望み
世間様がゴールデンウィークを謳歌するなか、俺達は今日も図書館に通いつめていた。
冒険者ギルドにクエストとして依頼し、金を渡して手伝ってもらうことを覚えた。
信頼できるかは怪しいが背に腹は変えられない。一日で1000冊稼げる日もあった。
ただ冒険者的に本を読むだけというのはどうも気乗りしないらしく、受領者はまちまちだった。
「なんだか外が騒がしいわね」
ちょうど同じタイミングで一冊読み終えた先輩が声をかけてくる。
「ああ、聖剣祭やってますからね」
今日は勇者の誕生日、そして勇者が旅立った日、魔王を倒した日がこの世界の三大祭として各国持ち回りで開催されているらしい。
モンスターがはびこる外界を通って人が集まる辺りその人気がうかがえる。
「息抜きにちょっと歩いてきます?」
メインは北側のスタジアムで行われる武闘大会だが街道も露店で賑わっている。
「結構よ」
「ですよね…」
それでも俺達は読書一筋、喧騒などどこ吹く風だ。
気分転換にでもと思ったのだが先輩は相変わらずで周囲と関わるのを嫌っている節がある。
だがなぜか里美とは最近打ち解けたようで一緒に料理したりなんかしている。
女子二人が仲良くしてるのは微笑ましいがちょっぴり寂しい気もするのだ。
「ん?」
そんな未練がましいことを考えつつ本をパラパラと捲っていると変な物が出てきた。
16という数字がかかれたカード。
なんだろうと数秒考えて、そういえば武闘大会の本戦に参加するのにこれが必要だったと思い出した。
現在全部で30枚のカードが町中に隠されていてみんなそれを探している最中なのだ。
それにしてもこんな本だらけの場所に隠すとは、運営本部は鬼畜だな。ククク。俺だから笑ってすませられるが当事者はたまったもんじゃないだろう。下手したらずっと見つからないんじゃないか?
とはいえせっかく運よく手に入ったのだ使わない手はないだろう。
「『時魔法』についてかかれた本を見つけた人に、16番のカードを差し上げまーす!」
外で呼び掛けて見ると結構な人が集まってきた。
聖剣祭さまさまである。
「お前さん、時魔法を探してんのかい?」
「え?」
ある程度落ち着いてきたあといきなり声をかけられた。
黒色のローブを肩にかけた上半身裸のやけに筋肉質なおっさんである。
「えと…、貴方も参加しますか?」
「いや、俺はもう見つけたからな」
「そうですか、じゃあ、もしかして時魔法のことを……」
「期待に応えられなくて悪いが実物は知らねえな、だが古い言い伝えなら聞いたことがある」
「ほんとですか!」
ヒントになるのならこの際なんだっていい。
「時魔法は『それを望む者を嫌う』」
「望む者を…嫌う?」
「まっ、ただの御伽話さ信じるかどうかは俺らしだいよ、じゃあな」
そう言っておっさんはローブをはためかせて去っていった。
俺はただその後ろ姿を助けをもとめるように追いかけることしかできなかった。
望む者を嫌うって…どういうことだよ。
じゃあなんだ、探すのは間違いだってのか?そうすればかってに目の前に現れるのか?
ならそこらじゅうの奴らが今も持ってるはずじゃないか。
このときの俺にはそんないいわけを頼りに本を繰り続けるしかなかった。
さすが全国から猛者が集まっているだけあって、俺の知らないスキルも豊富だ。
特に『速読』のスキルは大いに役にたった。
この日の成果は5000冊に達したが結局、時魔法の記述は見当たらずカードは運営に返した。
いつものように夜に帰宅してシャワーを浴びてからベッドに入る。その間おっさんの言葉が頭から離れなかった。
『時魔法は望む者を嫌う』
いったいどういう意味なんだ。あの人が嘘を言っているとは思えない。だとしても鵜呑みにするわけにはいかない。ただの伝承だ、間違っているかもしれない。むしろその可能性の方が高い。あのおっさんはどこでこの話を聞いたのだろう。そもそもどんな人物だったんだ。聞いておけばよかった。自分のコミュ力の低さが恨めしい。いや、今はそんなことはどうでもいい。過ぎたことを考えても仕方ない。ならどうする、先輩に相談するか?駄目だ!不安にさせるだけだ。確証もない、自分の中にとどめておけばいい。そうだそれでいい。どうせ意味がわからないのだから。たいした言葉じゃない。忘れてしまってもいい。
「片倉君?」
「わっ!?」
ビックリした。
「先輩?なんで…」
ここは俺の部屋だ。鍵は、いつものごとくかけていなかったな。
「ごめんなさい、返事がなかったから、心配で」
「すみません、考え事してて…」
「すごい汗」
そういうと先輩はポケットからハンカチを取り出して俺の額をぬぐう。
「いいですよ、汚いですから」
「大丈夫よ洗っておくから」
「お…お願いします」
受け入れられるとそれはそれで…。
「ごめんなさい、私が無理をさせてるから」
「そんな事は…」
「やっぱり、お祭り行きたかったわよね」
「は?」
「配慮が足りなかったわ、手伝ってもらってるんだからお祭りくらい付き合うべきだった」
「いや、えー!?」
「明日もお祭りやってるわよね?」
「そっそりゃまあ…」
聖剣祭は一週間続くビッグイベントである。
「じゃあ待ち合わせね、明日の朝9時に図書館前、OK?」
「OK…え?」
「それじゃ、また明日」
そう言って先輩は勢いよく出ていってしまった。
「待ち合わせって……………えええええええーーーーーーーー!??!」
「曜ちゃんうるさいよー」
勢いに押されてとんでもない約束をしてしまった。
ベッドについて目を閉じるがいっこうに眠れる気配がない。
結局、この日は一睡もできなかった。




