事件再び
「ふわ~」
俺は欠伸をしながら学校への道を歩く。今日は土曜日、本来なら休日なのだが委員会たる俺は残された仕事を片付けるために惰眠を貪ることは許されなかった。
「おはよう」
「おは…よう」
急に挨拶をしてきたのは同じ委員会の蠣崎だった。まさか通学路が被っていたとは。
「あの」
「あ?」
「…相馬君と大崎が一緒にいたのって何でだろうね…?」
いきなり何の話だ?
ああ、二人が犯人にされたあの日か。
おそらく蠣崎は相馬の事が好きなので気になっているんだろう。俺にはどうでもいいことだが。
「さあ、付き合ってるんじゃないか」
「っ……、そうかな…、たまたまってことも…ないか」
まあないだろう。
「………」
「………」
めちゃくちゃ気まずい。
俺はタイミングをずらす為に自販機で飲み物を買う。
振り返ると何故か蠣崎も止まっていた。
何でだよ、まさか知らぬ間に友達になっていたのか!?
女の友達なんて小学校いらいだぞ。やめろよ。勘違いするだろ。
俺は清涼飲料を二本買うと蠣崎に投げ渡した。
「まあ、これ飲んで元気出せ」
「コーラが良かった」
ざっけんな、金払え。
「それと離れて歩いてくれないか?」
「なんで?」
「……付き合ってるとか思われるとお前も困るだろ…」
「きもっ」
金を渡した後、蠣崎は離れていった。
教室にいくと何人かの生徒が作業していた。
当日流す曲を選んだり、配信する動画の編集をしたりやることは様々だ。
俺は席につくと鞄から原稿を取り出す。委員会が昼に流すという体育祭ラジオ、略して『いくラ』の為に過去のデータなどを纏めるのだ。
これが結構膨大でなかなかに手強い。
ただ以外な傾向なんかがわかってわりと面白かった。
そこそこの作業料をこなしシャーペンを置いてひとまず休憩。
体を動かそうと席を立ってブラブラと歩く。
運動部の励み声が誰もいない校内にこだましていた。
「どうしてですか!?」
それに混じって怒声が聞こえてきた。
なんだろうと覗いてみると工芸部の部室のようだ。
そこでは部員達と相馬、戸沢委員長が部員達と何やらもめているみたいだった。
「看板とゲートの修理、全然終わってないじゃないですか!」
「我々にも都合があるのだよ、いきなり言われても困るというものだ」
「でも、事前に話はしたじゃないですか」
「だからトラブルがあったと言っているだろう、予定を変更せざるをえないのだ」
「もうすぐ工芸の品評会があるのは知っています、でも体育祭も大事なイベントで」
「そんなこと言って、結果が振るわなければ予算を削る気なんだろう?」
「それは…生徒会長に相談しますから」
「君達があの女に太刀打ちできるとは思えないね。とにかくこの件は白紙に戻させてもらうよ」
「そんな…」
どうやら工芸部の助けを借りられなくなったらしい。
「どうします…?」
「今から美術部に頼るのもな……、自分達で作るしかないか」
「でも作業量が…」
「無くても代用できなくはないが…」
項垂れる二人の足元には壊されたゲートと看板の残骸がまとめられている。
もはやただの木屑で見る影もない。あれなら新しく作った方が速いだろう。
「……?」
それを見て違和感が首をもたげる。
何となくだが元の大きさに比べると木片の数が少ない気がする。
あれをパズルのように組み上げても全て揃わないような。
バラバラになっているし細かい部分は捨てたのかもしれないが、そもそも短い時間であそこまでできるものなのか。
用務員さんに話を聞いたときから疑問に思っていた。
監視が途切れる一時間の間にバレずにあれを行えるとは思えない。
ふと、一つの仮説が頭の中で組上がった。
もし、あれが元の組み木から産まれたものでないとしたら。
予め壊しておいた物と取り替えたのなら。時間は大幅に短縮できるんじゃないか?
だとしたら元のゲートや看板はどこへ消えたのか。
一つだけ思い当たる場所があった。
あれらは生徒が運べるよう最低限軽く作られている。それでも町中であんなものを持っていればそうとう目立つ。だから遠くへは行けない、学校のどこかに隠されているはずだ。
そこは茂みと壁に囲まれた秘密の空間。
入学して間もない頃、新しい環境に馴染めなかった俺は一人になれる場所を探した。
そしてここを見つけたのだ。
「あった……」
一年生の俺を支えてくれたその壁に探し物がたてかけられていた。
少し汚れているが充分使えるだろう。
直ぐに人を呼んできて運んで貰う。
「よくここにあるってわかったね」
「たまたまですよ」
「それにしても完全にだまされたなー、武藤先生も以外と策士だね」
武藤先生…、先生はあの場所を知っていたのだろうか。
もし別に犯人がいるのならなんとなく親近感を覚える。
「それじゃ、倉庫にしまっちゃおうか」
戸沢委員長が鍵を使ってドアを開ける。
「!?」
突然倉庫から何かが飛び出してきて委員長の胸を撃った。
驚いて倒れ込んだ後胸を押さえてうずくまる。
「先輩!?大丈夫ですか!?」
「だい…じょうぶ」
飛んできたのは丸い石ころだ。大した威力ではなかったようで委員長は直ぐに立ち上がって砂を落とす。
ふと視線を移した倉庫の扉の内側には『体育祭を中止しろ』と書かれた紙が張られていた。
やはり事件は終わっていなかったのか。
すると委員長はそれに気づくと歩いていってむしりとりグチャグチャにしてしまう。
「先輩…?」
「この事は俺達だけの秘密にしよう」
そして看板を持ち上げると倉庫の中に入っていく。俺も慌てて後に続いた。
「どういうことですか?」
「やっと事件が解決して生徒達が体育祭に集中できるようになったんだ。それに今回はただのイタズラじゃすまされない。下手したら本当に中止になるかもしれない」
確かに石が当たったのがブレザーの上で良かったが顔、特に目なんかに当たったらそれこそ目も当てられない。
「でも、何もしなかったら他にも被害者が…」
「何もしないとは言ってないさ、犯人を捕まえるんだ君と俺とで」
「!」
先輩は俺の目をじっと見てくる。その意思を確認するように。
「…わかりました」
「よろしく」
そしてがっちりと握手を交わした。




