。嫌悪されるよりはましかもしれない。
「片倉君、今日は帰って貰えないかな?」
そう吐くのは戸沢委員長だ。
一瞬教室内がざわめくが直ぐに収まる。
「問題のある生徒を在席させておく事はできないんだ」
「っ……」
それに異を唱えるものは誰もいない。
俺は鞄から家で仕上げてきた原稿を出して提出してから教室を後にした。
校門まで来ると壁に寄りかかって待っている里美と駆流の姿があった。
先に帰れといったのに。
「曜ちゃん、早かったね。委員会は?」
「追い出された」
「許せねえな」
「そう言うな、悪いのは委員長だけだ。とにかくお前らは帰れ、仲間だと思われる」
「事実じゃんか」
「うん」
「そういうことじゃねえよ……」
何故か涙が出そうになった。恥ずかしいので気合いで止めたが。
「いいから帰れ、まだやることがあるんだ。一人の方が都合がいい」
「ほんとかよ」
「ああ」
「無理しちゃ駄目だからね?」
「ああ」
あまり優しくしないで欲しい。我慢できなくなるから。
こうして俺達はいったん別れた。
その後花壇の縁に座って思考を回転させる。
今回の件について一つ気がかりな点があった。
それは戸沢の目的だ。
まず事件を起こした目的だが、今までは体育祭を潰す為だと思っていた。
だがそれだと今俺をはめた理由がわからない。
まだ体育祭は中止になっていない、今後も事件を起こさなければならない筈だ。
なのでそれは間違いなんじゃないか。既に目的が達成されているのなら辻褄があう。
事件発生から今まで変わったことといえば武藤教師が犯人にされたこと。
おそらくそれが戸沢の目的だったのだろう。理由はわからないが嫌いだったのだろうか?
つまり俺がやり返す手段があるとすれば、それは武藤先生の冤罪を晴らす事なんじゃなかろうか。
俺が追い詰めてしまった手前申し訳ない気持ちもある。
そうと決まれば後は行動だ。
俺は再び校内に戻ると職員室に向かう。
扉を開けると教師達は驚いた顔を見せた。
それもそうだろう、どうやって犯行を認めさせるか思案していた相手が自分からやって来たのだから。
「小弓先生はいらっしゃいますか?」
大声でたずねる。
小弓先生とは俺のクラスの担任で目はいつも空いているのかわからず、のんびりとして、頼りないが無害という印象の女教師だ。
「はいはい、いますよー」
慌てた様子で何もないところでつまずきつつこっちにやって来る。
「ちょっと相談にのって欲しいんです」
「…わかりました」
俺達は空き教室に行くと席についた。
「それで、話ってなんです?」
「武藤先生って今どうなってるんですか?」
「武藤先生は自宅で謹慎中ですよ?」
「どうしてですか?」
「それは…備品破壊の件でだけれど、何か知っているんですか?」
「もしかして本人は犯行を否認してるんじゃないですか?」
「……破壊自体は認めているわ、ただ…既に何者かにイタズラされた後だったって、自分が疑われるのを恐れてやってしまったと言っていた筈よ」
なるほど、なんとなく事件の全貌が見えてきた。
第一次破壊事件の対応で武藤教師は倉庫の鍵を自宅に持ち帰った。
しかし真の犯人である戸沢はなんらかの方法で鍵を開けて大玉にイタズラをした。確か体育祭を中止しろと書かれていた筈だ。
翌朝、発見した武藤教師は自分が疑われるのを恐れてそれを隠蔽。さすがに大玉をバレずに運び出す事はできないので夜に割ってから持ち出そうとしたが、それを俺(犬)が目撃してしまったと。そういうことか。
「もし武藤先生の言い分が正しかったら処分はどうなりますか?」
「そうね……、備品を破壊したのは事実だけど既に壊された後なら多少は…、後は隠蔽しようとした件がどうなるかねぇ」
なるほどな、チャンスはあるか。
「全部俺がやりました」
「へ?」
小弓先生はすっとんきょうな声を出す。
「全部俺のせいです、武藤先生は悪くありません」
「ええっと…貴方、容疑を認めてなかったのよね?」
「はい、でも武藤先生がかわいそうなので」
「本当に良いの?」
「はい、それで、武藤先生はいつ頃復帰できますか?」
「それは、どうかしら?」
なるべく早い方がいいんだがこればかりは仕方ない。
その後、帰宅して暫くしてから無期限の停学になることが通達された。




