序章1(後半)
「元気そうね、弥生。ご主人ともうまくいってるみたいね。」
私はそう答えてから、改めて弥生を見た。やはり何も変わったことなどはなさそうに思えた。
弥生は、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ほんと、しばらく会ってなかったね。どうしているのか、真奈美のことずっと気になっていたんだから。でも、元気そうだし安心した。」
弥生としばらくいるうちに、いつの間にか、会えずにいた隔たりのようなものは消えていた。そして、昔の2人に戻ったかのように話が弾んだ。
その日、途中から降り出した雨は、今日と同じように湿っぽい匂いがしていた。
「雨が降り出したみたいね。今日は外に洗濯物を出してたな……子供がお布団に飲み物をこぼして、汚してしまったのよ。」
弥生はそう言って、うんざりしたという風に苦笑いを浮かべた。
弥生が結婚して、それから子供が生まれたことで、会って話をする機会が急に少なくなったのであるが、真奈美は、結婚前よりも弥生と話していて楽しく思われた。
「そう、たいへんね。でも、仕方ないわよ。まだ子供なんだから……愛ちゃん、また大きくなってるんじゃない?写真あったらちょっと見せて。」
私が尋ねると、弥生は携帯電話を取り出して、子供の写真を探し始めた。
携帯電話の写真の中の愛ちゃんの画像は、懸命に何かを探すような目をこちらに向けて、微笑みを浮かべている。その表情は、弥生の夫に似ているように思えた。
『もしも、私が前の彼と別れていなければ、私にも子供が生まれていたのかもしれない。』
そのようなことをぼんやりと思い出しながら、しばらく歩いていると、いつの間にか加嶋が待つカフェの前まで来ていた。