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悪魔男爵《デヴィルバロン》

「くひゅッ

 くきけケけけけケ……」


 試合場に不気味な笑い声が木霊した。


「な、なんだこいつは……」


 たしかに斬り飛ばされたカノの腕がくっ付いた。


 わけがわからないが、危険な雰囲気だけは十二分に伝わってくる。


「ティト先輩!

 先輩はまだ痺れが抜け切ってないんだろ。

 後ろに下がってくれっ」


「……すまない。

 そうさせてもらおう」


 俺は前に出て、背中に先輩をかばう。


「あ⁉︎

 ユウ、見てあれ!!」


 イーリィとともに驚愕する。


 幽鬼のように力を抜き、ただそこに笑いながら突っ立っていたカノの身体に異変が起きた。


「くひゅ……」


 不気味な吐息を漏らす。


 一拍ののち、カノ・クーガーだったものの背中がぼこりと大きく膨れあがった。


 かと思うと、肥大した背中から伝播するように、全身の筋肉がいびつに隆起していく。


「グギギギギギギギギギッィィ!!」


 五指から爪が鋭く伸びていく。


 額からは2本の角が生えてきた。


 だが変化はそれだけにとどまらない。


 もともと浅黒かったカノの肌が、より赤黒く、邪悪な色に染まっていく。


「ガァァアアアアアアアアアッ!!」


 変化が終わった。


 そこに現れたのは、まさしく化け物だった。


 身の丈は、大男ですら頭上を見上げるほどに大きい。


 腕まわりも元の何倍にも肥大し、ギチギチに張り詰めた全身の筋肉が、見るからに暴力性を感じさせる。


「フシュルゥ……」


 顕現した化け物が、ゆっくりと、大きく息を吐き出した。


 凝視するだけで魂に震えが走るような、おぞましい怪物だ。


 その化け物が、凶悪な形相で俺を睨み付けてくる。


「ま、魔物よ!

 魔物だわ、ユウ!!」


「イーリィ、気をつけろ!

 なんだってカノ・クーガーが魔物なんかに!」


「……魔物デは、ない」


 化け物は起きた変化を確認するように丁寧に自身の身体を見下ろし、次いで試合場に集まった観客たちを見回した。


 会場に集った人びとは、あまりに突然の出来事に静まり返っている。


「ふぅぅ……。

 いい気分だ。

 まるで、生まれ変わったみたいだ……」


「なんなんだお前は!」


「……俺は悪魔(デヴィル)


 デヴィルだと⁉︎


 そんなモンスター聞いたことがない。


 俺は咄嗟に目の前の怪物を鑑定した。


悪魔男爵(デビルバロン)(個体名:カノ・クーガー)

 レベル:71

 スキル:剣術、毒、暗殺、鉤爪、暗黒

 状態:黒の福音(覚醒)"


「……な⁉︎

 なんだ、こいつは……」


「……ん?

 この感覚……。

 見られているな。

 お前もしかしていま、俺のステータスを覗き見たのか?」


「……く」


 鑑定がバレた。


 これはどうしたことだろう。


「まぁいい。

 だが見たのなら理解できただろう。

 生まれ変わったこの俺の、圧倒的なステータスが!」


 たしかに強い。


 でも俺たちだって負けてはいない!


"名前:ユウ

 レベル:59

 スキル:雷撃剣、投擲、殴打、逃走、威圧、雷撃、盾術、剣術、防御、棒術、群体、噛み付き、打撃、回避、飛行

 ユニークスキル:女神の恩寵"


"名前:ティト・キュイナ

 レベル:41

 スキル:剣術、火炎、馬術、体術、回避

 ユニークスキル:騎士の誇り"


"名前:イーリアス・エーイティ

 レベル:26

 スキル:召喚術、盾術、防御、弓術、睡眠"


"ウォーウルフ(個体名:ラグ)

 レベル:28

 噛み付き、咆哮、爪撃、突進、攻撃強化、防御強化、再生、進化"


 ◇


 都市トーナメント会場に集まった観客たちが、騒めきはじめる。


「なんだあの化け物は……」


「な、なぁ?

 なんかやばくねぇか?

 俺、あの怪物を見てるだけで、さっきから身体の震えが止まらないんだ……」


 顕現した悪魔が、試合場から客席を見上げた。


「……くひ」


 邪悪に微笑んだかと思うと、さして力も込めずに腕をひと振りする。


 だがそこから迸った衝撃波は強烈だった。


 試合場と客席を区切るフェンスにぶち当たり、破砕音を轟かせて、最前列の観客を幾人も巻き込みながら崩壊していく。


「……な⁉︎」


 俺はいきなりの出来事に、あっけに取られた。


「……ふひ。

 ふひひひひ……。

 素晴らしい……。

 これが生まれ変わった俺か!」


 血塗れになった客席から、重傷を負った誰かの呻き声が聞こえた。


 悪魔はその声に、満足気に耳を傾けている。


「ああ……。

 すべてがわかる。

 頭のなかに、黒の福音が鳴り響いている。

 これがあの夢のお方からの祝福。

 俺に授けられし、破壊の力。

 なんという清々しい気分だ……」


 カノだった悪魔はつぶやきながら、恍惚の表情で頭上を仰ぎ見ている。


「きゃあああああああああああああ!!!!」


 客席から、耳をつんざくような悲鳴が響いた。


「や、やばい!

 逃げろ!

 逃げろおお!」


 その金切り声を皮切りに、静まり返っていた観客たちが、雪崩のような勢いで逃げ出していった。


 ◇


「君たち!

 すぐに試合場を降りて、避難しなさい!」


 振り返るとトーナメントの警備を担当していた都市の兵が集まっていた。


「もうトーナメントは終了している。

 あの魔物は我々に任せて、君たちははやく避難を!」


 イーリィとラグが、先輩をかばう俺のもとに駆け寄ってきた。


「ユウ!

 どうなってるのこれ!」


「俺にもよくわらない。

 悪魔男爵……。

 いったいあいつはなんなんだ」


「……ユウ、イーリィ。

 状況が把握できない。

 ここはひとまず警備兵に従って、避難したほうがいいだろう」


 俺とイーリィは揃って先輩の言葉に頷いた。


 油断なく怪物を見据えながら、試合場を降りる。


 すると俺たちと入れ替わるように、警備兵たちが隊列を組んで試合場に上がった。


「全員武器を構えろ!

 目標は試合場に突如現れた、あの魔物だ。

 タイミングを合わせて、一斉に掛かるぞ!」


 30名からなる警備兵たちが、猛烈な勢いで突撃を開始した。


「……くひひ」


 だが悪魔は慌てない。


 むしろ余裕の笑みを浮かべている。


 その悪魔が丸太のように膨れ上がった筋肉質な腕を、天高く持ち上げた。


 かと思うと躊躇なく、襲いくる警備兵の頭に振り下ろす。


「ぎゅぷ!」


 警備兵の頭が、熟れた果実を叩き潰すように破裂した。


「きひひ……!」


 悪魔は邪悪に笑いながら、何度も腕を振り下ろす。


 その度に、ひとつ、またひとつと兵の頭部が弾け飛んでいく。


 警備兵が全滅するまで、さほど時間はかからなかった。


 ◇


 血の海と化した試合場の只中で、悪魔が嗤っている。


「……さて。

 つぎはお前たちの番だ」


 邪悪な笑みだ。


 カノ・クーガーだった怪物が、ゆっくりと俺たちを振り返った。


 どうやら見逃してくれるつもりはないらしい。


 俺の頬を、ひと筋の冷たい汗が流れた。

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