女神の恩寵
――ああ、私の愛しいユウ。
あなたに……。
あなたに、このスキルを授けます。
私の愛しいユウ。
健やかに。
あらゆる幸福があなたに訪れんことを。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
目を覚ますとベッドに寝かされていた。
俺の名前はユウ。
年齢は15歳。
学園都市ショウ・セッカにある、とある全寮制の魔法学園の生徒だ。
この学園には裕福な子供が多い。
貴族の子供や大商人の子供が、たくさん通っているからだ。
でも俺の生家は都市の郊外の村で、父親はそこの村長だ。
だから村では多少えらそうに振る舞えても、この学園での身分は最底辺である。
それに、なんとか入学は出来たけど俺は魔法が使えない。
そんな理由で、俺は学園では不遇な扱いを受けていた。
無視されたり、教科書を隠されたり……。
毎日がとても大変だった。
◇
目を覚ます。
いつの間にか俺は意識を失っていたようだ。
「おら!
やっと気が付いたのか!」
「相変わらずドジでノロマだな、ユウ!」
虐めっ子どもが近付いてきた。
ラアキヒ伯爵家の跡取り息子オゥグスと、その取り巻きで商人の息子のネマムだ。
「そういえば……」
今日は体育の授業で、オゥグスに後ろから魔法を撃たれて、気絶したんだった。
こいつらはいつも理由もなく俺を虐めてくる。
「おいユウ!
教師には言うんじゃねーぜ!」
「そうそう!
お前が勝手に気絶しただけだからな!」
彼らは怖い顔で念を押して去っていった。
「……ここは」
俺は寝かされていたベッドから起き上がって、部屋を見回した。
どうやら保健室に寝かされていたようだ。
◇
俺は学園では剣士課程を選択していた。
生まれつき俺には魔法系のスキルはなかったけど、剣術のスキルがあったからだ。
スキルには様々なものがある。
例えば『腕力上昇』とか『火炎』とかいう具合だ。
一般的に子供たちは15歳になると学園に入学して、生まれ持ったスキルを磨きながら将来の進路を決めたりする。
まぁ学園に通うのはお金がかかるから、家がお金持ちじゃないと無理だけど。
俺の家は村長だからギリギリで通えるレベルだ。
学園は魔法が使えるとエリート扱いされるけど、別にお金さえ払えば魔法が使えなくても入学できる。
だから魔法が使えない生徒も割といた。
「えっと……。
ステータス、ステータス」
なんとなく自分の状態を確認しようと、意識を集中してみた。
脳裏にステータスが浮かんでくる。
"名前:ユウ
レベル:4
スキル:剣術
ユニークスキル:女神の恩寵"
うん。
いつも通――って、違う⁉︎
いまなにかがあった!
もう一度意識を集中する。
"名前:ユウ
レベル:4
スキル:剣術
ユニークスキル:女神の恩寵"
剣術。
うん、ここまではいい。
でもなんだこれ⁉︎
女神の恩寵⁉︎
こんなスキル、見たことも聞いたこともない!
俺は更に意識を集中して、スキルの詳細を調べる。
"ユニークスキル:女神の恩寵
神に愛されたものだけに与えられる、この世界でたったひとつのスキル。
『成長速度超上昇』『スキル操作』『鑑定』『隠蔽』『超幸運』
現時点においては以上のレアスキルを複合した、進化するオリジナルスキルである"
目を疑った。
なんなんだろうこれは?
無茶苦茶な壊れスキルじゃないか!
◇
呆然としていると保健室のドアが開いて、女の子が入ってきた。
「ユウ!
大丈夫⁉︎」
顔を見せたのはイーリィだった。
相変わらず美少女だ。
エーイティ侯爵家のご令嬢イーリアス・エーイティ。
腰まで伸ばした綺麗な金髪の、超がつくような美少女である。
金の髪がツヤツヤと光を反射して美しい。
美しさと可憐さの両方を併せ持つ少女。
それがイーリアス・エーイティなのである。
イーリィの瞳は吸い込まれそうな碧色だ。
彼女はその瞳で、俺を心配そうに眺めてきた。
「ね?
どこも怪我していない?」
「あ、ああ。
大丈夫だよイーリィ」
「本当に?
またオゥグスやネマムに虐められたんでしょう?
なんなら私から先生に――」
「まて!
ほんとに大丈夫だから!」
彼女は俺みたいなカースト最底辺の生徒にも優しくしてくれる。
見た目も性格も良くて、1年生のアイドル的存在なのだ。
「心配だわ……。
ねぇユウ。
今度の学園トーナメントの代表決定戦は、もう辞退したほうがいいんじゃないかしら?」
イーリィが心配そうに、俺の顔を覗きこんできた。
学園トーナメント。
それは毎年1回開催されれ恒例の行事で、誰がこの魔法学園ロ・ナウで一番強いかを決めるトーナメントだ。
もう何日かしたら開催されることになっている。
でもその前に、まずはクラス代表を決める選抜戦がある。
「うん。
最初は俺も辞退しようと思ってたんだけど……」
「なら!」
「待ってくれ、イーリィ。
でも、やっぱり出てみようかなぁって」
俺のクラスにはオゥグスがいる。
あいつはあんな嫌なヤツだけど、その実力は本物だ。
うちのクラスの代表はオゥグスになるだろうと言うのが、大方の見解だった。
でも……。
俺はさっき見つけたスキルを思い出した。
スキル:女神の恩寵。
これがあれば、なんとかなるかもしれない。
「怪我しちゃうわよ、ユウ!」
「……かもしれないな。
でも、試したいことがあるんだ」
俺はベッドから降りて、イーリィに笑顔を見せた。