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奴隷の少女

 オゥグスがビクビクと痙攣している。


 ネマムのヤツが、ゴマをすりながら近づいてきた。


「あ、ユウ……さん」


「……なにか用か?」


「こ、これ返します。

 お、俺はオゥグスさん、……いや、オゥグスに言われて、預かってただけですから」


 ネマムが差し出してきた布袋を受け取る。


 なかには金貨20枚と少し。


 これは前にオゥグスに奪われた俺の金で、ライトニングウルフ素材の買取代金だ。


「お、俺はオゥグスの命令に従っていただけなんだ!

 だ、だから許してくれ!

 な、……なっ?」


 ネマムは強くなった俺に怯えていた。


 これまで散々俺を虐げてきたこいつだから、復讐を恐れているのだろう。


「……仕返しなんかしない。

 いいから、もう行けよ」


 ネマムはあからさまにホッとした表情で息をついてから、一目散に走り去っていった。


 ◇


「あ、そうだ。

 ステータス……」


 少し確認したいことがある。


"名前:ユウ

 レベル:37

 スキル:剣術、投擲、殴打、逃走、噛み付き、咆哮、爪撃、威圧、雷撃、

 ユニークスキル:女神の恩寵"


 やっぱりか。


 オゥグスを倒したけど、彼のスキルは吸収できていなかった。


 どうやら相手からスキルを吸収するには、対象を殺してしまわなければダメらしい。


 オゥグスの『火炎』のスキルは欲しいけど、さすがに殺して奪い取るつもりまではない。


 残念だが、彼のスキルを奪取することは諦めた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ……。


 学園トーナメントのクラス代表選抜戦から、数日が経過していた。


「どうしたのユウ?

 なにを考えてたの?」


 隣にいるイーリィが、上目遣いで話しかけてくる。


 今日は学園は休みだ。


 俺はなぜか、イーリィと一緒に街を歩いていた。


 実は休息がてら街を散歩していたら、たまたま広場の噴水脇で、ベンチにひとりで座っていた彼女と出くわしたのだ。


 それで声を掛けてみると、イーリィは暇を持て余していたらしく散歩についてきたのである。


「それにしても、この間の選抜戦!

 ユウって強かったのねー」


「クラス選抜のこと?

 そんな大したことじゃないよ」


「まあ⁉︎

 あんなに強いのに驕らないなんて……。

 うふふ。

 ユウは立派なのね!」


 イーリィがいきなり腕を組んできた。


 陽光に輝くサラサラした金髪が、俺の頰を微かに撫でていく。


 組まれた二の腕に、彼女の柔らかな胸が押し付けられた。


「う、うわっ⁉︎

 イーリィ⁉︎

 いきなりなにをしてるんだ!」


「ふふふっ。

 どうしたの、ユウ。

 顔が赤いわよ?」


 茶目っ気たっぷりの可愛らしい表情で、彼女が俺の顔を覗きこんだ。


 どうやら確信犯だったらしい。


 予想のつかない彼女の行動に、自然と胸がドキドキとしてしまう。


 そのままじゃれ合いながら街を歩いていると、目の前を1台の馬車が通り過ぎていった。


「――きゃ⁉︎」


「だ、大丈夫か、イーリィ?」


 乱暴な運転だ。


 俺は自分の身体を盾にして、馬車から彼女を庇う。


 そのとき俺の視界に、とある凄惨な光景が映った。


「ええ、大丈夫よ。

 ……ユウ?

 どうしたの?」


 通り過ぎていった馬車の方角をじっと見つめ続ける俺に、イーリィが不思議そうな目を向けてくる。


「……ユウ?」


「……イーリィ。

 いまの馬車、見たか?」


「え、えっと……」


 どうやら彼女は見ていないみたいだ。


「……奴隷が積まれていたよ。

 ひどい状態の奴隷たちが。

 ……なかには、年端もいかない女の子もいた」


 ◇


 奴隷市場にやってきた。


 俺はさっきの幼い女の子が、どうしても気になったのだ。


 ひとりで行くと言ったのだが、イーリィが無理矢理ついてきた。


 彼女もなかなか強情である。


「おい、待て」


 門番に呼び止められた。


「ここはガキが遊びにくる場所じゃない。

 さっさと立ち去れ」


「知ってるよ。

 奴隷市場なんだろう?

 ちょっとなかを見せてくれよ。

 金ならあるんだ」


 布袋の紐を緩めて、なかに詰まった金貨を見せつける。


「……むぅ。

 しかし、こんなガキどもを入れるわけには……」


 イーリィが一歩前に出た。


「私はエーイティ公爵家のものです。

 名前はイーリアス・エーイティ。

 この顔に見覚えはない?

 ねぇ門番さん。

 見るだけだから、通してくれないかしら?」


「……な⁉︎

 た、たしかに公爵家のご令嬢⁉︎

 し、失礼いたしました!

 どうぞお通りください!」


 門番が道を譲る。


「ね、ユウ。

 私も一緒についてきて良かったでしょう?」


 イーリィがこちらを見て、パチリとウィンクをした。


 ◇


 奴隷市場のなかは異様な雰囲気だった。


 暗く陽の差さない大きな建物に、いくつもの檻が設けられている。


 檻には奴隷が入れられていた。


 死んだような目をした女のひとや、必死で筋骨隆々な体躯をアピールしてくる男のひとたち。


「……ユウ。

 私、なんだか怖いわ」


「大丈夫だ。

 俺がついてるから」


 すえたような臭いが充満していて、あまり長居したい場所ではない。


 けれども俺たちは、その臭いを我慢しながら市場を歩き回る。


 しかしさっきすれ違った馬車に積まれていた幼い少女は、どの檻にも見当たらなかった。


「すみません。

 ちょっと聞きたいんですが、さっきの馬車なんたけど――」


 店のひとに尋ねてみる。


 すると男は面倒くさそうにしながらも、俺たちを奥へと案内してくれた。


「……ほら。

 仕入れたばかりの奴隷だ?

 こいつらのことだろう?」


 市場の奥にも大きな檻があった。


 沢山の奴隷が詰め込まれている。


「まだ選別まえの奴隷たちだから、売りもんにならねえゴミも混ざってっからな?」


 酷い言い草だ。


 この男は、人間をなんだと思っているんだろう。


 文句を言いたい気持ちをグッと堪える。


「あ、あれ!

 ユウ……」


 イーリィの指差したほうを見る。


 そこに、さっき馬車でみた奴隷の少女がいた。


「…………ぅ。

 ……ぁ…………」


 12歳くらいだろうか?


 彼女は小さな体を冷たい床に横たえて、荒い息を吐いていた。


 近寄って眺めてみる。


「あ⁉︎

 これはッ⁉︎」


 よく見ると少女は耳が長かった。


 髪は白くて、肌は褐色だ。


 だがうずくまっていて、顔はよく見えない。


「これって……」


 店の男に顔を向ける。


「ああ、ダークエルフのガキだぜ。

 へへ。

 すげえだろ?

 でもそいつぁなぁ……」


「初めてみた。

 これがダークエルフ……」


 ダークエルフは天性の高い魔力と、しなやかな肢体から繰り出す近接戦闘の技が冴える戦闘に適した亜人だ。


 女の場合、見目も麗しい場合が多い。


 だがその個体数の少なさや警戒心の強さから、そうそうお目にかかることのない幻の種族とされている


「……ぅ、……ぁ……」


 うつむいていた少女が、顔をあげた。


「ひ、ひぅッ⁉︎

 ユ、ユウ……」


 咄嗟にイーリィが抱きついてきた。


 俺もダークエルフの少女の衝撃的な顔を間近に見て、思わず息をのんでしまう。


「…………ぁ。

 ……ぅ……ぅぅ……」


 少女の顔はドロドロに爛れてしまっていた。


「こ、これって……」


「ちっ。

 酷えもんだろ?

 搬送途中に奇病に罹っちまいやがった。

 ひとには移らねえエルフ特有の病らしいが……。

 まったく、大損こいちまったぜ!」


 店の男は吐き捨てるようにいった。


 でもそんな風に言ったら、この女の子が可哀想だ。


 少女が救いを求めるような瞳で俺を見上げる。


 胸が締め上げられるようで、居た堪れない。


 ……こんな酷いことはない。


「……このダークエルフの女の子はいくらなんだ?」


「なに?

 まさか、こんな死にかけのゴミみたいな奴隷を買うっていうのかぁ?

 ははっ。

 冗談はよせよ」


 俺は男の再三の物言いに堪忍袋の尾が切れた。


「ゴミなんかじゃない!

 立派に生きてるだろ!」


 俺の剣幕に男が後ずさる。


 ダークエルフの少女が、爛れてしまった顔で俺をジッと見ていた。


「す、すまねえ坊主。

 そう怒るなよ」


「……それで、いくらなんだ?」


「そうだなぁ。

 仕入れにも結構な金を使ってるし、珍しいダークエルフのガキだ。

 金貨100枚。

 ……と言いたいところだが、どうせ放っておいても死んじまうしなぁ。

 金貨10枚でいいぜ?」


 それなら俺にも買える値段だ。


 金が詰まった布袋をギュッと握りしめる。


「買うよ。

 ……この女の子を、俺に売ってくれ」


「ユ、ユウ……」


 イーリィが物言いたげに俺をみた。


 でも結局、なにも言わずに押し黙る。


「へへ……。

 まいどありっ。

 おらお前、檻からでろ!」


「…………ぅ。

 ……ぁぅ…………」


 これが俺と、ダークエルフの少女『メロ』との出会いだった。

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