学園トーナメント開始
今日は学園トーナメントのクラス選抜の日だ。
ついにこの日がやってきた。
クラス選抜は出場選手16名のトーナメント。
優勝と準優勝のふたりが、次のステージである学年代表を決める選抜戦に駒を進めることができる。
「はぁああーッ!」
鋭くロングソードを振る。
俺は特訓の成果を発揮して、同級生たちをバッタバッタとなぎ倒していく。
「ぐは!
な、なんだと⁉︎
あのユウがこんなに強かったなんて⁉︎」
「ま、参った!
降参だ!
お前がこんな実力を隠し持っていたとは……」
同級生たちはみな、俺の強さに度肝を抜かれているみたいだ。
でも正直なところ、俺は逆に彼らの弱さに困惑していた。
この程度なのか……。
実はこれでも手加減しているのだ。
レベルアップした俺からすれば、彼らの振るう剣や魔法なんて、まるで問題にならなくなっていた。
「凄い……。
ユウって、こんなに強かったのね」
イーリィが驚きの表情で俺の活躍を見守っている。
侯爵令嬢イーリアス・エーイティ。
優しい彼女は俺たち1年生のアイドル的存在だ。
そんな彼女に熱い視線を向けられたら、さしもの俺も気持ちが浮き足立ってしまう
「っと、いけない。
油断は禁物だ」
俺は気合を入れ直して、対戦相手を次々と倒して回った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
クラス選抜の決勝に進出した。
相手は伯爵家の跡取りオゥグス・ラアキヒだった。
いつも俺を見下し、虐げてくる相手である。
「……やっぱりお前が、決勝の相手なんだな」
「くはっ。
雑魚のユウのくせに、決勝まで上がってくるとはなぁ。
まぁ強敵が相手じゃなくて、俺は楽だけどよぉ」
オゥグスはまだ俺を見下している。
やっぱりいけ好かないヤツだ。
ふと思った。
そういえばこいつは、どれくらいの強さなんだろう。
(……鑑定)
"オゥグス・ラアキヒ
レベル:11
スキル:杖術、火炎"
なんだ。
全然大したことがない。
たしかにレベルアップする前の俺なら到底かなわなかっただろうし、クラス選抜のほかの選手たちが平均してレベル8前後であることを思うと、オゥグスは抜きん出た実力者といえる。
だが所詮だ。
俺はこいつよりもっと強い。
なんてったって、俺はレベル37なんだ。
それにスキルだって沢山持ってる。
正直言って、負けるほうが難しいくらいの力の差だと思う。
「なんだ、なんだ!
おい、びびってんのか?
ユウのやつ、黙りこくっちまいやがって!」
太鼓持ちのネマムが野次を飛ばしてくる。
「ぶるってんじゃねーぞ!」
「さっさと始めろー!」
「はっはー!
公開処刑だー!」
ネマムに便乗して、さっき俺に敗退したほかのクラスメイトまで野次ってきた。
「お願いユウ!
負けてもいいから、無事に試合を終わらせて!」
そんななかイーリィだけは、心配そうに俺を見守ってくれていた。
「……よし。
イーリィにいいところを見せてやろう……」
ぎゅっと拳を握りこんだ。
◇
「覚悟はすんだか?
じゃあそろそろいくぜ!」
オゥグスが杖を振りかぶる。
「燃えちまいな!
ファイアーボール!」
球状に燃え盛る、炎の魔法を飛ばしてきた。
なかなかの威力だ。
しかし――
「はぁ!」
俺は冷静に一歩を踏み出して剣を振り抜き、飛んできた魔法を袈裟懸けに斬り裂いた。
「な、なにぃ⁉︎」
オゥグスが驚愕する。
だがすぐに気を取り直した彼は、俺から距離を取り直して、間髪入れずに何発も炎の魔法を撃ってきた。
油断のない表情だ。
もう気を切り替えたのだろう。
やっぱりオゥグスは口だけじゃなく、戦い慣れている。
「死ねえ!
ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール!」
今度は立て続けに4発もの魔法を放ってきた。
しかも上下左右から、対処しにくいように同時に着弾するよう緩急をつけてある。
敵ながら巧みな連撃だ。
「やるじゃないか、オゥグス。
けど、そんな程度の攻撃じゃあ、俺には通じない。
……ふっ」
俺は冷静に飛んでくる火球を見定め、上下左右に鋭く剣を振って、そのことごとくを斬り裂いた。
「ば、馬鹿なぁ⁉︎
いまのが、凌がれるとは……!」
オゥグスが驚いている。
「……今度は俺の番だな?」
無造作に近づいて、剣を振り下ろした。
「う、うわっ。
来るな!
来るなよ、ユウぅ!」
オゥグスは手にした杖を振り回して、なんとか俺の攻撃を防ごうとする。
しかし剣と杖では性能がそもそも異なるし、近接戦闘の技量もいまや俺のほうが上だ。
やがて剣撃を防ぎきれなくなったオゥグスは、派手に吹っ飛んで尻餅をついた。
「ぐはぁっ!
お、お前!
いつのまにそんなに強くなったんだ⁉︎」
「……さぁな。
だがオゥグス。
これだけは覚えておけ。
俺だって、いつまでもやられてばかりじゃない」
俺はすでに理解していた。
オゥグスでは……。
こいつではもう、逆立ちしても俺に敵わない。
あのライトニングウルフとの死闘を思い出して、拍子抜けしてしまう。
いままで、こんなヤツに虐げてられていたなんて……。
なんだか自分が、バカみたいだ。
「う、うわぁ……!」
俺に敵わないということが理解できたのか、オゥグスが這いつくばって逃げようとしている。
いつも威張り散らしているというのに、無様な姿だ。
「……こ、こんな。
……こんな!
魔法も使えない村人風情に、この俺さまが!!」
あぁ、そうか。
ここまでの試合、俺は剣術のみで勝ち上がっきたものだから、こいつはまだ、俺が魔法を使えることを知らないのだ。
「魔法?
魔法なら使えるぞ?」
「ふ、ふん!
ハッタリはよせ!」
「……ふぅ。
ならハッタリかどうかは、自分の体で試すんだな」
意識を身体の内側に向けた。
そこから無色の魔力を引っ張りだしてきて、放出の瞬間に雷撃へと変換する。
「……サンダーボルト」
指先が痺れるような感覚と一緒に、稲光が解き放たれた。
激しく明滅しながら、雷撃がオゥグスを襲う。
「あばっ⁉︎
あばばばばばばばばばばぁぁああッ!!」
雷の直撃を受けたオゥグスは、無様な悲鳴をあげた。
カエルみたいにお腹を上にしてひっくり返り、全身を痙攣させている。
「……くく。
なんだよオゥグス、その格好は?」
思わず失笑がこみ上げる。
だがさすがに笑うのは悪い。
俺はすぐに自戒し、咳払いをして笑うのをやめた。
「……どうだ、オゥグス。
実力差が理解できたなら、はやく降参しろ。
これ以上、俺にお前をいたぶらせないでくれ」
「あば、あばばば!
ゆ、許して……。
ゆ゛る゛し゛て゛……」
オゥグスが痙攣しながら許しを乞うてきた。
即座に雷撃を中止する。
これ以上はもう戦闘ではなく、単なる弱いものイジメだ。
力を手にしたからからといって、そんな真似をしては、俺までこいつと同じになってしまう。
それは嫌だった。
◇
目の前でオゥグスが、ビクビクと痙攣して気を失っている。
クラス中がどよめいた。
俺が得た凄まじい力を目の当たりにして、驚愕しているみたいだ。
「う、うぉぉ……。
あ、あのユウが、オゥグスに勝っちまいやがった……」
「しかもユウのやつ。
雷の魔法だと……?」
みんなからの注目を一身に浴びる。
こうして俺は、クラス選抜戦の優勝者になったのだった。