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第10話 勧誘

 ソラ達が依頼を受けるためにギルドを訪れると、周囲から自然と人が離れていく。彼らの視線は畏怖と尊敬が入り混じったようなものだった。



「少し懐かしいな……」



 ソラのその言葉に、ティアとミラは頷いた。



「そういえば、お二人がルークさんと一緒にロートの方と戦った後もこんな感じでしたね」


「少しギルドに馴染んだせいか、あの頃よりは幾分マシじゃがな」



 ソラは大勢の人間が見ている前で、目に見える形でスキルを発動させた。それも、通常なら考えられないほどの規模、威力で。

 それは人を遠ざけるには十分すぎるほどのモノだった。



「……」


「どうかされたのですか……?」



 ソラが小さくため息を吐いたのに気が付いたティアはそう問いかけた。

 ソラがそれに答える前に、ミラが口を開く。



「まあ、なんとなく予想はつく。ギルドが人員を総動員ないし避難させざるを得ないほどの魔族をたったの一振りで消し去ったのじゃ。そんなことをすれば、来るのは必然とも言えるじゃろう」


「一体何が……?」


「おるじゃろう、魔族との戦いに全てを賭しておる者たちが」



 そこまで言われて、ティアはようやく気が付いた。

 想定外の攻撃で人間が劣勢であるという話はギルド、そしてソラ達の元まで届いている。そんな状況で、今回のギルドを襲撃した魔物の殲滅したという噂。目を付けられるのは当然だ。

 三人が建物へ入った時、ギルドマスターが駆け足で近づいてきた。



「ネロ、ちょっとこっちに来てくれ」


「断りま――」


「待て、お前らだって今回の件でどれだけの騒ぎになっているかは分かっているだろう? もはやギルドマスター何て権限で抑えられるほどの事じゃ――」



 ギルドマスターがそこまで言った時、ソラとティアにとってはどこまでも耳障りな声が聞こえてくる。

 煌びやかな装飾品を身に付けた小太り男は、背後に十数人の護衛を引き連れていた。



「もういい、ギルドマスター。私がここで直接話そう。初めましてだね、ネロ君御一行。私の名前はルノウ。ライリス王国、ブライ陛下の命令で君たちに会いに来た者だ」



 周囲が静まり返っているせいで、その声はやけに響く。

 フードの下でソラ、ミラ、ティアは三者三様の表情を浮かべていた。

 そして、ルノウの挨拶には誰に一人答えることなく踵を翻した。



「話には聞いていたが、随分な頑固者のようだな。分かっているだろう? 君のその力があれば多くの人が救える。聞けばネロ君、君は辺境の地で困り果てている人々の依頼を数多くこなしているそうじゃないか」



 ルノウの話に耳を傾けることなくソラは受付嬢の元へと辿り着き、「いつものをお願いします」と話しかける。その普段と変わらぬ口調に若干の落ち着きを取り戻した受付嬢は、いつもと同じようにソラ達の依頼を見繕う。

 その間も、三人の背後からは声が聞こえる。



「魔族の侵攻を許せば、小さな村何て簡単に崩壊する。それだけではない。このギルドや王都にいる多くの人も危険に晒される」



 ソラは受付嬢が持って来た数枚の依頼書から一枚を選び、手続きを始める。



「かつて私の部下が来た時、ネロ君は人間が負けたって構わないと言ったそうだね」



 ルノウの言葉に周囲は一瞬のざわめきを見せ、ギルドマスターはばつの悪そうな表情を浮かべた。

 その発言を人前ですることが、どれだけまずいことかをよくわかっていたからギルドマスターは誰にも言わなかった。

 しかし、ルノウは躊躇いなく言った。ギルドという場所を、ネロにとって居心地の悪い場所にするために。

 そんな状況に臆することなく、ソラは依頼の受注を終えてミラとティアと共に出口へと向かっていく。

 ルノウとその護衛たちはその道に立ち塞がる。



「悪いが、私は君たちが納得するまでここを離れる訳にはいかない。今のネロ君の影響力はそれほどまでに大きくなっている。君が望むのならいくらでも報酬を差し出す。悪い話ではないはずだ」



 それから少しの間を空けて、ソラはようやく口を開いた。



「何を()って俺の求める報酬を差し出せると決めつける?」



 それは、普段の物腰の柔らかい口調ではなかった。

 どこか見下したようで、どこまでも冷たいその声は、三年という時をずっと一緒に暮らしたティアでさえ恐怖を感じるものだった。



「断言できる。お前らに俺が何かを望むことなんて絶対にあり得ない」


「思ったよりも君は状況を理解できていないようだ。正直に話すと、君は王国に危険人物として指定されている。その思想も含めてね。私たちを敵に回すことがどういう事か――」



 ルノウの言葉を最後まで聞くことなく、ソラは歩みを進め始めた。



「邪魔をするなら殺してでも通る。これ以上お前らと話すことは何もない」



 その言葉とほぼ同時に、護衛の一人が武器を抜いて飛び出した。それは一瞬の出来事で、普通の人間ならばスキルを発動する間もなく真正面に振り上げられた剣で体を切られているだろう。しかし、ソラは生き物の微かな予備動作さえスキルで感知できる。

 誰一人止めることも、声を上げる事すらできなかった。そんな刹那の出来事。ルノウの目の前では強固な鎧と真上に振り上げた剣ごと左右に分断された死体がかき分けた草木の様に倒れる。その切り口は異様なほど綺麗で、その向こうにいるネロの右手には不定形な黒い炎を灯した武器が持たれていた。

 一瞬の出来事で混乱したルノウだったが、それも想定通りと言わんばかりに内心ではニヤリと笑っていた。しかし、表情には驚きと戸惑いを浮かべ、ネロに道を譲るように横へとずれた。

 そして、ソラが武器を収めて建物から外へ出ようかというその時――。



「――っ! 待て、お前らっ!」



 そう声を張り上げたのはルノウだった。

 先程殺された護衛と仲の親しかった二人がネロ達に向かって飛び出していた。計画にない行動をする二人に、ルノウは焦りを見せる。

 ソラは体の向きを変えることなく、小太刀を数センチだけ引き抜いた。その隙間から背後へと黒いナニカは風を受けた炎の様に広がり、二人の胴体を通過してから霧散する。ソラが小太刀を鞘に納まる頃には、二つの死体が地面へと落ちていた。

 その場にいた者が我に返ることが出来たのは、死体が大きな血だまりを作り、ソラ達が建物の外へと出て行った後だった。

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