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激突

ヘカテリーヌはジャーニィの顔面を力いっぱい、ぶん殴る。

男の体が宙を泳いで砂漠に突き刺さった。

「はぁ…はぁ…」

気力と体力を使い尽くしたヘカテは疲労困憊のていで膝をつく。

そこに刺客の一人が襲いかかってきた。

『連立華橋』

『倒立華柱』

『散華掌』

『流星爆撃』

「あ、ああ、うぅ……っ、、」

お手玉のごとく弄ばれると最後に砂を巻き上げて墜落した。

褐色の砂漠に鮮やかな血の華が咲く。

「次は俺の番だ」

ジャーニィを倒してもまだ刺客は5人残っているのだ。

「おい、俺はまだやられてねぇぞ!」

すると砂の中から起き上がったジャーニィが割り込んできた男を怒鳴りつけた。

「同じようなもんだろう、あんたまどろっこしいんだよ」

「あんだと?」

「砕けた武器の補填でも考えな」

「あ……」

突然わって入ってきた狐目の男はジャーニィを無視してヘカテに歩み寄る。

そして地に伏す彼女に魔法をかけた。

「……?」

そして魔法を受けて立ち上がろうとするヘカテを蹴り倒す。

また近づいて魔法をかける。

そしてヘカテは立ち上がろうとする。

また彼女を蹴り飛ばした。

「なんで……?」

ヘカテは砂を舐めながら疑問を口にする。

男は魔法で自分を回復させているからだ。

回復させた上で戦いを継続するのだ。

「どうしたぁ?立てよ勇者様」

またしても回復魔法を使ってくる。

「何を…かんがあっ……!」

そしてまた立ち上がろうとするヘカテを蹴り飛ばした。

「くっくっく、ほら、はやく立てよ、くくっ」

「ぐぅ…」

ヘカテは立ち上がる、体力の続く限り。

例え敵が回復したのだとしても。例えその後に攻撃されるとしても。

何度も立ち上がっては蹴り飛ばされた。

「あぁっ……!」

「ははははは、こいつはとんだマヌケだぁ!!」

男は痛ぶるのに飽きたのか今度は無理やりヘカテを持ち上げる。

「く…ぅ……」

「はははははっ」

そしてもう片方の手で彼女を複数回にわたり殴りつけた。

そして回復させる。そしてまた殴る。

「ほらほら、どうしたぁ?もうおねんねの時間でちゅかぁ〜?」

腹を三度殴る。

「がはっ…」

吐き出した血が男の顔にかかった。

それを舐めると恍惚の表情を浮かべ、興奮したのかさらに激しくヘカテリーヌの身体を攻めたてた。

広大な砂漠に肉を殴る音と男の笑い声だけが響く。

もはや回復するのも忘れ、ただただ暴虐の限りを尽くした。

「おい、もうやめろ」

あまりの凄惨な光景に刺客の一人が止めに入った。

アウステラの代表、軍事王の次男であり国随一の剣客でもあるバウレイクだ。ヘカテリーヌに剣を教えた事もあった。

「俺達の任務は彼女を捕まえることであって痛ぶることじゃない」

「あぁ…?」

「!?」

すると狐目の男、ヒメチュリアの元マフィア現近衛兵隊 朱命會総長 王咬狼はぬるりと振り返ると、バウレイクに膝蹴りをみまった。

「きっさま…」

バウレイクも即座に体勢を整え反撃にでるが、咬狼はヘカテリーヌを掴んだままさらにたたみかける。

「くっ…」

ヘカテに当たることを危惧して動けない。

「はっは、なんだ?こいつはお前の女か?」

『散華掌』

咬狼は火花を散らせながらヘカテの頭で殴りつけた。

「……っきぃさあぁまあぁ!!」

それがついにバウレイクの感に触れた。

怒りに任せて剣を抜き一瞬の内に咬狼を切り刻む。

全ての斬撃はヘカテを避けて標的だけをとらえている。

一瞬にして血に塗れる咬狼だが己の血にすら興奮するのか、舌なめずりすると薄気味悪く笑う。

そしてまたもヘカテを振り回して向かっていった。

だが一度、斬ると決めた剣士はもはや迷いなく刃をふるう。

時に力強く、時にしなやかに、相手の攻撃をかわしながら確実に肉を削ぎ落としていく。

極限まで集中した剣士の前に人の盾などむしろ逆効果でしかない。

咬狼にとって手中のヘカテはもう邪魔でしかなく、それを察っすると彼女の頭から手を放してバウレイクに向かって蹴り飛ばした。

「ジャーニィさん、ジャーニィさん、止めなくていいんですか?」

「2000万……2000万……」

ユニが必死にゆするが彼の心はここにはなかった。

「ラウンドさん、同じ国の人なら止めてくださいよ」

「……知らん」

「もぉー、ヲーライトさんは勝手に突っ込んでいっちゃうし、何なんですかこの人たちわーーーっ!!」

ユニの慟哭が響くのとほぼ同時にバウレイクと咬狼の勝負はクライマックスを迎えていた。

『日輪武装 毘盧遮那迦楼羅炎舞俑』

「なんだ……その姿は…?」

咬狼は大きく飛び上がると、太陽に溶けるように重なる。

そして再び降りてくるとその姿はまったく違うものになっていた。

体は青く変色し大小の穴が空き鎖が通っている。顔は殆どが仮面の下にあり飛び出した眼球と鋭い牙が不気味に光る。2本の腕の他に、もう2本の腕が宙に浮いていた。

「見たこともない技か…」

バウレイクは次の衝突に備えて身構える。

気がつくと眼の前に咬狼がいた。

「!?」

そして次の瞬間には宙に浮いていた。

波のように押し寄せる暴行にバウレイクは手も足も出ない。

研鑽し積み重ねた技を、単純なパワーとスピードと手数に蹂躙された。

「あ…ごほっ…ぐ……あぁ……」

「アウステラいちの剣士がこの程度か…」

咬狼は嘆息すると3、4番目の腕で、全身の骨をおられ文字通りボロ雑巾となった男をつまみ上げた。

「このまま生き恥をさらさせるのもかわいそうだ。人思いに今ここで引導をくれてやろう」

右の拳を握ると青白い炎が灯る。

地獄の業火が光を屈折させ世界を歪めた。

腰を落として腕を引く。

息を吸い、吐く。

鼓動が膨らんだ瞬間、目を見開き、腕を突きこんだ。

一帯を白炎が包み、膨れ上がった熱が内なる全てを焼き、溶かし、蒸発させた。

砂漠は生物のいない黒焦土と化しそこに溶岩の川が流れ、抉れた大地の底に溜まった。

この世の物とは思えぬ世界の中心に一人立つ王咬狼は、まるで黄泉からの使者であるかのようだった。

「!」

だがその悪鬼の顔はすぐに歪められた。

自らが殺害すると定めた瀕死体、バウレイクは少し離れた少女の腕の中にいたからである。

ユニは今にも崩れてしまいそうな程ボロボロな男を優しく抱きながら咬狼を睨みつけた。

「どうして…こんな事ができるんですか?」

「何をした?貴様…」

咬狼は彼女を睨み返すと、再びその腕で眼の前の全てを破壊しようとする。

「そこまでだ」

ここで横槍が入った。

二人の間に割って入ったのは爆塵のジャーニィだった。

「お前も壊してやろうか?」

「よく見ろ、いつの間にか勇者がいねぇ」

「………」

言われて咬狼は周囲を見回す。

確かに金髪の女の姿はどこにもなくなっていた。



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