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第02話 過去

 ユーミアはミィナにほぼ全てを話した。ただ一つ話さなかったのはミィナのスキルについてだ。スキルは自分で理解し、使う意思が無ければ発動しない場合がほとんどだ。触れるだけで命を奪い去る黒い霧。スキルを使いこなす練習をするにしても周りへの影響が大きく、それが原因でミィナの発見につながるかもしれない。だから何かの間違いで発動しないように教えなかった。



「申し訳ありません、ミィナ様。今まで黙っていて……。ミィナ様がお望みなら――」



 ユーミアのその言葉をミィナは遮る。



「私は今以上の事は何も望まないよ。ユーミアには悪いけど、私はお父さんもお母さんも知らないし、自分の生まれた場所の事も何一つ覚えてない。私にとってはこの場所が自分の居場所で、今一緒にいる皆が全て。だから私がユーミアに望むのは一つ。これからもずっと一緒に居て欲しい。それだけだよ」



 自分にどんな過去があろうと、記憶にないせいか怒りや憎しみ、悲しみと言った感情は一切出てこなかった。ミィナにとって、記憶に残っていないものよりも今の生活の方が大事。それだけの話である。

 ミィナが話を聞いて多少の衝撃を受けると思っていたユーミアは少しの間呆気に取られた。だが、ミィナの望みを尊重すると言う想いは変わるはずも無い。



「分かりました。この命が途絶える時までお供させて頂きます」


「そんなに大げさな言い方しなくてもいいよ。ただ、一緒に居てくれるだけで私は満足だから」



 そう言いながらミィナは小指を差し出した。



「約束」



 ユーミアが自分の小指を絡ませると、ミィナは笑みを浮かべた。その笑顔を絶対に消させない。ユーミアは心の中でそう誓った。

 その日の夜、ミィナは布団の中に入ってからなかなか眠りに付けなかった。怖くて自分から聞けなかったことを、ユーミアが話してくれたことが嬉しかった。だが、それと同時に自分の選択が正しいのかが分からず不安だった。自分にとってはそれが最善であることに違いない。しかし、ユーミアにとっては――。そうして考え込むミィナを、ユーミアは優しく抱きしめる。



「ユーミア?」


「ミィナ様は自分のしたいようにしていて下さい。それが私が――いえ、ミィナ様のご両親が望んでいることですから」



 ミィナの中に申し訳ないという思いが浮かぶ。しかし、それは表に出すべきではないと思った。ユーミアがこんな思いをしているのに、自由に選べる権利がある自分がそれを放棄してはいけない気がしたから。



「……ありがとう、ユーミア」



 頭の中の靄が消えたミィナは、その後すぐに意識を手放した。





 翌朝、二人が朝食を食べ終えるのとほぼ同時に白髪の少年がやってくる。

 見た目はミィナと同じぐらいの年頃で、角や牙といった身体的特徴はあまりない。ただし、その瞳は黒に赤の瞳孔という人間ではありえないものをしている。



「ミィナ、遊びに誘いに来たよ!」



 ミィナは一瞬ユーミアの方へと視線を移すと、すぐに少年の方へと視線を戻す。



「すぐに行くからちょっと待ってて、エクト」



 エクトと呼ばれた少年はそれを聞いて、嬉しそうに外へと戻っていった。



「ユーミア、じゃあちょっと行ってくるね」


「はい。楽しんできてください」



 ミィナはユーミアに見送られ、テントの外へと向かっていった。



「さてと、私もそろそろ……」



 そう言いながらユーミアは立ち上がり、ミィナが近くにいないのを確認してからとある場所へと向かった。





 徐々に人気のない場所へと移動し、誰にも見られていないのを確認してから普段折り畳んで隠している翼を広げ、隠密スキルを発動させる。その状態で森の中に入ると木々で身を隠しながら飛び、奥へと進む。そんな過程を経て、ユーミアはようやく目的地へと到着する。

 ある一本の木の根元を掘り起こすと、一枚の紙が姿を現す。



「それで貧困街の魔族を……」



 手紙の主はハーミスだ。ユーミアもどうやってかは知らないが、一定間隔で何かしらの形で連絡を送ってくる。その方法は毎回異なり、次の受け取り方法とタイミングは手紙に記されている。

 肝心の内容は、魔族が――いや、魔王が戦争に興味を持ちだしたことについてだ。質が悪いことに、それは普通の方法ではない。ハーミスがやって見せたように、どうにかして人間の意表を突くような場所から侵入を試みている。それはまるで好奇心で行動する子供のように――。その行動のために必要なのは人材だ。勝算が低くても実行するため、無駄死にする魔族が多発している。そんなことを繰り返していればやがて反乱が起きる。そして今現在、反乱が起きる寸前だろうとハーミスは予測している。だが、魔族の中にはそれをしても許される人材が存在する。他の魔族から煙たがられ、反抗する権力を持たない貧困街で生活している者だ。

 そして、手紙の最後は不吉な一文で締めくくられていた。



『魔王様が興味があるのはミィナ様ではなく私だ。魔王様の加護があったとしても、魔王様が全てを管理できるほど魔族は一枚岩にはなっていない』



 ハーミスが魔王にミィナを見逃すように頼み、それを受け入れさせた。しかし、魔王はそれに対して真剣に取り組んでいるわけではなく、全ての魔族が魔王の思い通りに行動するわけではない。そのため――。



「ミィナ様にも被害が及ぶ可能性がある、ということですか……」



 ユーミアは戦闘能力に関しては素人に毛が生えた程度だ。だから十年前のあの時もミィナを連れて逃げることしか出来なかった。そして、それは今でも変わらない。だが、例えそうであっても――。



「ミィナ様だけはこの命に代えても……」



 そう心に誓い、ユーミアは手紙を千切って辺りに散らした。

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