召喚獣進化
俺は早速、レベル上限に達したラグに進化のスキルを授けた。
途端に大きな狼の身体が光りだす。
「え、え⁉︎
これって?」
「どうしたんだ、イーリィ?」
「え、えっと……。
なにこれ?
頭に変なのが浮かんでくる。
こ、これってまさか⁉︎」
イーリィが戸惑いだした。
「進化先よ!
私の意思で、どんな風にラグを進化させるか、選べるみたいなの!」
【ファングウルフ、進化先選択】
・レッドウルフ
・ブルーウルフ
・グリーンウルフ
・イエローウルフ
・ウォーウルフ
彼女が言うには、これだけの選択肢が発生しているらしい。
「ど、どれを選べばいいのかわからないわ!」
「……そうだ。
なぁ、ユウ。
君の『鑑定』で、いまのイーリアスをみてみたらどうなっている?」
「なるほど。
やってみよう」
ティト先輩の助言に従い、イーリィを鑑定してみた。
"名前:イーリアス・エーイティ
レベル:18
スキル:召喚術、盾術、防御
状態:召喚獣、進化選択"
「見えた!
俺にも見えたぞ」
さらに詳しく『状態:召喚獣、進化選択』を鑑定してみる。
するとイーリィ本人にすら見えていない、詳細な情報が脳裏に浮かんできた。
・種族名:レッドウルフ
火炎を操る狼。攻撃力が高い。
次進化、フレイムウルフ。
・種族名:ブルーウルフ
氷結を操る狼。防御力が高い。
次進化、アイスウルフ。
・種族名:グリーンウルフ
大気を操る狼。素早さが高い。
次進化、ウィンドウルフ。
・種族名:イエローウルフ
雷撃を操る狼。バランス型。
次進化、ライトニングウルフ。
・種族名:ウォーウルフ
戦いに特化した狼。物理攻防が高い。
次進化、ヘルハウンド。
俺は得た情報をイーリィや先輩に伝えた。
「戦いに特化した狼……。
ウォーウルフがいいかしら?
ねえ、ユウはどう思う?」
「難しいな。
ヘルハウンドの後は、どう進化するんだろう。
鑑定でもよくわからない……。
先輩はどう思う?」
「……ふむ。
そういえば、こんな話を聞いたことがあるぞ」
こほんと咳払いをしてから、先輩が話し出す。
「とある英雄が連れていた、一頭の進化するヘルハウンドの伝説だ。
英雄と旅をしたその黒犬は、『月狼ガルム』、『天狼シリウス』をへて、やがては最強の神獣たる『神狼フェンリル』へと至ったらしい。
……まぁおとぎ話だし、信憑性は定かではないがな」
なるほど。
そんな英雄譚があるのか。
やはりティト先輩は物知りである。
◇
「イーリィ。
どうする?」
少しの間、イーリィは目を閉じて黙考する。
「……決めたわ。
私、やっぱりウォーウルフにする。
いまは次のトーナメントに備えて、少しでも戦力を増強させたいときよね。
なら、この選択が一番だと思うの」
彼女が進化先を決めると、ラグの身体がますます眩しく輝きだした。
「……ほう。
これが召喚獣の進化か。
ふふ。
君たちと一緒にいると、珍しいものを目にできて飽きないな」
俺たちが見守る前で、まばゆい光が狼へと収束していく。
そこには立派になったラグがいた。
進化前は全体的に灰色だった被毛がより漆黒へと近づき、胸元の飾り毛もなんだかボリュームが増している。
ファングウルフだった頃のトレードマークだった大きな犬歯はなくなったものの、体は一回り大きくなって、逆に精悍さは増していた。
"ウォーウルフ(個体名:ラグ)
レベル:20
噛み付き、咆哮、爪撃、突進、攻撃強化、防御強化、再生、進化"
「まぁ⁉︎
格好いいわよ、ラグ!」
「わふぅん!
はっ、はっ!」
ラグはボリュームの増した尻尾をぶんぶん振って、イーリィにじゃれついている。
これではせっかくの精悍な顔付きが台無しだ。
まあ俺としては、これくらい愛嬌のあるほうが好きだけどね。
「きゃあ!
こぉら、ラグってば!
そんなに顔を舐めてきちゃ、だめよ」
言葉とは裏腹に、イーリィが笑顔でラグに抱きついた。
立派な胸の飾り毛にぽふっと顔を埋めて、とっても気持ち良さそうだ。
正直ちょっと羨ましい。
「よし!
これでイーリィもばっちりだな」
「ええ。
ありがとうユウ。
私、みんなのためにもラグと一緒に頑張るわ!」
「わふ!」
「さぁ、ユウにイーリアス。
それじゃあ早速、進化したラグの力をみてみようしゃないか」
俺たちはダンジョン下層での特訓を再開した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
激しい特訓だった。
来る日も来る日もモンスター退治。
みんな毎日、倒れるギリギリまで下層で戦った。
イーリィなんて実際に一度倒れてしまって、ラグの背中に担がれて帰還する羽目になったりもした。
まったく侯爵令嬢だっていうのに、無茶をするものである。
でもその甲斐あって、俺たちは随分と強くなっていた。
"名前:ユウ
レベル:59
スキル:雷撃剣、投擲、殴打、逃走、威圧、雷撃、盾術、剣術、防御、棒術、群体、噛み付き、打撃、回避、飛行
ユニークスキル:女神の恩寵"
"名前:ティト・キュイナ
レベル:41
スキル:剣術、火炎、馬術、体術、回避
ユニークスキル:騎士の誇り"
"名前:イーリアス・エーイティ
レベル:26
スキル:召喚術、盾術、防御、弓術、睡眠"
"ウォーウルフ(個体名:ラグ)
レベル:28
噛み付き、咆哮、爪撃、突進、攻撃強化、防御強化、再生、進化"
これがいまの俺たちのステータスだ。
「グルゥアアアアアーーッ!」
「はぁぁ!!」
襲い掛かってきたモンスターを、一刀のもとに斬り捨てる。
これでようやくひと段落つけそうだ。
「はぁ、はぁ……。
どうですか、先輩?」
魔物の群れを退治した俺は、みんなの仕上がり具合を先輩に尋ねてみた。
「ふむ。
みんな強くなったな。
特にユウはほんとうに強くなった。
もう私が逆立ちしても、君には敵わないだろう」
「そんな……。
俺なんてまだまだですよ」
「ふふふ。
そう謙遜するな。
……まあ私は、君のそういうところ嫌いじゃないがな」
汗をぬぐいながら、先輩が俺を流しみる。
赤い前髪の隙間から覗いた切れ長の鋭い瞳に、俺の胸がドキリと高鳴った。
「大丈夫だ。
これならきっと私たちは、都市トーナメントを勝ち抜けるだろう!」
ティト先輩が太鼓判を押してくれた。
俺たちは激しい特訓を乗り越えたのだ。
「都市トーナメントは3日後だ。
ユウもイーリアスも、あとはゆっくり身体を休めるようにな」
「でも……。
身体を動かしていないと、落ち着かないわ」
「ダメだ。
先輩の言う通りだぞ。
身体を休めることも大切だ」
「……そうね!
わかったわ、ユウ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
みんなと別れて、俺はメロの待つ宿屋へと帰ってきた。
もうクタクタである。
「おかえりなさい、ユウさま!」
メロが笑顔で迎えてくれる。
嬉しそうだ。
もし彼女に尻尾があれば、きっとぶんぶんと振っていることだろう。
「ああ、ただいま。
はぁ、メロは可愛いなぁ……」
この笑顔さえあれば、俺はいくらでも頑張れる気がする。
「ユウさま。
すぐに晩ご飯温めます。
座って、待っててください」
「……悪い。
その前に、ちょっとだけ寝かせて……」
俺はふらふらとベッドに歩み寄り、身体を投げ出した。
「はい。
お疲れさまです、ユウさま」
ベッド脇に座ったメロが、疲れ果てた俺の背中を優しく撫でてくれた。




