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新しい朝

「起きて、曜ちゃん起きて」

「んん…」

近ごろ暖かい日も増えてきたがまだまだ朝は肌寒く、温もりを蓄えた毛布を手放す事は一日の始まりに対してラスボス級の手強さだ。

しかしそれを取り上げようとする悪魔が現在俺の部屋には降臨しているらしい。

「やだ…」

「もー、起きないと…イタズラしちゃうぞ?」

「…やれるもんならやってみろ」

「え…」

安眠を妨げられてご立腹な俺は適当にそれをあしらうと再び微睡みに身をゆだねる。このまま二度寝としゃれこもうではないか。

するとギシギシと音がなる、ベッドがきしんでいるようだった。

里美が乗ってきたのか、いったい何をするつもりなのか。

「曜ちゃん」

耳元で声がした。熱い吐息がかかってくすぐったい。

しかしこの程度で屈する俺ではないぞ。

すると今度はフーッと息を吹き掛けてくる。冷たい風が頬を撫でた。

まったく、なんてかわいいイタズラだろうか。

俺はそんなもの効かないとばかりに寝返りをうつ。

「むー」

後ろで唸る声、ギブアップか。

しかし再び接近してくる気配。

相変わらず強情なやつだ。だがどんな手をうとうと、俺はこの場を譲る気はない。

すると里美はそっと俺の手をとり、そのまま持ち上げた。

何をする気だ?身構えていると指先が何かに触れた。ひんやりとしているが妙に湿っぽい。

軽く押してみるとビクッと揺れた。

「ん…」

「」

これもしかして…。

するすると腕が持ち上げられていく。

指先は柔らかい脂肪の感触、手の甲は衣ずれ。

間違いない、これは…。

KARADA!?

おいおいおいマジか!?

驚きに刈られている間にも着実に腕は持ち上げられていく。

このままだと先に待っているのは……おっ…おっぱ…。

これはダメじゃないか?!不純な交遊は…!?

だが待ってほしい。俺は今微睡みの中にいる。であればこれは夢という可能性もあるんじゃないだろうか!!

そしてついに俺の指先はこれまでより一段と柔らかい、肉の壁に到達する。

しかしこの旅路はそこが終着点ではなかった。

自由を求めるかのように指先は壁を登っていく。

足元を蹂躙しながら登頂を目指す。

しかしそこは底なし沼のようでドップリ沈み混んで動けなくなってしまった。

もがいても、もがいても力は柔らかい大地に吸収されその先に進めない。

「って、ダメだろこれは!?」

俺は毛布を弾き飛ばして身を起こす。

そして反射的に腕の方を見た。見てしまった。

そこにあったのは、顔を赤らめた里美と、尻をつきだしたじいさんと、その尻を揉みしだく俺の手だった。

「ぎゃーーーーーーー!!?」


「朝から嫌なもん見た…」

「曜ちゃんが早く起きないからだよ」

俺は学校への道を歩きながら朝の出来事を反芻、いや脳の片隅にしまいこんだ。

「おーい、そこの二人~」

すると後ろから声がする。

「おはようさん!」

「おう」

「おはよう、茂庭君」

「おう、伊達さんも、久し振りだなー、大丈夫だったの?」

「おかげさまで」

こいつは茂庭 駆流。

中学からの付き合いで、俺の唯一といってもいい友達だった。

「朝っぱらから煩いなお前は、昔はあんなに」

「やめてくれよ~、誰が聞いてるかわかんないだろ?」

こいつも昔は俺と同じくクラスでも目立たない奴だったんだが、みごとに高校デビューを飾り、今では親友から友達の一人に格下げされてしまったのだ。

何故かよく語尾を伸ばす癖がある。それがチャラいと思っているらしい。

中学時代を知っているのはウチでは俺と里美位で、それをネタにしてたまに脅したりする関係だった。

「ほんと心配したんだよー、一週間も休んでさー、曜もなんも言ってくれねーし」

「ちょっと風邪をこじらせちゃいまして、心配おかけしました」

それと里美の記憶喪失はできるだけ隠しておくことにした。クラスの交遊関係については事前に伝えてある。

「もうすぐ体育祭だしさ、やっぱ伊達さんもいないと盛り上がらないっしょ」

「そうか?そんなに騒ぐタイプでもないだろ」

「わかってないなー曜は、こういうのはいいとこ見せるチャンスじゃん?」

現実はそう甘くないと思う。駆流は高校デビューのエセのせいか未だに夢みがちな所が残っている。

「そういや曜って実行委員会だったよな?」

「は?違うぞ」

「いやそーだって、この前決めたじゃん」

いやいや、え?まったく記憶にないぞ。

「ほら」

駆流はスマホを見せてくる画面にはメッセージアプリのクラスグループのページ。

実行委員決まりましたー、という文字の下に俺の名前もあった。

「マジかよ…」

ここ一週間里美の事で頭がいっぱいだったので空返事してしまったのかもしれない。

実行委員会とかまったく似合わないだろ。

「まっこれを期にお前もデビューしちゃえばー?」

そんなどっかのアイドル事務所社長のようなことを口走る駆流、他人事だと思いやがって。

そんななんてことのない話をしながら俺達は学校へと歩くのだった。

校門を潜ると下駄箱へと向かう。

「ん?」

すると何やら様子がおかしい。

俺の下駄箱の前に誰かがたっている。

いや、下駄箱は棚のようになっているのでそれだけならいいのだが、目前の女子生徒は間違いなく俺の下駄箱に手を突っ込んでいた。

間違えているのだろうか?暫くすると女子生徒は立ち去ってしまう。

「あの人、佐竹先輩じゃね?」

「知っているのか駆流」

「むしろ知らねぇのが意外だよ、もちっと伊達さん以外にも目を向けようぜ」

ほっとけ。

「それで?」

「めっちゃ美人で頭もよくて、おまけに性格もいい、学校一の人気者だったんだ」

「だった?」

「見ただろ、三年になって突然人が変わったみたいになっちまったんだ」

確かに今さっき見た佐竹先輩は、髪は長くボサボサで視線はうつむきがちでとても人気者の風貌とは思えない。ただ赤縁眼鏡の奥には確かに美人の面影があった。

入れ替わるように下駄箱の前に立ち、素早く蓋を開ける。

するとひらりと何かが落ちる。

拾ってみるとそれは質素な便箋だった。

「お、おい、なんだよそれ!もしかしてラブレターか!?」

「そんなわけないだろ、話したこともないのに」

「いやいやわかんないぞ、一目惚れって言葉もあるくらいだしな」

ないない。

「曜ちゃん、ラブレター貰ったの?」

「いや、たぶん誰かと間違えたんだって」

「名前、書いてあるのに?」

「それは…たぶんどじっこ属性なんだよ!」

「いいよーそんなに言い訳しなくても、ほんとにラブレターだったらかわいそうだもん」

何故か俺が怒られてしまった。これは誤解を解くためにも早く中身を確認しなくては。

教室へいくと鞄を置いてさっそく便箋を手に取る。

「早く開けよーぜー」

駆流もよってくる。

里美は久しぶりの登校もあってか女子達に捕まったようだ。大丈夫だろうか…。

横目で様子を見ながら封をきる。中には一枚の紙。やべー、何故かドキドキしてきた。

違うとわかってはいるが変に期待してしまう男の子のさがなのか。

震える指で紙をつまみ引っ張りあげる。

そこに書かれた文字が俺の目に飛び込んできた。


『車に気をつけて』


なんじゃこりゃ。

車?なんで車?

「なんじゃこりゃ?」

全く同じ疑問文が横からも聞こえてきた。

「わからん」

これを貰っていったいどうすればいいのか。一応人並みには気をつけている筈だが。危うそうに見えたのだろうか?

「こうなりゃ本人に聞きにいくしかねえな」

「マジかよ、てか話してみたいだけだろ」

「たりまえだろー、ミス帝陣二連覇だぞ、今年は怪しいけど…」

確かにまだ始業までは時間がある。このままにしておくのもモヤモヤするし。

俺達は連れだって三年生の階に向かった。

「クラスしってんのか?」

「あたぼうよー、三年B組、右から二列目の前から三番目の席だ」

「…お前、そういうの人前で言うなよ、高校デビューが無駄になるぞ」

「ばかちん、お前の前だからに決まってんだろ」

何故かキメ顔だった。

言われた通りの場所をそれとなく覗く。

「いないな」

学校には来てる筈だし、トイレにでも行ったのだろうか。

「おかしい、机に鞄がないぞ」

「お前そういうのよく気づくよな」

俺でもちょっと引いたぞ。

しかしいったいどういうことか。

「お前、誰かに聞いてこいよ」

「いやいや、お前が行けよ」

「は?根暗の俺が行ける訳ないだろ。ただでさえ三年生の階でアウェー感にビビってんのに。こういう時のために高校デビューしたんだろうが」

「ちげぇし、青春を謳歌する為だし、お前こそ学校全部がアウェーみたいなもんだろうが」

うわー、言ってはならない事を言いやがったこいつ。

「君達何してるの?」

「「!?」」

やばい、知らない人に声をかけられてしまった。

「えっえーと、えーとですねー」

駆流は化けの皮がはがれ始めていた。

「実は佐竹先輩に話がありまして…」

悶える心臓を押さえつけなんとか会話を試みる。

「紫摺ー?今日はもう帰ったよー」

「え?」

帰ったって、今朝会ったばかりなのに。

「んー、私もさー、心配してるんだけど、何かあったんだろーねー、彼氏にやりすてされたとか?わかるわー」

「そっそうですか…」

そそくさと会話をうちきってその場を後にする。

「そうとう荒れてるみたいだな佐竹先輩とやらは」

「お前、なんか変わったなー」

「?」

「いやさ、あの状況でまともに話せるタイプじゃなかったじゃん」

「ぜんぜん話せてなかったと思うが」

もういっぱいいっぱいだった筈だ。

キーンカーンコーン

「やべっ」

予鈴に急かされて俺達は慌てて教室に戻った。



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