モノローグ
太正十二年十二月
三浦半島沖数十キロ地点の海上を進む船が一隻。
進む先は霧に覆われ、徐々に濃くなっていた。
ガラス越しにそれを睨みながら船員たちの胸中には疑念が強かった。
三か月前に関東を巨大な地震が襲ったばかりで、あの懐かしい街並みはまだまだ焼け野原だ。
それなのに、なぜ今、こんなところにいる?
何より解せないのは、
「いやぁ、霧に包まれた謎の調査なんて、冒険小説のようですね」
暢気なよそ者の存在だった。大企業の関係者やら学者が数組。
よりにもよって駆逐艦を運び屋に使うことになった辺り、確実に軍部も何らかのうまみを見込んで噛んできている。
そんな複雑な曰くを乗せ、霧を割いて進んだ先にあったのは大きな島だった。
大震災が街を、文明を破壊した悲嘆と絶望の中、海底から隆起したそれは瞬く間に霧に包まれ、様々な憶測を呼んだ。
曰く、大地の贖罪、妖怪の島、果ては異国の新兵器の仕業、などなど、恐怖をあおるような流言飛語が巷に溢れていた。
更には、上陸を試みたという漁師の証言の異常さもあり今回の捜索隊が組まれたという背景があった。
上陸した面々が見た光景はその情報を裏付けるものであったと言うべきだろう。
冬とはいえ、気温はほぼ氷点、霜だらけで地面がつるつるとよく滑ってしりもちをつく者が続出したことは置いておくとして、岩場だらけの視界いっぱいに天を突いて生えていたのは木などではなく、透明な結晶の山と異常に激しい燃え方をするランプだった。