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レベルアップ

 学園都市郊外の森にやってきた。


 ここはモンスターの出る危ない森だ。


 現れるのは大体はゴブリンやホーンラビットみたいな弱いモンスターだけど、たまにファングウルフみたいな強いモンスターも出る。


 いまはまだ昼間だから、森の入り口あたりは木漏れ日が差し込んできて明るい。


「よ、よし……。

 いくぞ……」


 倒木や苔むした岩に足を取られないように注意しながら、森のなかを進んでいく。


 だんだんと森が深くなり、あたりが薄暗くなってきた。


「ギルルルゥ……」


 目の前にゴブリンが一匹いた。


 緑色の気持ち悪い肌のヤツで、口の端からは涎を垂らしている。


「か、鑑定!」


 さっそく俺は、得たばかりのスキルの効果を使って目の前のゴブリンを鑑定してみた。


"ゴブリン

 レベル:7

 スキル:剣術"


 俺よりレベルが3つも高い。


 このゴブリンとレベル4の俺では、いささか分が悪い。


 1対1で戦っては苦戦してしまうかもしれない。


「ど、どうする……?」


 自問自答する。


 やっぱり逃げ出そうかと、弱気が頭を掠めた。


 でもそれじゃあダメなんだ。


 俺はこの女神の恩寵を得たことをきっかけして、自分を変えたいと思っている。


 剣の柄をギュッと握りしめ、勇気を振り絞って、ゴブリンに斬りかかった。


「や、やあああああああっ!」


 思い切り振り回した剣が、ゴブリンにかわされた。


「グキャギャ!」


 醜悪な妖精ゴブリンは、隙だらけになった俺の背中を眺めて嬉しそうに笑っている。


「アギャキャー!」


 ゴブリンが奇声を発して襲い掛かってきた。


 手に持った棒を滅多矢鱈に振り回してくる。


「ひぅ……ッ⁉︎」


 俺は頭を抱えて体を丸くした。


 ダメだ!


 やっぱり俺ひとりじゃ無理だったんだ!


 殺されてしまうかもしれない。


 後悔が胸の内側を満たしていく。


「――アギャ⁉︎」


 そのとき、偶然にもゴブリンが転んだ。


「ギィルィ……」


「はっ!

 い、いまがチャンスだ!」


 震える脚に力を入れて立ち上がる。


 俺は必死になってゴブリンに剣を突き刺した。


「このッ!

 このぉ……ッ!」


「アギャ⁉︎

 グギギギッ⁉︎」


 ゴブリンから青い血が、ぴゅーぴゅーと吹き出る。


 きっと俺の顔も血の気が引いて青くなっていることだろう。


 でも俺は、震えながらも何度も剣を突き立てる。


 滅多刺しにすると、ようやくゴブリンが抵抗をやめて、四肢をぐったりと地面に投げ出した。


 ◇


「か、勝った……」


 思わずペタリと座り込んでしまう。


 ひとりでもゴブリンに勝てた。


「や、やった……。

 俺だって!

 俺だって、やればできるんだ!」


 両手をあげて喜んでいると、胸の奥からなんだか力が湧き上がってきた。


「まさか、レベルアップ⁉︎」


 意識をステータスに集中する。


"名前:ユウ

 レベル:5

 スキル:剣術

 ユニークスキル:女神の恩寵"


「ほ、ほんとにレベルアップしてる……」


 レベル4の俺がレベルアップしようとしたら、ひとりでゴブリンを十匹以上倒さなくちゃダメなはずだ。


 それがどうして、こんなにも早く……⁉︎


「あ、そうか!

 これはきっと、女神の恩寵のおかげだ!」


 女神の恩寵の効果に『成長速度超上昇』というものがあった。


 おそらくそのおかげで、あっという間にレベルアップしたんだ。


 いまにして思えば、あのときゴブリンが転んだのだって、『超幸運』のおかげかもしれない。


「す、凄い力だ。

 これが俺のユニークスキル……」


 特に成長速度超上昇がすごい。


 たった1匹のゴブリンを退治しただけでレベルアップだなんて……。


 なんだかうずうずしてしまう。


 もっと魔物を退治して、バンバンレベルアップしたい。


「よし!

 そうと決まればゴブリン退治だ!」


 俺は森のなかを、ゴブリンを探して走り回った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 俺のレベルは10になった。


 わずか一日で6レベルものアップだ。


 普通なら考えられない。


 でも女神の恩寵を持つ俺なら、それが出来るのである。


「ステータス、ステータス……」


 意識を集中させる。


"名前:ユウ

 レベル:10

 スキル:剣術、投擲、殴打、逃走

 ユニークスキル:女神の恩寵"


 知らぬまに、ズラッとスキルが並んでいる。


 これらはゴブリンやホーンラビットが持っていたスキルだ。


 どうやら俺は、倒したモンスターのスキルを吸収できるらしい。


 こんな力、いままで聞いたことがない。


 これはもしかして、『スキル操作』の能力なんだろうか。


 もしそうだとするなら、これは本気で、もの凄い力だ。


 それこそ、英雄クラス。


 いや、それすら凌駕しているかもしれない。


 俺は深い森のなかで、ひとり戦慄した。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「うーん。

 そろそろレベルが上がらなくなってきたなぁ」


 最初は一匹のゴブリンを倒せばレベルが上がっていたのに、いまでは何匹も倒さないとレベルが上がらなくなってきた。


「効率が悪いな。

 今日はもう、このくらいにしておこくか」


 帰り道をテクテクと歩いていく。


「ふんふん、ふーん。

 ははは!

 しかしこれは、すごいことになったぞ」


 鼻歌交じりに歩きながら帰る。


 考えていたよりも、ゴブリン退治は簡単だった。


 だから俺は油断してしまっていたのだ。


「……グルルルゥ」


 木の影から一頭の狼が出てきた。


 くすんだ灰色の狼で、口から大きく凶悪な犬歯を覗かせている。


「ま、まさか⁉︎

 ファングウルフ⁉︎」


 鑑定してみる。


"ファングウルフ

 レベル:14

 スキル:噛み付き"


 やっぱりそうだ。


 しかも俺よりレベルが高い。


 これは侮っていたらやられてしまう。


 荷物を置いて、剣を構えた。


 すると――


「ウゥゥゥッ……」


「グルルルゥ……」


 2頭目、3頭目。


 木陰から、茂みから、次々とファングウルフが姿を現わせる。


「そ、そんな……⁉︎」


 合わせて20頭。


 俺はたくさんの狼の群れに、すでに周囲を囲まれてしまっていた。


次回、ユウの大幅レベルアップ!

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