召喚獣強化
俺はイーリィと特訓することにした。
場所は学園都市近郊のあの森だ。
時折顔をだすモンスターを経験値の足しにしながら、ふたりで特訓に励む。
目的は彼女の強化。
いまのイーリィのステータスはこんな感じである。
"名前:イーリアス・エーイティ
レベル:10
スキル:召喚術"
たしかに女子にしてはかなり強い。
クラスの平均レベルが8ほどである事を考えると、イーリィはなかなかのものだ。
きっと才能があるんだと思う。
でも次のトーナメントにでくる相手は、上級生の代表選手たち。
おそらくこれまでとは桁違いだ。
いまのままだと、彼女が怪我をしかねない。
「……ん?
なぁ、イーリィ。
このステータスにある『召喚術』ってなんだ?」
「え⁉︎」
イーリィが目を見開く。
「……ユウ。
どうして私のスキルをしっているの?」
「あっ」
うかつな発言をしてしまった。
俺にはスキル『女神の恩寵:鑑定』があるから、他人やモンスターのステータスが見える。
でも鑑定は激レアスキルだし、普通の人間には自分以外のステータスなんて見えないのだ。
急いで言い訳を考える。
……いや、待てよ。
だがイーリィに言い訳をする必要なんて、果たしてあるのだろうか。
そうだな。
イーリィになら、話してもいいかもしれない。
彼女は信用できる。
メロのことをとってもそうだし、無力だった俺が虐げられていた頃だって、彼女の優しさには何回も救われてきた。
俺はイーリィに隠し事をしたくない。
「……なぁ、イーリィ」
「はい?」
「驚かないで聞いてくれ。
実は――」
俺は『女神の恩寵』について、イーリィに打ち明けることにした。
◇
「……凄いスキルね。
にわかには信じられないわ」
「嘘なんて言ってないぞ?」
「もちろんよ!
ユウが私に嘘をつくはずがないわ!
でも、それくらい凄いスキルだってこと!」
たしかにそうだ。
信じられないのも無理はない。
俺だって誰かから、こんな話をされてもすぐには信じられないだろう。
それくらい『女神の恩寵』の能力はずば抜けていて、他のどんなスキルからも隔絶している。
「でも私、信じるわ。
ユウのこと」
イーリィが真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。
曇りなく俺を信用した瞳。
「……ありがとう、イーリィ」
俺は彼女との間に、暖かな絆が生まれてくるのを感じていた。
◇
イーリィが意識を集中している。
「召喚!
ファングウルフ!」
召喚術が発動した。
地面に輝く召喚陣が描きだされて、そこから灰色の被毛に包まれた、大きな牙のファングウルフが姿を現した。
"ファングウルフ
レベル:10
スキル:噛み付き"
「どう?
これが私の召喚術よ!」
「すごい……」
俺は初めて召喚術をみた。
しかしこれは、なんというかこう、とてもカッコいい。
召喚術か。
なんて男心をくすぐる魔法なんだろう。
「すごいな、イーリィ!
めちゃくちゃ格好良い。
正直うらやましいくらいだ!」
「ふふ。
そうでしょう?
召喚術ってかなりレアなスキルなんだから」
「ああ!
本当にすごいよ!
でも……」
表情と一緒に、緩みかけた空気を引き締める。
このままじゃまだ力不足だ。
呼び出したのは普通のファングウルフで、レベルも10しかないし、スキルも噛みつきひとつぽっちだ。
これではおそらく、この先の戦いでは通じない。
だから俺は、試しに彼女が喚び出したファングウルフを強化してみることにした。
「ちょっといいかな?」
「え?
どうしたの、ユウ?」
「このファングウルフを強くしようと思ってさ」
「強化って……。
一体どうやって……あっ!
もしかして!」
さすがは察しのいいイーリィだ。
もう勘付いたらしい。
「あれね!
さっき言っていた『スキル操作』のことね!」
「……ご明察」
スキル操作。
それは女神の恩寵で、俺が授かった激レアスキルのひとつだ。
効能については多少検証してある。
まずこいつのおかげで、俺は息の根を止めた相手からスキルを奪うことができる。
そしてここからが凄いのだが、俺は奪ったスキルを任意の相手に授けることも可能だったのだ。
つまりスキル奪取とスキル授与。
ふたつの絶大な効果のスキルが、スキル操作には含まれていたのである。
「えっと……。
いまあるスキルで、授けられそうなものは……」
"名前:ユウ
レベル:37
スキル:剣術、投擲、殴打、逃走、噛み付き、咆哮、爪撃、威圧、雷撃
ユニークスキル:女神の恩寵"
「お、いいのがあったぞ!」
噛み付き、咆哮、爪撃。
この辺りなら、ファングウルフに授けるのに丁度いいだろう。
「あ、でも『噛み付き』はもう持ってるのか」
「ねぇユウ。
スキルを重複して授与した、どうなるのかしら?
たとえばこの子に、もう一度『噛み付き』を与えるとか」
「言われてみれば……。
どうなるんだろうな?」
「気になるわ!
やってみましょうよ!」
頷いてから。俺はファングウルフの額に手をかざした。
ファングウルフは大人しくしている。
「スキル操作!」
かざした手のひらから魔法陣が飛び出して、淡く光輝いた。
これでスキルの授与は完成だ。
俺は改めて自分とファングウルフを鑑定してみる。
"名前:ユウ
レベル:37
スキル:剣術、投擲、殴打、逃走、威圧。雷撃
ユニークスキル:女神の恩寵"
"ファングウルフ
レベル:10
噛み付き、咆哮、爪撃"
成功だ。
俺からいくつかスキルが消えて、ファングウルフに移った。
でも、重複授与した噛み付きには変化がない。
「ユ、ユウ?
もう終わったのかしら?」
イーリィが心配そうに俺の目を覗き込んできた。
俺は安心させるように、微笑み返す。
「ああ、終わったよ!
さぁ確認してみてくれ!」
「わ、わかったわ」
彼女はファングウルフを操って、色々と試し始めた。
イーリィの狼は爪で木をなぎ倒し、硬い岩も鋭い牙で噛み砕いた。
「す、凄い!
噛み付きも、引っ掻きも、今までとは比べものにならない威力だわ!」
「……ん?
噛み付きの威力も上がってるのか?」
「うん!
明らかに強くなってるわ」
そうなのか。
ステータス上では同じ『噛み付き』にしか見えないが、威力はあがるんだな……。
初めて知った。
「これならイーリィも、トーナメントで十分戦えるだろうな」
「ええ!
ありがとうユウ。
本当にありがとう!」
良かった。
イーリィも喜んでくれたようだ。
これで最終の学園トーナメントへの準備は整った。
あとは勝つだけだ。
「ユウ……。
私たち、必ず勝ちましょうね」
「もちろんだ」
俺たちは必ず勝って、エリクサーを手に入れる。
待っていろ、メロ。
きっともうすぐ俺たちが、お前を苦しみから解き放ってみせる。




