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始まりの続き

「曜…ちゃん?」

「さ…里美!?」

目の前では幼なじみが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

もう二度と会えないんじゃないかとすら思ったその顔を抱き締めようと俺は手を伸ばした。

けれどその手は途中で止まってしまう。

彼女のあられもない姿に気づいたからだ。

白く透き通るような肌を水色の布地が心許なげに最小限の範囲を覆っている。

女性物の下着はなぜこうも可愛らしいのかとつくづく思う。まるで天女の羽衣のようにふんわりと彼女のシルエットに合わせてその形を変えていた。

ところどころだらしなく食い込んでいるのがまた肉感を際立たせていた。

特筆すべきはやはり上半身だろう。

内気な彼女の性格とは真逆の自己主張の激しい胸部が視界いっぱいに広がっていた。

昔は一緒にお風呂にも入った中だがまさかここまでの進化を遂げているとは人体の神秘とは恐ろしいものである。

紳士としては今すぐ目を反らし何か羽織るものを差し出すべきなのだろう。

だが年頃の男子としての直感がこの千載一遇の好機を逃すなと百戦錬磨の軍人のごとく告げていた。

というわけで俺はただじっと幼なじみの裸体を見つめていた。

当然そのような幸運が長く続くはずもなく遅すぎる程だがようやく己の状態に気がつくと慌てて量腕でその身体を覆った。もちろんそれだけで豊満な肉体を隠しきれる筈もなくまだまだばっちり見えているのだが。

「曜ちゃんのH」

そう言われてようやく理性が性欲にうちかった俺は慌てて部屋を後にして向こうからのアクションを待った。

しばらくすると普段着に着替えた里美が部屋から出てくる。

白いニットのワンピースにスリッパというなんとも可愛らしい装いだが俺の頭には先程の下着姿が強烈すぎてそれにしか見えない。

顔に出ていたのか里美が口を尖らせて半目で睨んでくる。

「H」

「しょうがないだろ、オトコノコなんだから…」

「知ってるよ、曜ちゃんいつも、おっぱい見てるし…」

ば、ばれていたのか。滅茶苦茶恥ずかしい(*''*)

「だからこんなに大きくなっちゃったんだぞ…?」

まじか、今度からガン見することを神に誓った。

「それで…、さっきの事だけど…」

「さっきっておっぱいか?お前も好きだな」

「っ~~、違うっ!」

怒鳴られてしまった。

しかし俺的には今世紀最大の大事件のせいでそれ以前の記憶がすっ飛んでしまっていた。はてと頭を捻るがやはり思い出せそうにない。

そんな俺を尻目に里美はあっさりと答えを教えてくれた。

「私の事…、……好き…って」

あ。

俺は全てのピースが一度にはまったかのように全てを思い出す。

「…聞いてたのか」

コクンと、里美は赤く染まった顔を上下させる。

俺の顔もにたような感じになっているだろう。先程から妙に体が熱い。

奇妙な沈黙が都内二階建てボロアパートの廊下を満たしていた。ただ俺の耳は自分の心臓の音が煩く叩いていたが。

内蔵が競り上がってくるようでうまく言葉を発することができない。

それでも何か言わなければ、ほんとに緊張でどうにかなってしまいそうで、俺はめいいっぱい肺に空気を送り込んだ。

「あ」

「ごめんなさい」

言葉って人を殺すんだなって、俺はこの時、全身全霊でそれを理解した。

それでも愛する人を殺人犯にするわけにはいかない。俺は必死の思いで勢いよく絶望にダイブしようとしている自分を引き留めた。

うぬぼれていた訳ではない。

けれど両の目からは涙が止まらなかった。

「生きででごべんだざいい~」

「曜ちゃん!?」

「そうだよな、こんな変態根暗不細工童貞チビ金欠粗チン糞男なんて、誰も好きになってくれる筈無いよな」

「ど、どれも平均だと思うよ!」

中途半端なフォローは逆に人を傷つけるのだと知った。今日はいろんな事がわかる日である。

「あのね、曜ちゃんが嫌いな訳じゃないの、でも今は世界を救わないといけないから…」

「勇者…か。姿が見えなかったのはそのせいか?」

「うん」

彼女が嘘をつく筈がない、それだけは確信している。

彼女を疑うくらいなら地獄に落ちた方がましだし、別に騙されていいとすら思っている。

「どうして下着姿だったんだ?」

「っ、…それは、向こうの装備は持ってこれないみたいで」

里美は恥ずかしそうに笑った。

「心配したんだぞ」

「ごめんなさい」

里美は申し訳なさそうにうつ向く。

俺はその頭にゆっくり触れると二、三回左右に動かした。

里美が再び異世界への門を開いたのはその夜の事だった。

「じゃあ、行ってくるね!」

「ああ」

彼女の目の前には向こうへと続く渦が開いているそうだが素質のないものには見えないし通れないらしい。

俺にはさっぱりわからなかった。

「あのね曜ちゃん」

「なんだ」

「私が魔王を倒すまで待っていてくれる?」

「ああ待ってるよ、いつまでも」

俺がそう返すと彼女は柔らかな笑みを浮かべた。

「そしたら言いたいことがあるの!」

そんな言葉を残して消えていった。

「もう言ってるようなもんだろ」

相変わらずの天然ぶりに思わず笑みがこぼれる。

「さて、作業の続きでもするかな」

俺は腕捲りをしてその場を後にする。

それとも明日の献立を考えた方がいいだろうか?

帰還の予定を聞いておけば良かったと今更ながら後悔する。

「まあその内帰ってくるだろ」

この時の俺はそんな風にしか考えていなかった。

それから一週間たっても里美が帰ってくることは無かった。









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