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旅路と情事

勢いよくご飯を頬張る兄妹を俺達は微笑ましく眺めていた。

「こんな子達を働かせて満足にご飯もあげないなんてっ」

「お前も腹なってるぞ」

ぐ~~。

二人の美味しそうな姿に釣られたのか、ヘカテもよだれを垂らしていた。

時間としては微妙だが軽食くらいは許されるだろう。

俺は店員を呼んで注文した。

「まったく、許せないわ」

サクサクとフライドポテトっぽい何かをかじりながら愚痴り続けるヘカテ。

「この食材も運び屋が持ってきてるんだけどな」

「それはそうだけどぉ〜」

「最近、星が落ちたとかで砂嵐が起きて、獣も暴れてるし被害が出てピリついてるんだ」

「星が落ちた?」

「たまにあるんだって」

隕石のことだろうか、この世界にもあるんだな。

適当に話した後、俺は手を洗いに席を立った。

すると佐竹先輩も遅れてやってくる。

「あの子達の話、どう思う?」

「幻のオアシスですか?」

砂漠にあるという未だ見つかっていない人の住める祝福の地。

もし実在するなら今回の目的であるカルト教団の隠れ家、もしくは俺達自身が探す勇者の装備が封印された遺跡がそこにあるかもしれない。

探すのはやぶさかではないが、そもそも本当にあるのかもわからない。

「じつはね砂漠の過去の地図と今の地図を比べたら重ならない街がいくつかあったの」

「本当ですかっ?」

地脈の流れは時が経っても変わることはない。それに沿って住む人々の営みも同じだ。

3000年前に勇者が魔王を倒して魔物が居なくなり、人々の居住範囲が広がった。しかし魔王が復活し魔物が跋扈し始めると再び元の街へと帰っていった。

地図が重ならないのはその時に忘れさられてしまった街がいくつかあったのだろう。

「あの辺りが砂漠になったのは人々が領土を巡って激しく争ったかららしいの。もしかしたらその過程で滅んでしまったのかも…」

なるほど、環境が急に変われば人が住めなくなるのも頷ける。

「というか、詳しいですね先輩」

「ん?ふふん、尊敬した?」

「ずっとしてますよ」

「ふふっ、もぉ」

先輩は恥ずかしそうに小突いてきた。

席に戻ると既に皿は空っぽだった。

さっそく今後の為の交渉に入る。

「お前らは運び屋として砂漠を行き来してたんだよな?」

「そもそも運び屋の前に俺達は砂漠の街で産まれたんだ」

「なら、俺達を案内できるか?」

「ちょっと、この子達にお願いするの?」

ヘカテが苦言を挟む。

確かに小さい子供を連れて砂漠を行くのは危険かもしれない。

「行くよ俺達」

しかし少年はきっぱりと言い切る。

続いて少女も頷いた。

「決まりだな、お前達、名前は?」

「トール」

「レンネ」

「よし、じゃあ行くぞ」

俺達は飯の代金を払った後、道なき砂の迷宮へと足を踏み入れた。

「……遅かったな」

街を出ると待たせていたハルシャークが砂まみれになりながら俺達を出迎えた。

周囲には争った形跡があり獣の残骸などが横たわっていた。

「大丈夫?」

「勇者様、申し訳ありません、みすぼらしい姿を…」

「こいつ異教の奴か」

「む、なぜ子供がこんなところに」

すると少年トールがハルシャークを見て眉をひそめた。

そういえば紹介がまだだったな。

俺は今までの事情を話し、改めて同行を求める。

「勇者様のお考えであれば私は従おう」

「俺も宗派とか興味ないし」

そして俺達は砂漠を進み始めた。

幸い天候は安定していて比較的順調に道程をこなした。

時には魔物に襲われることもあったが。

「何あれ〜かわいい〜」

ヘカテがその辺をのっそのっそと歩いていた毛むくじゃらの獣に近づいていく。

「あっダメ!!」

数センチの距離まで寄ると獣が突如、豹変し、長い手足を生やして襲いかかってきた。

「大丈夫ですか?我が勇者」

「あ、ありがとう…」

砂が舞い上がるからと得意の風技を封印しているハルシャーク、それでもさすがの槍さばきで助けに入った。

「ブリブリッコは大人しそうに見えて獰猛な生き物なんだ」

「…すいません」

すると兄妹は件の毛者の亡骸に寄っていく。そして懐のナイフで解体し始めた。

「もしかして、食べるのか?これ」

「砂漠では貴重だから、血も飲めるし」

「うへぇ……」

「早くしよう、匂いに釣られて他の奴もやってくるかも」

二人に先導されながらだだっ広い砂漠を歩き続ける。

時折、星の動きで方角を見極めつつ様々な目印で迷わないように目的地を目指した。

「あれは爆裂サボッテン、衝撃を与えると破裂して棘を撒き散らすんだ」

「あれはさよなら岩、手を振ってるみたいだからそう呼ばれてる」

「あれはザ・クレーター、大昔の戦争の跡」

謎の遺跡、一本だけ生えた木、岩のアーチ、何も無いように見える砂漠にも意外とスポットがあるんだな。

そんな風に気を紛らわせながら額の汗を拭って足を動かし続けた。

どれくらい歩いただろう、頭上に浮かんでいた太陽のようなシェラ・マクヌス星は既にその姿を地平線に隠そうとしていた。

「急ぎたいな、夜になるとアンデット属が湧くんだ」

「アンデットっ!?」

お化け嫌いの勇者様が怯え始めた。

そのまま俺の腕にしがみついてくる。豊かな胸と一緒に。

「む……私もこわーい、たすけてー曜くーん」

それを見た佐竹先輩もなぜか反対の腕に抱きついてきた。

「わ〜」

なぜか少女レンネもくっついてくる。

俺は無心で会話を続けた。

「あとどれくらいなんだ?」

「そんなにかからないはずだ」

トールの言う通りそれからしばらくして最初の街に辿り着いた。

俺達は宿を借りてそこに腰を下ろした。

「二人は向こうに戻るの?」

「ああ、学校もあるし里美も待たせてるしな」

というわけで俺と佐竹先輩はクローゼットのワームホールから元の世界に帰還した。

空間が繋がっている里美の部屋に出る。

転移の副作用で脱ぎちらかした服を慣れた手つきで着替えた。

周りを見渡すが部屋の主は不在のようだ、晩飯の準備でもしてくれているんだろうか。

続いて先輩も返ってくる。当然、裸になるので俺はその前に部屋を出た。

「おまたせ」

「帰りは送りますよ」

「ん〜今日は泊まっていこうかな」

「そうですか、先輩の部屋は掃除してあるんで自由に使ってください」

「へ〜、女の子の部屋を勝手に出入りしてるんだ」

「え、あ、管理人の仕事でして……」

先輩はニヤニヤと可愛らしく笑いながら問い詰めてくる。せめて里美にやってもらうべきだったか。

「良いよー、男の子だもんね。ベッドに潜り込みたい時もあるよね」

「そこまではしてません」

性別を強調されるとドキドキしてくる。

最近は慣れてきたが、先輩は学校でも1、2を争う美人でスタイルも恵まれている。

その彼女がさっきまで裸体で側にいたと思うと……これ以上はやめよう。

俺は逃げるようにその場を離れるとプライベートを求めて自室へと向かった。

いったん心を落ち着けて晩御飯にしよう。

そう思って木扉を開けると、ベッドに潜り込んだ里美の姿があった。

「…………」

「……あ、よ、曜ちゃ…あ…ん」

「…………」

目が合うと里美の顔はみるみる内に赤く染まっていく。

時が止まったような沈黙の後、飛び立つが如くベッドから起き上がった。

「ち、違うの、ちょっと休みたいなって、今日も遅いのかなって、寂しくて……」

「里美っ」

「え、きゃっ!?」

俺は衝動のままに彼女をベッドに押し倒した。

そして顔を押し付けてその体から漂う甘い香りを胸一杯に吸い込んだ。

鼻腔をくすぐるそれは麻薬のように理性を奪っていく。

そもそもがムラムラしていたところにあんな姿を見せられたら、もう自分をとどめておくことができなかった。

湧き上がり渦巻く欲望のままに、女体の柔肌を堪能したい。

イケナイとわかっていても、一度暴れ始めた衝動を鎮めるのに眼の前の少女は魅力的過ぎた。

服の隙間から指を滑らせて肉筋をなぞる。

そのままゆっくりと服ごと持ち上げて女性の象徴である膨らみへと近づいていく。

「ん……あ……」

彼女の漏らす吐息まじりの声が後押ししてくる。

わずかに震える白い首筋に自分の唇を這わせた。

「………だ、め」

不意に聞こえた拒否の声。

それが真意かどうかに関わらず、俺の意識は急激に冷めていった。

顔を上げると里美と目があった。

その瞳からは涙が溢れている。

それを見た時、澄んだ雫が熱していた感情を冷ますようにむしろ背筋が凍るような感覚がした。

「わ、悪い…」

「あ…」

思わず彼女から手を離して、ベッドからも距離をとる。

気まずい沈黙が部屋に下りた。

「…悪い」

再び許しを乞う。

最低だと思った。二度と彼女に触れることはできないと思った。それがどうしようもなく怖かった。

「…大丈夫だよ、曜ちゃん」

そんな俺を優しく溶かすような声。

里美は乱れた服を整えて目を擦ると、ベッドから立ち上がって笑いかけてくる。

その顔は未だ夕日のように真っ赤だったが。

「ちょっと、ドキドキしちゃった、けど…でも、曜ちゃんのこと嫌いになったりしないよ」

そう言って手を握ってくる。

その温もりはさっきまでのしびれるような熱さとは違ったが、俺の心を満たした。

「でも、でも、こういう事は、もうちょっと大人になったらというか…、順序というか……」

「ああ、悪い」

改めて謝罪をして俺達は今日の出来事を黙殺することにした。

そして一夜明けて学業に励んだ後、再び砂漠に戻ってきた。








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