学年代表選抜トーナメント
今日は学園トーナメント、学年別代表の選抜戦の日だ。
今回からは2対2のタッグ戦となる。
俺のクラスからは、クラス選抜戦で優勝した俺と、準優勝のオゥグスが代表選手に選ばれた。
「……なぁ、オゥグス。
色々あったけど、水に流して頑張ろう」
俺からオゥグスに手を差し出した。
けれど彼はその手をパシッと払いのける。
「……ちっ。
ユウのくせに生意気言いやがって。
てめぇ、試合中は背中に注意しておけよ」
オゥグスの態度が悪い。
クラス選抜で俺に気絶させられたことを、根に持っているのだろうか。
でもここはぐっと我慢する。
なにせトーナメントには、メロの命がかかっているのだ。
いくらオゥグスの態度が悪くても、なんとか協力してやっていくしかない。
「……なぁオゥグス。
俺も別に、仲良くしようとは思っていない。
ただとにかく、足を引っ張るような真似だけは絶対にやめてくれ」
「…………ふん」
メロの病気のタイムリミットまであと約14日。
そしてこの学年別選抜を勝ち抜いたあとには、まだ1年、2年、3年の代表たちが戦う最終トーナメントが待っている。
その試合は10日後だ。
イーリィも公爵家のツテを使って、別ルートからエリクサーの入手を試みてくれてはいるが、間に合いそうにはない。
だからこの機会を逃せば、もう俺にはメロを救う手立てが残されていない――
◇
俺たち一年生のトーナメントは、全部で8クラスの争いだった。
つまり3回勝てば、一年生の代表になれる。
俺とオゥグスとのコンビはすでに2回戦を勝ち抜いて、なんとか学年別一年生トーナメントの決勝まで駒を進めていた。
決勝の相手クラスの選手を鑑定する。
"キィヅカ
レベル:18
スキル:剣術、氷結、冷静沈着"
"マーヤ
レベル:11
スキル:盾術、回避"
……強い。
特にキィヅカが強敵だ。
だがこちらの戦力は俺のレベルが37で、オゥグスが12。
大丈夫。
落ち着いて戦えば、そうそう負けることはない。
「はじめッ!」
審判の合図で試合の幕が落とされた。
「アイスエッジ!」
開始と同時に、キィヅカが間髪入れず魔法を放ってきた。
氷の刃で敵を切り裂く強烈な魔法である。
効果的な奇襲戦法の狙いはオゥグス。
だが魔法には魔法だ。
オゥグスならファイアボールを放てる。
しかし試合開始直後の急襲に、注意散漫なオゥグスは反応できていない。
仕方がないので、反発覚悟で指示を飛ばした。
「オゥグス!
魔法で迎撃しろ!」
「う、うっせえ!
俺に指図するんじゃねえよ!」
オゥグスがギリギリのタイミングでファイアボールを放った。
これでいい。
彼がキィヅカを少しの間抑えているうちに、俺は先にマーヤを倒してしまおう。
タッグ戦では先に弱い方から倒すのが定石だ。
マーヤさえ倒してしまえば、あとは俺とオゥグスの二人掛かりで、強敵のキィヅカを余裕をもって相手取ることが出来る。
「はああああッ!!」
鞘からロングソードを抜きはなち、女剣士マーヤに飛び掛かった。
大上段から振り下ろした俺の鋭い剣撃が、彼女に襲い掛かる。
「……もらった!」
だがそのとき、俺の背中に強烈な衝撃が走った。
「ぐはぁ!」
「はははっ。
言っただろうがユウ!
俺に背中を向けるときは、注意しろってなぁ!」
「ぐ、ぐぅぅ……。
オゥグス、お前……」
背中から胸まで衝撃が突き抜けた。
肺の空気が押し出されて、呼吸が苦しい。
オゥグスが俺に向けて、ファイアボールを放ってきたのだ。
「なぁに?
あなたたち、仲間割れしてる余裕なんてあるのかしら!」
体勢を崩した俺に、マーヤが襲い掛かってくる。
「く、くそっ」
乱暴に剣を振るってマーヤを振り払おうとするも、回避スキル持ちの彼女には、ただ振り回しただけの剣は当たらない。
「な、なんとか仕切り直さないと……!」
ゴロゴロと地面を転がってから距離をとり、俺は剣を構えて、マーヤと対峙し直した。
そのとき悲鳴が聞こえてきた。
「ぐわああぁぁッ!!」
背後を振り向く。
するとオゥグスが、もうキィヅカにやられてしまっていた。
あっという間だ。
まったく少しの時間稼ぎも出来ていない。
「オゥグス!
足を引っ張るなと言ったろう!」
苛立ちのあまり、ついキツい言葉を投げつけてしまう。
俺は負ける訳にはいかない。
なんとしても勝利を掴み、メロを救ってみせる。
◇
キィヅカとマーヤが前後から俺を挟みながら、距離を詰めてくる。
オゥグスがやられて2対1になってしまった。
「うふふ……。
ユウくん、覚悟はいい?」
「待て、マーヤ。
弱いものいじめはするな。
……おい、ユウ。
いま降参するなら、見逃してやるぞ?」
キィヅカはきっといい奴なんだろう。
口調に真摯さがあるし、多分本当に俺の身を案じて忠告をしてきている。
クラスは違うけど、彼となら友達になれるかもしれない。
けど、キィヅカはひとつ勘違いをしている。
「……弱いものいじめ?
それはどっちの話なんだ?」
いまのいままで俺は、相手を怪我をさせないよう無意識に力をセーブしていた。
本気を出した俺と彼らの間には、それほどまでの実力差がある。
でもこれは、負ける訳にはいかない戦いだ。
「ここからは本気でいくぞ!
怪我をしないように、せいぜい抗ってくれ!」
力を解放する。
まずは先ほど俺の乱雑な攻撃を回避してみせたマーヤからだ。
「いくぞ!
さぁ、マーヤ。
今度もかわせるか!」
懐に飛び込み、剣を振る。
本気を出した俺のスピードは、さっきまでとは比較にもならない。
「なッ⁉︎
き、消えた⁉︎
きゃあ!」
マーヤは今度は攻撃をよけるどころか、飛び込んできた俺を見失った。
デタラメに盾を構えて、攻撃を防ごうとする。
けれども俺は、握った剣の柄に力を込めて、盾ごと彼女を吹き飛ばした。
「きゃぁああ!!」
「なんだと⁉︎
その体捌きと剣速。
お、お前は本当に、ユウなのか⁉︎」
「そうだ。
だが俺を、以前までの俺と思うな!」
「く……ッ。
アイスエッジ!!」
キィヅカは接近戦を放棄し、間髪入れずに飛びのいてから魔法を放ってきた。
いい判断だ。
きっと彼は将来良い戦士になるだろう。
だから今日の敗北を糧にして、また立ち上がって欲しい。
そんな想いを込めながら、俺も魔法を放った。
「……サンダーボルト」
手先から迸った稲妻が、氷の魔法を打ち破った。
キィヅカの氷とぶつかり合った電撃は、微塵も勢いを衰えさせずに、彼に襲い掛かる。
「ぐあああぁぁあッ!!」
直撃した。
感電したキィヅカは、手から剣をカランと取り落として、膝から崩れ落ちていく。
「……ユウ。
……俺の、負け……だ」
「ああ、俺の勝ちだ。
でも、お前も強かったよ」
俺は駆け寄って、倒れる前に彼の身体を抱きとめた。
俺は途中からたったひとりの戦いになってしまったハンデを跳ね返して、学年別選抜トーナメントを制覇した。