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第02話 兵舎

 ゴンッというソラが()()()()音に続いて、バタンッとソラが倒れる音が響いた。

 そして、その後に続いたのは怒号だった。



「おい、ガキっ! カリア()に何をしてるんだ!」



 姫と呼ばれた少女はハッと我に返る。先ほど、急に何かが無くなって体が軽くなったような感覚に陥っていた。だが、今の状況を見てソラとソラに殴り掛かった王の直近の一人であるルノウの間にすぐさま割り込み、両手を広げてソラを庇う。

 そんな少女を呆れ顔で見下ろしながらルノウは声を掛けた。



「カリア姫、ご慈悲を与えるのはいいのですが、相手はきちんと選んでください。全ての人間がわが王国にとって有益であるとは限らないのですよ?」



 それでもその場所から立ち退かないカリアに、ルノウは諦めの表情を浮かべる。



「まぁいいです。早く行きますよ、姫様。皆、準備を終えております」



 カリアはその言葉に一つ頷いてから、ソラが意識を失っていることに初めて気が付く。必死にソラの体を揺らすが、ソラが目を覚ます事は無い。急いで耳を胸に当て、心音を聞いてホッと安心する。



「そんな薄弱なガキの事なんて気にすることありませんよ。その辺に放っておけば――っと、そんなに睨まないで下さい。そうですね……そこのソファにでも寝かせておけばそのうち目が覚ますでしょう。……分かりましたよ。私がやりますよ」



 なぜこんなことをしなければならないのか。ルノウはカリアの鋭い視線を浴びながら内心でそう悪態を吐きつつ、ソラをソファへと寝かせた。



「これでよろしいですか? さ、行きますよ」



 カリアは不満げな表情を浮かべたが、ソファで横になっているソラを心配そうに見つめながら部屋を出た。





「……ラ…ま……ソラ…ま……ソラ様!」



 その呼びかけでソラは目を覚ます。目を開けると、心配そうにこちらをのぞき込んでいる門番をしていた兵士の姿があった。



「えっと……あれ?」


(確か女の子に会って――。確か頬を殴られたような……)



 そう思ってソラは左の頬に手を当てる。



「いっ――!」



 ソラは予想以上の痛みに思わず顔を歪めて声を挙げる。そして、体を起こすと同時に右半身にも鈍い痛みがあることに気が付く。左頬を殴られ、地面にたたきつけられた時の痛みだとソラはすぐに理解した。



「頬が腫れていますが、何かあったのですか?」


「い、いえ。何でもないです」



 反射的にソラはそう言った。気絶する前にルノウの姿を見たときに、立場がずっと上の人間だと理解していたから。ソラは自分のような一介の村人が貴族などの上級階層の人間に逆らったら碌なことにならないことを理解していた。



「……そうですか。すぐに治癒魔法の使える者を連れてくるので少々お待ちください」


「ありがとうございます」



 その後やってきた治癒魔法が使える女性の兵士に頬の腫れと右半身の打撲を治してもらった。治療してもらっている間、ソラは初めて見る治癒魔法を物珍しげに見つめていた。数少ない治癒魔法が使える者に治癒してもらえると言う優遇はルバルドの書簡のお陰なのだが、今のソラにそれを知る由は無かった。

 その後、迎えに来ているという一人の女性兵士の元へと向かった。



「あなたがソラ君ですね?」


「はい。えっと、ソラでいいです」


「じゃあ、ソラ。私はスフレアと言います。ルバルド兵士長の補佐をしていて、副兵士長と言う立場にいます。これから長い付き合いになると思います。よろしくお願いしますね」


「はい! よろしくお願いします!」



 スフレアと名乗った兵士は頑丈さをあまり感じさせない、軽そうで動きを邪魔しないような必要最低限の鎧を身に着けており、奇麗な腰のあたりまで伸ばしている赤髪は邪魔にならないように途中で結んである。腰には細身で先端が鋭いレイピアをぶら下げていて、その風貌は兵士とは思えないほど美しいものだった。



「申し訳ないのですが、ルバルド兵士長は先ほどカリア姫の護衛として国を出ていまして。ですが、話は聞いていますので安心してください。彼が戻るまでは私が稽古を付けさせていただきます」


「よっ、よろしくお願いします!」


「取り敢えず歩きながら話しましょうか」





 ソラは村とは明らかに規模の違う街の景色に圧倒されながら、スフレアの話を聞いていた。



「――といった感じで城の兵士に交じって一緒に訓練してもらいます。ルバルド兵士長が来るまでは、私が相手をします。とは言っても、剣の腕は兵士長ほどじゃないからあんまり期待しないでくださいね。それで、ソラ君は剣術の方はどうなのですか?」


「そ、その……剣を握ったことすらないです」



 村で育ってきたソラは魔物と戦ったことはおろか、剣を手に取ったことさえない。ソラは申し訳なさそうに行ったが、村出身の人間ならばさほど珍しいことでもなかった。



「そうですか。でも、気にしなくても大丈夫ですよ。初めは皆そうなのですから。それに、あなたにはスキルがあると聞いています。城に行けばそれを確認する魔道具があるので、それを使いましょう」


「スキルってどんなのがあるんですか?」


「そうですね……。魔法で言えば『属性(火)』とかですね。この場合は魔法使いの場合はその名の通り火属性の魔法を、剣士の場合は技術さえあれば剣に炎を纏わせることも出来ます。ちなみに、ルバルド兵士長は『飛翔斬』というスキルを持っています。その名の通り、斬撃を遠くへ飛ばすスキルです。剣士でありながら遠距離にも対応できる反則ともいえるスキルですね」


「スフレア副兵士長は何かスキルを持っているんですか?」


「私は『属性(火・水・雷)』のスキルを持っています。剣に纏わすことも出来ますが、基本的には魔法として使っています。私の装備が軽装なのは、近距離戦にも遠距離戦にも対応するために動きやすい方が都合が良いからです。もう質問は無いですか?」


「えっと、僕でもルバルド兵士長やスフレア副兵士長のようなスキルを習得することは出来るんですか?」


「スキルには天性のものとそうでないものがあります。ですが、新しくスキルを習得するには条件も人それぞれで滅多に無いので、それはほぼ有り得ないと思ってもらって構いません。ですから、スキルを持っている者はそれを如何にして使いこなすかが大きく実力を左右するのです。ソラのスキルもルバルド兵士長のような万能性の高いものだといいですね」



 そんな会話をしながら、ソラは大きな門の前に着いた。開かれた扉の奥には立派な城が聳え立っている。スフレアが軽く会釈をすると、そこにいた門番も会釈を返し、スフレアとソラを通した。その門をくぐった後、スフレアとソラはすぐに右に曲がる。



「兵士達が生活している区画はこっちです。兵舎は城の東と西に一つずつあります。東に主に近接戦を得意とする兵士たちが、西に遠距離戦を得意とする――つまり、魔法を主に戦う兵士たちが生活している区画があります。ルバルド兵士長が東の兵舎なので、ソラには東の兵舎に行ってもらいます」


「じゃあ、スフレアさんはどっちになるんですか?」


「私は兵士長の補佐と言う立場上、ルバルド兵士長がいる東の方が何かと便利なので東にいます。ですが、訓練の時は西に行くこともあります。私みたいに特殊なケースはあまりないんですけどね。ルバルド兵士長からはソラのスキルも特殊そうなものだと聞いていますから、私と同じようになるかもしれませんね。まだ、どんなスキルかは分からないんでしたよね?」


「はい。使ったことはあるんですけど……」


「それなら、先にスキルを確かめに行きましょうか。それを確かめるための魔道具は城の北側にあるんです。北にあるのは兵士を志願してきた者を確認した後に東と西、どちらに行くにしても距離が同じということや、南は出入りするための門があるという理由です」



 そんな説明にソラは納得しながら、まだ知らぬ自分のスキルに胸を高鳴らせていた。

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