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第10話 二人

 ユーミアはミィナを抱え、森の中を飛んでいた。



「……ユーミア、これからどうするの?」


「分かりません。ただ、ハーミスさんの言っていた通りなら、エクトさんがスキルを扱えるようになれば人間に勝ち目はないです。三年後のその時まで待つしかありません」


「……」



 エクトという言葉に、ミィナは悲しげな表情を浮かべた。あの時――エクトを魔王の配下が迎えに来た時に無理にでも止めておけばこんな事にはならなかったかもしれない。そんな考えが頭をよぎった。



「エクトさんは生きています。助けられる可能性はまだありますよ」


「エクトがあんな風になってたのは……何かのスキルの影響なの?」


「私はそう思います。ですが、私の知っているスキルではないようです。『呪術』と呼ばれる、対象を縛る事の出来るスキルがあります。私は初め、それだと思っていましたがどうやら違うようです。体のどこにも紋様がありませんでしたから」



 呪術は通常、発動させれば体のどこかに紋様が発現する。エクトは自分で思考を出来ないほどに抑えつけられていた。それが奴隷紋と呼ばれるものよりも遥かに強力であることは簡単に想像できる。そんな強力な呪術ならば、服を着る程度で紋様を隠しきれるはずがないのだ。



「私のスキルじゃ、どうにも出来ないよね……」


「確かにミィナ様のスキルでエクトさんを助けることは出来ないかもしれませんが、私は二度も助けられました」


「二度? 私はまだ一度しかスキルを使ってないんじゃ……」



 ミィナが十回目の誕生日を迎えたその日、ユーミアはミィナに真実を伝えた。しかし、スキルに関してはミィナの身を案じて話さなかった。



「そういえば、まだミィナ様には話していませんでしたね。もう隠す必要もないですから、落ち着いたらきちんとお話しします」



 ミィナがスキルを発動させたぐらいでは発見されないような場所に居場所を見つける。もしそれが叶ったのなら、ミィナに全てを話しても問題はない。

 話すことは沢山ある。だが、それはそれでいいかもしれないとユーミアは思った。何しろ、ハーミスと合流するまで三年間という長い時間があるのだから。





 それから何度かの野宿を繰り返しながら飛び続けた。やがて、深い森の中に洞穴のようなものを発見する。

 ユーミアはその周りを円を描くように飛んだ。



「ユーミア、あの中に入らないの?」


「中に魔物が生息している可能性があります。私は面と向かっての戦闘は不得意ですし、支配できる魔物の種類も限られます」



 そう言いながらも、ユーミアは周囲に視線を配っていた。やがて、森の中にゴブリンの集団を発見する。彼らの持つ木製の棒には死んだイノシシが手足を縛られぶら下がっている。



「ミィナ様、少し静かにしていて下さい」



 ミィナがコクリと頷いたのを確認すると、ユーミアは彼らの追跡を開始した。

 ユーミアの推測通り、洞穴の中には魔物が住み着いていた。追跡したゴブリンは洞穴へと入っていき、少ししてから騒がしい声が洞穴から聞こえ始める。



「どうやら食事を開始したみたいですね」


「他の所を探すの?」


「いえ、この場所にしましょう。こんなに都合のいい場所は中々ないでしょうから」


「でも……」


「私に策があります。夜まで待つことになりますが……」



 その案をミィナは快諾し、目的の洞穴から少し離れた所で日が落ちるのを待つことになった。





 日が落ちた後、ユーミアは目を瞑って何かに集中し始めた。やがて、数匹の蝙蝠のような姿をした魔物がユーミアの周囲へと集まり始める。



「すみません、ミィナ様。少しここで待っていてください。彼らを追い出すには数が足りませんから、集めてきます。何かあればこの子たちに言ってください。そうすれば私に伝えてくれますから」


「う、うん。分かった」



 戸惑いながらもそう頷いたミィナと数匹の魔物を残し、ユーミアは闇夜の中へと消えていった。

 それから一時間程経過した頃、一人体育座りをして待っていたミィナのもとへとユーミアが帰ってきた。姿は見えないが、辺りにはいくつもの羽音が響いていた。



「お待たせしました。大丈夫でしたか?」


「うん、私は大丈夫。それより、これからどうするの?」


「あの洞窟から魔物を追い払います。この子たちを使って――」



 それに呼応するように、ユーミアが集めてきた数十羽の蝙蝠が洞穴の中へと向かって飛んで行った。暫くして、耳を押さえながらゴブリンたちが洞穴から出てくる。



「ミィナ様、少し失礼します」



 ユーミアはミィナを抱きかかえると翼を使って出来るだけ静かに飛び立ち、木の上部の太い枝へと着地した。目下では洞穴から逃げ出したゴブリンが何かから逃げるように走っている。少しして、一匹の蝙蝠がユーミアの肩へと着地する。

 それを合図にユーミアはミィナを抱えて飛び立ち、洞穴の入口の前で着地する。



「ユーミア、今のは?」


「彼らの苦手とする音を送り込んだだけですよ。この子たちはそう言うのが得意ですから」



 そう言いながら、ユーミアは上空を飛び回る蝙蝠型の魔物へと視線を向けた。



「それは……私にも使えるようになるの?」


「それは分かりません。ですが、少なくとも今は無理だと思います。魔族が魔物を従えられるようになるのは、大人と言われる年齢です。その者の寿命にもよりますが、ミィナ様の場合はまだ時間が掛かると思います。例え相応の年齢になったとしても、魔物を従わせる才能がない可能性もありますが……」


「そっか……」



 ミィナは、何もできないのが嫌だった。もし今ユーミアがしたことを自分も出来れば……。そう思ったが、ユーミアの話通りならすぐにどうこうなるものではない。



「とにかく今は中に入りましょう。それはこれから少しずつ出来るようになればいいんですよ。時間はあるのですから」



 その言葉に頷き、二人は洞穴の中へと入っていった。

 しかし奥までたどり着く前に、悪臭により二人は顔を歪めた。



「ユーミア、これは……?」


「恐らく食べ残しや食べきれずに腐った食料をそのままにしていたのだと思います。まずは掃除からみたいですね。こんな時間ですから、今日は外で休みましょうか」



 二人は一旦外に出て、木陰を背もたれに睡眠をとった。

 翌日ミィナが朝日によって目を覚ますと、洞穴へ向かおうとしているユーミアの姿があった。



「……ユーミア?」


「少し掃除をしてくるので待っていてください」



 その言葉に、ミィナは首を横に振りながら立ち上がった。



「私も手伝う。もう何もできないのは嫌だから……。こんなことぐらいじゃ意味ないかもしれないけど、それでも……」



 そんなミィナに、ユーミアは笑みを浮かべながら語り掛ける。



「ミィナ様がそうおっしゃるのならお手伝いをお願いします。ただ、ミィナ様がしたことのある掃除よりも大変ですよ。本当にやりますか?」


「うん!」



 ミィナは元気よくそう答えた。もう何もできないなんて状況にさせたくない。ミィナの瞳には、そんな決意が籠っていた。

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