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夏の日の校舎

ただ座っているだけで額から汗が滲んでくる。

ここは周囲から隔絶された学生の園。

卒業した部外者達はもう簡単には戻れない箱庭、しかし在学生にそんなのは知ったこっちゃない。

節電の為か教室のクーラーは微風がそよぐ程度に調整され、コンクリート校舎の一室に集められた生徒達は温暖化を恨みながらもペンを動かし続ける。

童心の純粋さを写したような真っ白いシャツは、色とりどりの下着が淡く透けていた。

窓の外からは野球部だかサッカー部だかが、セミと一緒に騒いでいる声が聞こえてきた。

季節は夏、真っ盛り。

学生達は待ちに待った長期休暇に向けて興奮冷めやらぬといった様子だ。

だというのに、俺は教室で数人の成績不振者達と一緒に補講を受けさせられていた。

というのも授業中は注意散漫、居眠り常習、果てにテスト前には一足早く休みに入ったせいで点数はボロボロ。

人生初の赤点祭りを開催してしまったのだ。

しかしこちらにも言い分はある。

何を隠そうこの俺―――片倉曜は異世界を救うために勇者と共に旅を続ける誉れ高い鍛冶師なのだ。

放課後は色々あって披露はたまるし、休んだのも冤罪を晴らすためだった。

しかしそんな事情は学生の箱庭たるモラトリアムには通用しない。

国家を支える素晴らしい人材となるために、俺はペンを走らせ続けた。

「はーいおしまい、お疲れサマー」

担任の小弓先生の穏やかな声が響く。

俺はペンを置いて大きく伸びをした。

「これで皆も今から夏休みです。ハメを外しすぎないよう、一度きりの夏を目一杯楽しんでくださいね」

「先生もねー」

「あ…うん、そうね…はは……」

日に焼けた女子生徒が学生の本分から開放された喜びに溢れた返事をすると、担任である小弓先生は乾いた笑みを見せた。

まるでさっきまでとは立場が変わったみたいだった。

「おつかれさま」

教室を出ると幼馴染の里美が出迎えてくれた。

「待っててくれたのか」

「うん」

別にいらないと伝えていたのに、追試を選んだのが少し申し訳なく思えた。

「お弁当あるよー」

里美は何が嬉しいのか眩しく笑いながら巾着袋をブラブラ揺らして見せてくる。

ちょうど一日の半分が過ぎて時刻は昼飯時だ。

文化部の連中が購買やコンビニのパンをかじりながら談笑する教室の前を通り過ぎて、俺達は静かな場所を探す。

アニメとかなら屋上にでも行くんだろうがあいにくこの学校ではリア充の専横をうけている。

俺達は階段を降り、靴を履き替えて校庭に出た。

降り注ぐ日差しを避けるように隅っこを渡り、さらに隅っこの生け垣の先にある校舎と塀の隙間にあるポッカリと空いたスペースにやってきた。

そこは俺が入学当初に見つけた秘密の場所だった。

里美はコンクリートブロックにハンカチを広げるとそこに腰を下ろす。

同級生より少し太めの尻を突き出すと一陣の風が拭いてスカートをゆっくり盛り上げた。

「きゃっ」

純白の下着がチラッと覗かせた。

肩越しにちらりとこっちを振り返る里美、なんとなく気まずくて目をそらすと何事もなかったように座って弁当を広げはじめた。

燦々と降り注ぐ太陽を煩わしく思いつつ、卵焼きの甘みを噛みしめる。

「私のも食べる?」

「んー」

里美は箸で持ち上げるとこちらに差し出してくる。俺はそれを口で出迎えた。

「うまい」

「えへへ…」

慣れ親しんだ味はささやかな日々の癒やしだった。

ぎっしり詰まった弁当箱がきれいに空っぽになると再び巾着に収納される。

それをカバンにしまう際、一枚のプリントが目に入った。

『進路希望調査』。

古今東西の学生達を悩ませているであろう諸悪の根源。

しかし避けては通れない運命の選択。

四角く囲まれた記入欄は彼女の下着の如く白紙だった。

「あ、はは…、曜ちゃんはもう書いた?」

「いんや」

同じものが俺のカバンにも入っている。

先日クラスで配られて無造作につっこんだままである。

「…まだ決めらんないかな」

進学か就職か。

だがそれ以前に片付けなくてはいけない問題が眼の前にある。

「今は異世界の事に集中したい」

魔王を倒す為の冒険。

命がけの戦いの前で未来を見据える余裕なんて俺にはなかった。

「…私も」

里美も何やら悩んでいるようだ。できることなら彼女には何も煩わされず、自由に明るい未来を夢見てほしい。

「私は何になりたかったのかな」

一瞬、年頃の少女らしいセンチメンタルな自問かと思ったが、そうではない。

里美には記憶がない。

かつての自分が思い描いた将来とはどんなものだったのか。今の彼女は知る由もない。そんな立場で進路を決められるものだろうか?

「曜ちゃんは知ってる?」

「んん…」

そういえば最近はそんな話をする機会もなかった。

記憶をひっくり返してみるが思い出すのは幼少の頃に自己紹介として書いた『お姫さま』くらいだ。

さすがに今も同じではないだろう。

「…そんなに深く考えなくてもいいんじゃないか?」

あくまで希望は希望だ。

俺達はまだ高校2年生、時間はまだある、はずだ。

「でも、1つだけわかってる事はあるの」

「へー、どんなのだ?」

里美が何を目指していたのか、俺としても気になるところではある。

「曜ちゃんと一緒にいる事」

「………」

突然の告白に俺は面食らって固まってしまった。

その笑顔は真夏の太陽より眩しく見えた。

「ふぅ…」

水でノドを潤してなんとか心臓の鼓動を落ち着かせる。

「疲れちゃった?」

「んー、そうかも…」

「横になる?」

里美は己の太ももを叩いて誘ってくる。

ちょっと恥ずかしかったが、俺は吸い寄せられるようにそこに頭を乗せた。

同じ人間とは思えないほど柔らかい肉体が後頭部を優しく受け止めてくれる。

「気持ちいい?」

「…ん」

里美の指が髪の隙間に入り込んで地肌を撫でる。

撫でるというより触れる、の方が近いかもしれない。

手のひら全体で包み込むように存在を感じ取る。

目を開けると頭上には純白のシャツを持ち上げる2つの豊かな膨らみ。その向こうから日の出が如く覗く、少女のほほ笑みが見えた。

視線が合うとなんとなく恥ずかしくて俺は寝返りをうつ。

すると今度は血色の良い柔肌が眼前に広がった。

思わずそれをそっと撫でる。

「くすぐったいよ…」

俺が白く滑らかな太ももを撫でる度、彼女はピクッと反応を見せた。

なんだかそれが快くて何度か繰り返してしまった。

「んっ……ん…」

「な〜にやってるのかな〜?」

「ひゃ!?」

ひときわ大きく太ももが揺れた。

思わず視線を上げると、そこに現れた光景に俺は釘付けにされた。

しなやかに伸びた細い指先が里美の胸に沈み込んでいく。

鷲掴みにする五指を逆に包み返すように形を変える乳房はその柔らかさを伝えてくる。

近いようで遥か遠い、異性にとって夢に見る甘い果実のような、その感触を目の前で味わわれている。

さらには里美の脇の下から伸びる腕は激しく揺れ、その手中から溢れんばかりの果実を弄んだ。

里美は己の肉体が他人の意思によって歪まされる度に痙攣し呼吸を荒げる。

俺はそんな光景を彼女の膝の上から見上げていることしかできなかった。

「こーら、見すぎだぞっ」

すると腕の主である佐竹先輩が里美の肩越しにこっちを覗き込んできた。

「そう言われましても…」

あんなものを見せられて目を背けろという方が無体だと思う。

「おっ、お手洗い行ってきますっ!」

「ありゃ、逃げられちゃった」

身体を弄ばれた里美はスカートの前を押さえながら走り去ってしまう。

それを先輩は名残おしそうに指で宙を掴みながら見送った。

「何か用事ですか?」

俺は改めて問いかける。

「用事が無いと会いにきちゃダメ?」

「…いえ、そんなことは…」

素敵な先輩に無邪気な顔でそんなことを言われると、鼓動が速まった気がする。

「どうかした?」

「…暑さで動悸が…」

「大変、ちゃんと休まないと」

すると先輩はコンクリートのブロックに腰かけ膝をポンポンと叩いた。

「………」

俺が立ち尽くしていると、もう一度ポンポンした後、爽やかに微笑みかけてくる。

「………」

あそこで横になれというのか。

それじゃあ動悸が収まるどころか悪化するだけだ。

しかし無言の圧力と柔肌の魅力に負けた俺はすごすごと先輩の膝枕に頭を預けた。

上を仰ぐと女性らしい膨らみの向こうに先輩の整った顔が覗いてくる。

里美より少し小ぶりで、しかし同級生からは羨望を受けるであろう豊かな双丘。

俺はなんとなく顔を横に向けた。

するとこめかみに優しい感触。

先輩の指先がそっと触れるように俺を撫でる。

まるでそれ以上だと壊れてしまうかのように。

丁寧にかつ恐ろしげに。

産まれたての雛を確かめるかのように。

先輩にとって俺はそんなに儚い存在なのだろうか。いや、単純に彼女の癖なのかもしれない。

そういえば里美の撫で方はなんというか、もっとねっとりしていた気がする。

髪を指先に絡めるような、手のひら全てで包み込むような。

そんなことでも二人の違いを感じ取れて面白いと思った。

「そういえば二人で何話してたの?」

すると先輩が急に口を開いた。

とはいえ何の気もない、ただの雑談だろう。

俺も何の気なしに返答した。

「進路希望ですよ。まあ、特に決めてはいないんですけど」

「あ〜もうそんな時期かぁ」

先輩は遠い昔を懐かしむように応じた。

進路といえば3年生である先輩は卒業を控えた立場だ。そう思うとなんだか急におぼろげだった将来が現実味を帯びて感じられた。

「…先輩は決まってるんですか?…進路とか」

言葉が口をついた時、俺に触れる彼女の手が揺れた。

それはきっと心の動きに違いなかった。

生ぬるい風が俺の胸をなでた。

「まだ…わからない……」

それは測りえぬ可能性を前にして将来に悩む少女の言葉でないことは想像できた。

そして気がついた。

佐竹先輩が何を考えているのか、彼女の俺に触れる手がなぜあんなにかぼそいのか。

先輩は何度も同じ時間を繰り返してきた。

古代魔法で時の檻に閉じ込められて、年を越すたびに彼女だけが1年前に戻され、全ては無かったことになる。

「居なくなりませんよ、俺は」

先輩の手を握って押し付ける。

存在を確かめさせるように。

既に呪いは解けた。

時魔法を司るオーブは粉々に砕け散った。

だが本当にそれで充分なのか。もしかしたら確証はないのかもしれない。

だが証拠は揃っている。

様々な文献を読破しあらゆる情報を精査した結果、積み上げられた状況証拠だ。

なら、うだうだ悩むのは理にかなわない。

そんな塵みたいな可能性で先輩を追い込むなんて許せるはずがなかった。

「大丈夫ですよ、一緒に新年を迎えましょう」

「……うん」

握った先輩の手が俺の手を握り返す。

なんだかちょっと恥ずかしくなってきた。

しかし今更手を離すこともできない。

俺は速まる鼓動を感じながら夏風に揺れる木々を眺めた。

「曜君…」

風に紛れて先輩の声が届く。

「!?」

視線を向けるといつの間にか先輩は、かがみ込んでいて、目の前に大人びた少女の顔があった。

甘い香りが鼻腔をくすぐる。

自分からは発しえない異性の香り。

瞬く度に長いまつげが揺れて、黒い瞳に吸い込まれそうだ。

きめ細やかな肌はじんわりと赤らみ、潤んだ唇からは暖かい吐息が漏れてきていた。

というかおっぱいが、おっぱいが垂れ下がって、おっぱいが、おっぱいまずい。

「…せん…ぱい…?」

あまりに近い、だがまだ許容できる。

既に心臓は警鐘を鳴らしているが、これくらいならばまだ、からかわれているだけですませられる。

しかし俺の思いとは裏腹に眼前の美少女のズームはまだ終わらなかった。

「あ……」

もう訳が分からず目をつむってしまう。

ポタリ、と水滴が頬に落ちた。

二つの生命が一つに交わるような予感が脳裏を奔走する。

その瞬間、鼻筋を撫でる熱い吐息と共に声が届いた。

「…ありがとう」

恐る恐る目を開けると先輩がゆっくりと姿勢を戻していた。

二人の間をそこにあった熱を取り去るように風が通り過ぎていく。

状況を理解できずにいると先輩がいたずらっぽく微笑んだ。

そこでやっぱり、からかわれたのだとわかった。

別に悪い気はしないのが不思議だが。

とはいえなんとなく握っていた手を離して俺はそっぽを向いてみる。

「怒った…?」

「別に、怒ってませんよ」

「…ほんとに?」

先輩はかまってほしそうに俺の頭を撫でる。そこにさっきまでのよそよそしさはなかった。

「………」

「よ〜うく〜ん」

「なんですか?」

「もぉう、機嫌なおしてぇ」

「別に悪くないですって」

ほんとに怒ってないのだが、なんとなく可愛いのでこのままでもいいかもしれない。

「わかったっ、じゃあね、おっぱい揉ませてあげる」

「え」

突然の提案に思わず声が漏れた。

「お詫びの印に」

「…ま、またそういう事を」

どうせまたからかうつもりだろう。今度こそ騙されないぞっ。

「ずっと見てたでしょ?…いいよ、君になら」

そりゃあれだけ接近されたら自然と目が誘導されてしまう。そうでなくても里美とのコミュニケーションを見せつけられているのだ。年頃の男の子なら想像しない方がおかしい。

「なんだか、熱いね…」

夏ですから。

先輩はそう言うとブラウスのボタンを一つ外した。

それと同時に俺の中でも何か外れた気がした。

突然だが、先輩は俺のことが好きだ。

だからきっと頼めばおっぱいの一つや二つ揉ませてもらえるのかもしれない。

いやきっと揉ませてくれるだろう。

だがそんな彼女の好意に甘えてしまっていいのだろうか?

それは人としてもの凄く最低な事ではないか?

しっかりと彼女の目を見たうえで、貴女のおっぱいが揉みたいと言えるのか?

俺は今一度先輩の顔に視線をやった。

そこで先輩が大量の汗をかいていることに気づいた。これではボタンも外したくなるだろう。

いや、確かに夏真っ盛りではあるのだが、さすがにこれは大げさじゃないか。

顔も真っ赤だし何故か今にも泣き出しそうにも見えた。

「先輩…とりあえず水分を」

「揉むの?揉まないの?」

「いや…そんな場合じゃ…」

執拗に問いただしてくる先輩。仕方ないので俺はとある疑問をぶつけることにした。

「もしかして、恥ずかしいんですか?」

「……!?!」

先輩の顔はさらに赤みを帯びて、汗も滝のように流れ落ちていく。

「…先輩、そんな無理しなくても…」

「………」

「……先輩?」

「……うるさいうるさいっ」

先輩は顔を赤らめながら睨みつけてくる。かわいい。

そしてシャツのボタンをさらにもう一つ外した。

「…っ!?」

もうおっぱいの始まりが見えてしまっている。

というかさらに汗まみれのせいでワイシャツが透けてオレンジ色が……。

先輩はもうヤケになったのか3つ目のボタンにまで手を伸ばす。

こうなったらもう鎮める方法は一つしかない。

そう、これは人助けなんだ。仕方のないことなんだ。

俺は熱さと興奮とでぼーっとした頭のまま、目の前の熟した果実に手を伸ばす。

「…ん」

いくら望もうと掴めない禁断の果実が、今目の前でむき出しになっている。

ならば追うのが創世記より定められた人の性というものだろう。

ゆっくり、ゆっくりと近づく俺を先輩は潤んだ瞳で見つめる。

やがてその指先は彼女の最も盛り上がった部分にたどり着く。

「…あ…んぁ」

力強く手のひらを押し付ける度に彼女の艷やかな唇からは熱い吐息が漏れた。

厭しく主張する膨らみに荒ぶる五指は深く深く沈み込み、より内側からその肉塊を刺激する。

「あぁ…ん……あっ…んぅ…」

徐々に激しさを増す愛撫に先輩の肢体も艶かしく躍動していく。

俺はそれをただ見ていることしかできなかった。

「まったく、不純異性交遊など退学もやむなしぞ」

しばらく佐竹先輩の肉体を弄んだ生徒会長 織田希子先輩は飽きたのかその場を離れて俺の方へと歩いてきた。


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