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帰還

国の金で飯をたらふく食って退院することになった。受付で泊まれる所を聞くとなんと里美が宿を借りているらしい。

そのまま玄関口で待っていると当の里美が表れた。

「おはよう」

「うん、おはよう」

二人連れだって病院を後にする。

突然ふってわいた朗報を頼りに俺達は聞いた住所に向かった。

宿屋の受付で病院の診断書を見せると手際よく対応してくれた。

鍵を受け取り目当ての部屋を目指す。

扉を開けて中に入るとそこは何のへんてつもないよくあるホテルの一室だった。

変に身構えていたので拍子抜けしたが考えてみれば当たり前だろう。

「とりあえず、部屋の中を漁ってみよう」

「うん」

俺達は手分けして何か使えるものがないか探す事にした。

備え付けのタンスを開けると何枚か下着が入っていた。

「見なかったことにしよう…」

「曜ちゃん、見て」

呼ばれて顔をあげると、それはクローゼットの中にあった。

折り開きの扉の奥にもう一つ扉。

奇妙に空間を歪ませる異世界への扉だった。

「でかした」

これを通れば向こうの世界に戻れる筈だ。

「準備は良いか?」

「うん」

俺達はお互いに目配せした後、歪む空間に身を預けた。

目を開けるとそこはよく知る場所。俺達の住むボロアパートの二階、里美の部屋だった。

「やった!」

喜び勇んで隣の里美に目をやる。

そこで俺の思考は停止してしまった。

視界を覆い尽くす肌色、芸術的なカーブを画く輪郭についつい視線が吸い寄せられる。

浮き出るように躍動する肉感は古代の神匠による彫刻のごとき黄金比で。

何で隠されてもいない白く透き通った肢体は神々しさすら感じさせた。

その光景を忘れてはならないと俺の遺伝子は号令を発する。故に目を離すことができなかった。

「イヤアアアア!!」

彼女の悲鳴を聞いて俺はようやく我にかえって部屋を飛び出した。

「なんじゃ、帰っておったのか」

このアパート唯一の入居者であるじいさんが通りかかった。元は異世界の住人で俺を向こうに行かせてくれた恩人でもある。

「ああ、ちゃんと連れ帰ってきたぜ」

「ほうかほうか」

フラフラと頷きながら横を通りすぎようとするじいさんを引き止める。

「里美はいま着替え中だ」

「そうじゃったか、うっかり覗いてエロジジイになるところじゃったわい」

てへっと舌を出すエロジジイ。

「ところでそのままでは不便じゃろ」

じいさんは杖で床を叩くと辺り一帯が輝き出す。しかし大した変化もなく終息してしまった。

「ラブホの照明の魔法か?」

「違うわい!鏡を見てみぃ」

言われて近くの姿見に身をさらすと。

「オオー」

なんと、異世界に転生して変わった俺の姿が元に戻っていた。

「整形の魔法じゃ、昔はこれでかわいこちゃんを引っかけまくったんじゃがのー」

よる年波には勝てんわいと背中をさするエロジジイ。

そうしているあいだに里美が部屋から出てくる。顔に関してはそっちの方が良いと言ってくれた。

「わかるか?」

「うん、たぶん」

冷蔵庫を物色する里美に声をかける。

調理は里美の担当だったんだが、記憶が消えてしまったのでいままで通りにできるか心配だ。

「これ使うか?」

俺は里美がレシピをメモしたノートを渡す。

彼女はペラペラめくると調理を始めた。

俺の心配は杞憂だったようで、体が覚えているのか多少覚束ないところはありながらも着実に料理が出来上がっていく。

完成したそれらをテーブルまで運び久し振りに皆で食卓を囲んだ。

メニューはブリの照り焼きに白飯、豆腐の味噌汁、ほうれん草のごま和え。

「「「いただきます」」」

最後に食べてからまだ一週間ちょいの筈だが妙に懐かしい感じがした。

食後は一休みしてから食器類を洗う。

慣れた手つきで作業しながら俺は今後の事を考える。

明日からは学校に通わなくてはならない。

ただでさえ一週間休んだというのに記憶がないときたもんだ。

あれやこれやと騒がれるのは目に見えている。

「暫く休学するか?」

隣で食器を拭いている里美に声をかける。

「ううん、学校に行けば何か思い出すかもしれないから」

彼女がそう言うなら俺はできるだけ支えになるだけだ。

「きつかったら言うんだぞ」

「うん」

その後は家の近くを案内したりして過ごした。






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