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指名手配

「う〜体が重い…」

俺は悲鳴を上げる体を引きずって、本分である学業をこなしに今日も今日とて憩いの学び舎へと向かう。

「もー、かばん持ったげようか?」

「大丈夫…」

この日を凌げば明日からは週末だ。

気持ちよく休めるように禍根は残しておきたくない。

そしてなんとか授業を終えて帰宅する。

「次は…異世界に…」

里美の部屋にある異空への扉に足をかける。

そこで部屋の主に引き止められた。

「今日はやめておいたら?」

「それがさぁ、そうもいかないんだよなぁ…」

昨日の夜、砂漠の村が魔物によって半壊させられた。

その事件の顛末を偉い人に報告しなければいけないのだ。

「ヘカテちゃん達に任せたら?」

「んー、できるかなぁ」

アホ、は酷いかノーテンキ、でもない脳筋、も違う知恵足らず、じゃない単細胞、もあれだし…んー……。

とっても素直な女の子であるヘカテリーヌに事務的な報告ができるかはちょっと怪しい。

ハルシャークも勇者教が嫌厭されていて街に入れるかすらわからない。

「それじゃあ私に任せなさい!」

大きな胸を張って現れたのは佐竹先輩だった。

「いや、悪いですよ」

「大丈夫だから、曜君は休んでて」

「いやいや」

「いやいやいや」

先輩と押し問答になるが軽い目眩がしてふらついた結果、バランスを崩して倒れてしまった。

「あっん…」

先輩も続いて覆いかぶさってくる。柔らかい感触が怠い体に心地良い。

「これじゃあ別のところが元気になっちゃうね」

ツッコム気力もわかない。これは素直に任せた方が良さそうだ。

「お願いできますか?」

「了解、佐竹隊員、出動します!」

先輩はふざけて敬礼すると異空間に消えていった。

以前に比べるとだいぶ明るくなった気がする。たぶんあれが本来の学校の人気者だった先輩なんだと思う。

「上手くできたらご褒美だぞ」

先輩は頭だけ戻ってくるとそう告げて、再び消えた。

本当に可愛い人だ。

「はい、曜ちゃんはベッドに入って入って」

「うぃ〜…」

こうして俺はつかの間の休みを享受したのだった。

この日は心の読める音子に的確なお世話をされたり、じいさんにエロサイトを紹介されたり、里美と添い寝したりした。

そして待ちに待った土曜日。

完全に復活した俺は意気揚々と異世界の扉をくぐる。

そういえば、昨日は先輩が帰ってこなかった。

まあ週末だし向こうで一夜を明かしたのかもしれない。

視界が開けると前回くぐった時と同じ、魔物が暴れて廃れた村の半壊した家の一室だった。

割れたドアを開けて外に出る。

すると何やら騒がしい、もしかしたら既に村の復興が始まっているのかもしれない。

様子を覗いてみると鎧を着た集団が村の状態を確かめているようだった。

鎧に刻まれたマークはエルクシス自衛軍のものだ。先輩がしっかり報告してくれたのだろう。後は彼らに任せておけばいい。

俺は別の街に移動しようと魔法を使う。

するとそれに気づいた兵士達が叫んだ。

「あいつだ!あいつを捕まえろ!!」

「は?」

今、捕まえろって言ったのか?

俺が状況を理解する前に兵士達は飛びかかってくる。

矢を放って移動魔法を妨害してきた。

明らかに敵対の意思を見せている。

「なんだってんだ!?」

理由がわからぬ内に取り囲まれてしまった。

「お前は指名手配されている!大人しくしろ!」

指名手配!?

目前に広げられたポスターを眺める。

そこには確かに俺の名前と顔が記されていた。

そしてその下には生死問わずの文字と捕まえた時の報奨金まで記載されている。

値段は………1000万円!?

いまだに訳が分からないがどうも冗談の類ではなさそうだ。

「ちょっと待ってくれ、何かの間違いじゃ…」

「問答無用!!」

兵士達はいっせいに切りかかってくる。

「くそっ」

『フレイラ』

俺は火の魔法で迎撃、ではなく足元に放つ。そして愛用の金槌で地面を叩いて隆起させた。

兵士達を弾き飛ばしながら竹のようにぐんぐんと空に向かって延びていく。

やがて重さに耐えきれずしなって俺をおろす。

「待てー!」

兵士を飛び越えた俺はもう一度移動魔法を試みる。

だがどこへ行けば良い?

本当に指名手配されているのか、それはエルクシス限定なのか、もし全世界で追われる身だったら、いったいどこに飛ぶのが正解なんだ?

しかし迷っている暇はない。兵士達は諦めず追いかけて来ている。

確証は無いがあそこしか思いつかない。

俺は呪文を唱え、空高く飛び去った。

一瞬で世界を横断し、やがて森の中へと着地した。

ここは人食い森と呼ばれるエルフ達が暮らしている所だ。

俺の周りにも特徴的な耳を生やした金髪のエルフ達が日常生活を営んでいる。

彼らは急に飛んできた俺を凝視するが、すぐにまた歩き出した。

少なくとも兵士達のように直ぐ様とらえようとはしてこなかった。

とりあえず安心して一呼吸つく。

だがまだ油断はできない。

いったい俺がいない間になにが起きたのか、誰が敵で誰が味方なのか、あてもないが調べなくてはいけない。

「カタクラ様!」

すると村の奥から俺を呼ぶ声がした。

「ラジュ」

彼女はエルフの里を統べる族長である。

エルフの中では若いほうだが既に齢3桁は超えているらしい。

彼女は息をきらして駆け寄ってくると、手前で立ち止まり大きく息を吐いた。

そして心配そうな顔で話しかけてくる。

「良かった、無事だったのですね…」

無事、ということは彼女は事情を知っているのか。しかも俺の立場に寄ってくれているみたいだ。

「すいません、何が何だかわからなくて。どうして俺は指名手配されているんですか?」

「説明いたします、どうぞこちらへ」

俺はラジュに連れられて村の中の一際大きな建物へ向かった。

木のはしごを登って中へと入る。

「先輩!」

「曜君!!」

佐竹先輩は俺を見つけると駆け寄って抱きついてくる。

俺も嬉しくなって受け止めた。

「良かった、ここにいたんですね」

「うん、追いかけられて、もうここしかないって思って……そうだ、ヘカテちゃんとハルシャークさんが私を庇って……それで」

「落ち着いてください、何があったんですか?」

俺は先輩の背中をさすってなだめつかせる。

わずかに涙ぐむ先輩は俺の胸に顔を寄せた。

「私が説明いたします」

俺はラジュの前に腰掛ける。

「あくまでサタケ様より聞いた話なのですが、エルクシスで出国審査を受けた際に偽の許可証だと疑われたらしいのです」

「偽の許可証?」

許可証はアウステラの王様に貰ったものだ、偽物であるはずがない。

「それで拘留されたのですが、留置所が襲撃にあったそうです。その襲撃から逃げ出したところ、脱獄したとみなされ指名手配されたと」

「なんだそりゃ、ガバガバにも程があるだろ」

あまりにもタイミングが良い、いや悪すぎるのか。どう考えても狙ってやったとしか思えない。

「ハメられた、て事か」

「おそらく」

偽の許可証と襲撃犯、こいつらはグルなんだろう。

だがなんの為に?いったい誰が?

「現在、人間達は皆様を偽の勇者一行だと断定。街の前に検問をしいて厳戒態勢を取っています」

そこまで大げさになっていたのか…。

「それじゃあ、ヘカテとハルシャークは」

「今も逃亡を続けていて行方知れずとなっています」

「私を逃がしてくれたの…それで、はやく曜君に伝えなきゃって…」

「もう大丈夫ですよ」

震える先輩を抱きしめる。よほど怖い目にあったのだろう。

全人類から追われる羽目になったのだ、それも仕方ない。

「先輩はここにいてください」

「曜君は…?」

現状を打破するには容疑を払拭しなくてはならない。

その為には捜査をして証拠を集める必要があるが、下手に動けば捕まる危険もある。

何より俺達をハメた連中がどこかに潜んでいるはずだ。

「まずはアウステラに行く」

「ですが検問があります。魔法で姿を変えても見破られてしまいますよ」

「それなら問題ないです」

俺は魔法の効果を打ち消すアイテムを使って本来の姿に戻った。

「……どういうことですか?」

「こっちが元々の顔なんですよ」

ヘカテとの冒険が始まる前、一番最初の出来事。

勇者に選ばれた里美が異世界から帰ってこなくなった時、俺は自ら死んでこの世界の住人に生まれ変わった。

その時に姿も変わっているのだ。普段は魔法で戻してはいるが。

「よくわかりませんが、お気をつけて。何かあったらここに来て羽を休めてください。我々エルフ族はあなた方の味方です」

「ありがとうございます」

俺は挨拶を済ませ立ち上がる。

「あ、私も…」

「先輩はここにいてください。何かあった時、二人とも捕まったら打つ手がないですから」

本当はただ心配だっただけだが、何か理由がないと聞き入れてもらえないだろう。

先輩は渋々了承して俺は一人、森を後にした。


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