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特訓

 買い取りを終えてギルドを出ると、伯爵家跡取りのオゥグスと取り巻きのネマムのふたりが、ニヤニヤとして俺を待ち構えていた。


「おい、ユウ。

 学園も休みだってのに、街でなにしてんだ?」


 ネマムはオゥグスの太鼓持ちだ。


 その彼が近づいてきて、横柄な態度で俺から布袋を取り上げた。


 袋の口を開いて中を覗く。


「ひゃあ!

 金貨だ!

 オゥグスさん、こいつ村人風情のくせして、こんなにたくさん金貨を持ってますよ!」


「……なにぃ?

 ユウのくせに生意気だな」


 オゥグスが因縁をつけてきた。


 コイツはいつもこうだ。


 正直うんざりする。


「街で見かけてつけてきた甲斐があったぜ。

 おい、ネマム。

 貧乏人に金貨なんて似合わないだろ。

 取り上げておけ」


「はい、オゥグスさん!」


「な⁉︎

 どうして⁉︎

 それは俺のお金だぞ!」


 取り返そうと手を伸ばす。


「俺に逆らうつもりか!

 ユウのくせに身の程を知れ!」


 思わずビクッとなる。


 一喝されて、俺は身体が竦んでしまった。


 情けないことに、いままで散々に嬲られてきたクセが抜けなくて、こいつに強く命令されると身動き出来なくなくなるのだ。


「……ふふん。

 そうだなぁ、今度の学園トーナメント。

 そのクラス代表の選抜戦でお前が俺に勝てたら、この金貨を返してやるよ!」


「……あ。

 ……いや」


「へっへー。

 お前みたいな雑魚が、オゥグスさんに敵うはずないけどな!」


 悪党どもが嗤いながら去っていく。


 情けない俺は、その後ろ姿を見送ることしか出来なかった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 その日から俺は、自分の弱さを克服するべく特訓を始めた。


 最初はまた森へ行って魔物退治をしようと思った。


 でもそれはやめた。


 レベル37にもなったいまや、たとえ『成長速度超上昇』の効果があっても、ゴブリン退治なんかじゃレベルが上がらなくなってしまったのだ。


 だから俺は、いまの自分が持っている力を使いこなす方に特訓の方向性を変えた。


「ステータス……」


"名前:ユウ

 レベル:37

 スキル:剣術、投擲、殴打、逃走、噛み付き、咆哮、爪撃、威圧、雷撃

 ユニークスキル:女神の恩寵"


 こうしてみると圧巻である。


 ズラリとスキルが並んでいる。


 スキルというものの大部分は、もちろん俺の『女神の恩寵』のような例外はあるが、有り体に言えば一種の才能なのだそうだ。


 だから、ただ持っているだけではダメで、使いこなすための特訓が必要になってくる。


「……あれ?

 でも待てよ?

 よくよく考えると使えないスキルも、結構あるな」


 たとえば噛み付きなんかがそうだ。


 狼と違って、俺は敵に噛み付いたことはない。


 いや、これからもそうだとは断言は出来ないけど、やはりそうそう噛み付くこともないだろう。


 それに爪撃ってなんだろう。


 引っ掻けばいいのだろうか。


 あんまり使い道のないスキルのように思える。


 とりあえずこの中ですぐに使えそうなスキルは、剣術と雷撃くらいかな。


 差し当たりこのふたつを中心に特訓しよう。


 剣術は分かる。


 素振りをしていても、自分の剣が鋭くなっているのが実感できる。


 でも雷撃はどうやるんだろう?


「えっと……。

 雷撃!」


 試しに叫んでみたけど、なにも起きない。


「これは、先が長そうだぞ……」


 学園トーナメントの開催まであと10日ほどだ。


 それまでには、なんとかして強くならないと……。


 俺はオゥグスやネマムにやられてばかりの自分を変えたいと、強く願った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 特訓を開始して3日目。


 俺は唐突に、雷撃を放つコツを掴んだ。


「い、いまの感覚だ。

 忘れないうちに、もう一回やってみよう……」


 自分の内部から魔力を吸い上げてきて、放つ瞬間に無色の魔力に色をつける。


 激しい稲光をイメージすると、伸ばした手の先から明滅する雷撃が勢いよく飛び出した。


「う、うわっ!」


 指先が痺れる感覚がある。


 まだ威力はそれほどだけど、たしかに電撃が放たれた。


「す、すごい!

 いまのは魔法だ!」


 これが魔法を使う感覚。


 この3日間、朝から晩までひたすら特訓を繰り返して、ようやく手に入れた魔法――


「やった……。

 やった、やった、やった!

 やったぞ!」


 たまらなく嬉しい。


 俺の通う学園は魔法学園だから、魔法を使えない人間は、正直言って肩身が狭い。


 くわえて俺は、ただの村人の出だ。


 だから学園では嫌な目にあうのもしょっちゅうだった。


 もし俺が魔法を使えていたら、オゥグスやネマムなんかの悪党どもに目を付けられることもなかっただろう。


「も、もう一度……。

 はぁあッ!」


 また指先から電撃が迸った。


 まぐれじゃない!


 ついに俺は魔法が使えるようになったんだ!


 いまのは多分、雷系の初級魔法の『サンダーボルト』じゃないだろうか。


「よ、よし!

 もっと練習しよう!」


 俺は繰り返し何度も、魔力がすっからかんに枯渇して、ぶっ倒れるまでサンダーボルトを放った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 特訓を開始して9日目。


 明日は学園トーナメントのクラス選抜の日である。


「はぁっ!

 サンダーボルトーッ!!」


 指先から激しい稲光がほとばしる。


 俺はもうすっかり、サンダーボルトの魔法を習得していた。


 いまではもう意識を集中する必要もない。


 剣を振りながらでも、放ちたいときにスムーズに雷撃を放てる。


「……ふぅ。

 もう十分だろう」


 額から流れ落ちてきた汗を拭う。


 はじめの頃よりも心なしか魔法の威力や命中精度が上がっているように思える。


 ふと思った。


 必死にがんばって特訓したとはいえ、随分と剣や魔法の熟達速度がはやい。


 というか、はやすぎる。


 これは一体……。


「え、えっと……。

 ステータス!」


"名前:ユウ

 レベル:37

 スキル:剣術、投擲、殴打、逃走、噛み付き、咆哮、爪撃、威圧、雷撃

 ユニークスキル:女神の恩寵"


 脳裏に浮かんだステータスには、特訓まえと比べて変わったところはない。


 なら女神の恩寵のほうだろうか。


 ユニークスキルの詳細に、意識を集中してみた。


"ユニークスキル:女神の恩寵

 神に愛されたものだけに与えられる、この世界でたったひとつのスキル。


『成長速度超上昇』『スキル操作』『鑑定』『隠蔽』『超幸運』『剣の才能』『魔法の才能』


 現時点においては以上のレアスキルを複合した、進化するオリジナルスキルである"


「な⁉︎」


 なにか増えている。


 剣の才能と、魔法の才能⁉︎


 どっちも持っていれば将来は約束されたも同然な、激レアスキルじゃないか!


「す、すごい……。

 凄すぎる!

 女神の恩寵……。

 どうしてこんな凄いスキルが、俺に現れてくれたんだろう?」


 むむむと頭をひねって考えるけれども、もちろんなぜだかは分からない。


「うーん。

 わからないものをあれこれ悩んでも、仕方がないかな……」


 それよりもいま考えるべきは、明日の試合のことだ。


「よし。

 特訓の仕上げをしよう。

 選抜戦では、絶対にオゥグスたちをあっと言わせてやるんだ」

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