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思い出

次の日もう一度三年生の階に足を運んだがこの日も佐竹先輩は学校を休んでいた。

なんだか避けられているような気がする。本当に未来が見えるならそれぐらいぞうさもないんだろうが、それならはじめから正体を明かさなければいいのにと思う。

おかげで俺はストーカー染みたことをするはめになった。

さすがに家まで押し掛ける気はないが。

助けてくれた訳だし悪意もないだろう。

大した収穫もなく下校時刻となった。

いつものように里美と連れだって家路を行く。

「どうだ学校は、困ったこととかないか?」

「…うん」

なんとなく返事がたどたどしく感じる。

「何かあったのか?」

「ううん、大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけ」

「そっか…」

記憶がないことを隠しながら生活するのは大変だろう。俺も気を使っているつもりだが全てをケアできる訳じゃない。

「何かあったら言えよ」

「うん」

里美は笑顔を見せるが俺の中の不安が消えることはなかった。


「で、どうにかして励ましたいと」

「そうなんだ」

例のごとく俺は時空の扉を通って異世界に来ていた。

話を聞いてくれているのはヘカテリーヌである。

「あのねぇ、私も暇じゃないのよ。聖剣祭の為に修行中なんだから」

「へーどんなことしてるんだ?」

「それは…、素振りとか、走り込みとか…」

野球の大会なんだろうか?

「町の外でモンスターを狩ったりした方が良いんじゃないか?」

「っ…だって…スライムが…」

「あーあの服だけ溶かしてくるやつ」

打撃、斬撃に耐性がありやたら数が多い。囲まれたら一人で対処するのは困難だろう。

「っんとなんでこの辺ってスライムばっかりいるのよ!?」

積年の恨みが爆発していた。怒る女の子って怖い。

「頼むよ、女子の知り合いってお前しかいないし」

「はぁ、しょうがないわね~」

結局はいつものように了承してくれる。相変わらず良いやつだと思う。

「それでどうしたら良いと思う?」

女の子が喜ぶことなど見当もつかない。イケメンをプレゼントすれば良いのだろうか?しかしそんなつてはないし、できれば最後の手段にしたい。

「あんた長い付き合いなんでしょ?」

「それはそうだが…」

里美は俺が何をしても喜びそうだし、何より今までの記憶がないせいで下手に過去に関連した事だとよけい傷つけるかもしれない。

だからヘカテリーヌに相談したいんだが。

「お前、どんなことされたら嬉しい?」

「私?…勇者だって認めて欲しい」

「あー、お前は勇者だよ~」

「適当過ぎる!」

俺にそんなこと望まれても困る。

「他は…新しい鎧」

「この前あげたじゃんか」

「あんな恥ずかしいもの着れるか!」

前に来てた金ぴかのやつもだいぶ恥ずかしいと思うのだが…。

ちなみにヘカテリーヌにぶん投げられたビキニアーマーはあの後軽く探したがどこにも見当たらなかった。誰かが既に持ち去ったのかもしれない。

売れば結構な値段になったらしいのに…。俺の処女作なのに…。

「というかそういうのばっかだな」

「そういうのって?」

「なんというか……女の子っぽくない?」

「悪かったわね…」

ヘカテリーヌはそっぽを向いて拗ねてしまう。

「いやいや、悪い意味じゃなくてな…?お前らしくて良いと思うぞ俺は」

「良いわよ、どうせ女の子らしくないから」

火に油だったようだ。まいったなー。

「とりあえず何かプレゼントしようと思うんだ、こっちの世界の物なら中々手に入らないし」

「ふーん、まあ、良いんじゃない?」

なんとか話題を変えて俺達は町一番だというショップに向かった。

そこは日用品から貴重品、雑貨や家具、遊び道具など様々なものを取り扱う完全商店らしい。

「あんたお金はあるの?」

「いちおう」

グラナさんに相談したところ壁に刺さった剣を好きにしていいとのことで、いくつか売ってみたら割りとすごい値段になった。

今の俺はちょっとしたお金持ちなのだった。

店内を歩きながら品物を物色する。

モンスターが徘徊する物騒な世界なので質素な物が多いかと思ったが、ファンキーでファッショナブルなものも結構揃っているようだ。

「これとか良くない?」

ヘカテリーヌが持ってきたのはドクロの変な被り物だった。金ぴかの鎧といいこいつのセンスはどうなってるんだ。

「お前が使うんじゃないんだぞ、戻してきなさい」

「ぶー、かっこいいのに」

ここはちょっとやりすぎだな別の場所にいこう。

次に訪れたエリアはフワフワでキュンキュンとしたいかにもKAWAIIって感じの場所だった。

うーむ、とんでもないアワェイ感だ。

しかし今の俺には心強い見方がいる。いちおう女の子のヘカテリーヌが!

相棒と目配せするように彼女の方を見ると顔を青くしてガタガタ震えていた。

「無理、私ここ無理!」

「お前がそんなんでどうする!?」

「イーヤー、ヤメテー」

俺は無理矢理ヘカテリーヌを押してダンジョンへと潜っていった。

とはいうものの女子力の低い俺はどう選んだらいいのか見当もつかない。

鮮やかな服飾品の並んだ陳列台の前で立ち尽くすしかなかった。

半ば諦めの境地に至りながらすがるようにヘカテリーヌを見る。

するとさっきまでの及び腰ではなく真剣な眼差しで品物を凝視していた。

「試着したらどうだ?」

「無理よ似合わないもの…」

「そうか?けっこういけると思うぞ」

俺は品物の中から一着取り出すと彼女と重ねてみる。

「うん、似合ってる」

元々顔は良いんだ。きっとどんな服も着こなして見せるだろう。

「もう、やめて」

ヘカテリーヌは俺から服をふんだくると元の場所に戻してしまった。その顔は茹でたように紅くなっている。

「お前には世話になってるし、欲しいなら買うぞ?」

「いいわよ、別にお返しが欲しくて助けた訳じゃないもの」

なんなのこの子、いい子過ぎない?

「早く別の場所に行きましょ」

次に訪れたのは鮮やかな花々が彩る植物エリアだ。

「いらっしゃいませ」

「あの…プレゼントなんですけど、女性への」

対応してくれた店員さんに相談してみる。

「プレゼントですかー良いですね」

店員さんにつれられて店の奥に入っていく。

「ねぇ、あの人なんかでかくない?」

「でかいな」

店員さんは花に囲まれたこの空間ではすさまじい威圧感を放つ大男で浅黒い肌は研ぎ澄まされた筋肉で波うっていた。

「あの、すごい体ですね」

「ははは、お恥ずかしい、これでも昔は格闘家をめざしていたんですがね。先祖代々花屋なもので」

「そっか、適性の問題ね」

「ん?どういうことだ?」

「花屋って事はジョブは『植物博士』でしょ、職人系は戦闘系と相性悪いのよ、初級スキルしか覚えられないの」

「へー、そんな設定が…ん?職人系って…」

「あなたと同じね」

じゃあ俺も戦闘系にはなれないってことかよ!地味にショック……。

「はは…、まあ頑張りましょう、この花はストレスを和らげる効果がありますよ」

「ストレスですか…良いですね」

里美にもあっているかもしれない。

「ただ育てるのに少しコツがいるので、慣れてないと逆にストレスになるかもしれません」

なるほどそれじゃ本末転倒だな。

それにしてもデメリットも説明してくれる辺りちゃんとした店員さんのようだ。

「育てやすいのはありませんか?」

「水やりが少ないのは乾中植物でしょうか、鮮やかな物は少ないですがコアな人気がありますね」

色々見せてもらったがピンと来るものはなかった。

何も買わずに出るのも忍びないので植物が元気になるというじょうろを購入した。

しかしその後もいくつかフロアを回ったが決定的な物は見つからなかった。

「むー、どうしよう…」

「ていうか、別に買わなくても良くないかしら?」

「どういうことだ?」

頭の中で反芻してみるが何を言っているのかわからない。

「あなただから贈れるものがあるでしょ?」

「俺だから贈れるもの?」

もう一度考えてあるものにたどり着いた。

「ビキニアーマーか!」

ゴチン

殴られた…。

「まあ、確かにあれはないわなー、ハレンチ過ぎる」

「どの口が…あんた私に着せようとしたでしょーが!」

そりゃ里美は戦わないし。

「けどなんか特殊効果あったみたいだぜあれ」

「知らないわよ」

再び頭をひねるがやはり思い当たるものがない。

「あんたねーそれでも職人なの?」

「職人……あーそういうことか」

職人といえば物作りのプロだ。つまり自分で作ってしまえばいいと。

「なるほどな、わかった、やってみるよ」

そうと決まれば早速試作に移らなければ。

「そうだ、これ」

別れ際、ヘカテリーヌに今日の戦利品を渡す。

「?」

丁寧に梱包された中に入っていたのは水色のリボンだった。

例のKAWAIIお店で買ったものだ。

「だから、別にお礼が欲しい訳じゃ……」

「お礼じゃない、俺がお前に使って欲しいんだ、でなきゃ俺がつけちゃうぞ」

ふふっとヘカテリーヌが微笑む。俺がつけたとこでも想像したのだろうか。

「しょうがないわね」

彼女は肩を竦めて髪を留めてあった紐を外す。

真っ赤な夕焼けに照らされて金色の髪はまるで宝石のように輝く。

そして俺が渡したリボンを手に取ると再び後ろ手に結い上げ始めた。

「どう?」

黄金の髪と一緒に水色の帯が揺れている。

「似合ってるよ」

自分の贈った物が彼女を飾っている。

鍛冶師として自分が作ったものではないけれど、きっとこんな気持ちなのかもしれない。

「じゃあな」

「待って」

呼び止められて振り替える。

「また会える?」

「ああ、きっとな」

こうして俺達は別れた。



晩飯を食べ終わり食器を片付けて、腹ごなしに部屋でボーッとする。

頃合いを見計らって今か今かと足を組み換える。

42分ほど待ってから俺は行動に移った。

コンコン

「あー、俺だけど」

ノックして声をかける。

しばらくして扉が開いた。

「どうしたの?」

「えーと、いま時間いいか?」

「?、うん」

部屋に通されると何故かいつもと違った緊張感に満たされる。

「あ、えっと、だな…」

うまく話せない、どうしてしまったんだろう。

「これ、お前に」

いてもたってもいられなくなって、勢いよくそれをつきだした。

「わあっ」

手に持っていたそれは光を反射して虹色に輝く水晶の花束だった。

「きれい…、でも、なんで?」

「いや、お前が調子悪そうだったから…」

「もう、大丈夫って言ったのに…」

里美は肩を竦めながらも小瓶に生けられた無機物の花を受け取る。

そしてタンスの上にそっと置いた。

「実はね、ちょっと友達とトラブルになっちゃったの」

話を聞くとどうやら一緒に出かける約束を忘れていたのを咎められたらしい。

記憶を無くす前の約束だ。

「そっか…」

「でも、もう解決したから」

そう言って里美は微笑む。

やはり少し疲れているようだった。

助けてやりたい、でもどうしようもない。

それでもこの気持ちだけでも届いて欲しいと透明な花束に思いを込めた。

そんなふうにタンスの上を仰ぎ見て花の横にある人形が目に入った。

不自然な布で一部が覆われた熊の縫いぐるみ。

あれはたしか俺が子供の頃に里美に贈ったものだ。

不注意で破ってしまい大喧嘩になった。仲直りのために後から布で補強したのだ。

いま見るととてもじゃないがひどいできだ。元通りには程遠い。

「あれ、曜ちゃんがくれたんだよね」

「え?」

ばっと里美の方を向く。

さっきまでの俺と同じようにタンスの上を見ていた。

「あんなに不器用だったのにこんなものまで作れるようになったんだね」

「お前、思い出したのか?」

「ちょっとだけ」

里美は親指と人差し指でちょっとのサインを作る。その時見せた笑顔はさっきまでとは違って見えた。

「曜ちゃん!?」

俺は思わず里美を抱き締める。

「良かった…」

それは暗闇の中に見えた一閃の光だ。

二人で積み重ねた思い出は確かに残っている、今までも、そしてこれからも。

「何度でも作るよ、例え忘れても、何度でも」

「曜ちゃん…」

それを確かめるように俺達は互いに身を寄せあった。


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