表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/272

第11話 信頼

「えっと……、ティアって呼ばない方がいいのかな? ルノウ大臣にバレるといけないし……」


「いえ、大丈夫だと思います。あの人はそんなことを覚えていないと思いますので」



 ソラはそう言われて、見てしまったティアの記憶を、無意識に辿った。



「それもそうだね」


「?」



 そのまるで分かっているかのような言い草にティアの頭上にはてなマークが浮かぶ。それに気が付いたソラは急いで訂正する。



「あぁ、ごめん。今の無し」


「は、はぁ。それと……ソラ様に一つお願いがあるのですが……」


「何?」



 ソラはそうは聞いても実際、何を頼んでくるのかは分かっていた。なぜルノウがそんな便利な手駒をソラの元へ送り込んだのか。それは勿論、ソラを監視するためであり、勿論そのための命令もティアはいくつか受けていた。そのうちの一つが――。



「私を付き人として雇ってもらえませんか?」


「いいよ。僕お金ないからそれでもいいのならだけど」


「はい! ぜひお願いします!」



 ソラの近くにいられる立場になることだった。

 今ティアが従っているのはルノウの命令にだが、同時にソラの命令でもあった。



”今まで通り、ルノウ大臣の指示に従ってに動いてくれると助かるんだけど……”



 そのソラの言葉にティアは従った。

 ソラはティアの記憶を全て見た訳ではない。優先的に流れ込んできたティアにとって印象的だった出来事が主だ。だがソラはそれを見た上で、ティアが自分のことを黙っていてくれることや、今まで通りの振る舞いをすることに対して半ば絶対的な信頼を置いていた。



「それで、付き人って具体的に何をしてくれるの?」


「身の回りのお世話です。部屋の掃除や服の洗濯などの家事はお任せください」


「じゃあ頼むよ。これから宜しくね、ティア」


「はい! よろしくお願いします、ご主人様!」



 ティアの自分に対する呼び方に違和感を感じつつ、ソラはそれを口に出さなかった。

 ティアは様々なところに溶け込むために、様々な経験をしていた。その記憶を辿ったソラは、付き人がそう呼ぶのが常識。それ以外の呼び方だと変な関係と捉えられるという事を知っていた。だからこそ口に出さなかった。



「取り敢えず食堂行こうか」


「でも私は――」


「ティアの分貰えなかったら半分分けてあげるから大丈夫だよ」


「いや、でもそれは――」


「僕、付き人をしてもらった分の給料とか出せないから、まぁ、その代わりだと思ってよ。してもらうだけって言うのもなんかあれだし」


「そう言う事なら……」



 だが、結果的にソラの心配は必要なかった。

 食堂では兵士の分の食事だけが基本的に支給されるが、ソラが行くとルバルドからの指示だと言われてティアの分も支給されたのだ。

 席に着き、食事に手を付けたティアは驚きの声を挙げる。



「美味しい……。ルノウ様は兵士の食事なんて大したことないと言っていたのに……」


「多分、比べる対象が貴族とかが食べてるものなんだろうね。僕も昨日初めて食べたときは美味しくて驚いた」


「ご主人様は今までどこにいたのですか?」


「魔女の村って名前の、何もないところにある村だよ。ちょっと色々あってここに来たんだ」


「色々?」


「えっと、少し長くなるけどいい?」


「はい、構いません」



 それからソラは自分が王都へと来た理由を簡単に説明した。



「えっと、その話は他の方も知っていることなのですか?」



 ティアは遠回しに聞いたが、ソラはきちんと理解していた。さっき話を聞かれたのがルノウに報告するためのモノだと言う事を。そして、つい先程のティアの質問がルノウにどこまで報告してもいいかを遠回しに聞いている事を。



「そんな隠し立てするような事じゃないから、他の人に話してもいいよ」



 そんな会話をしながら、ソラは思った。遠回しな言い方をして変な伝わり方をしたらまずいのではないかと。だから、ソラはある程度のことをティアに話しておくことを決めた。

 ソラは部屋に戻るなり、少し考える素振りを見せてからティアに話し出した。



「ティア、少し聞いて欲しい話があるんだけどいい?」


「何でしょうか?」



 ソラの真面目な表情に、ティアは椅子に座り直す。ティアの正面ではソラがベッドに腰を掛けている。



「僕はティアがルノウ大臣に僕のことを調べろって命令されているのを知っている」


「……え……?」



 あまりの衝撃の事実にティアの口からは自然にかすれるような小さな声が出る。それと同時に、自分の身の危険を感じた。今、ソラにそれをバラされればルノウはその権力と勢力で助かったとしても、ティアは絶対に助からない。だが、次のソラの言葉でその心配が杞憂であることを理解する。

 それは遠回しな言い分のない、ストレートな言葉。



「その上でお願いしたい。僕がティアに注意したこと以外はルノウ大臣に全て話すようにして欲しい」


「その……では、何を伝えないようにすれば宜しいのですか?」


「一つは僕がティアの事情を知っていること。もう一つは僕のスキルの詳細を出来る限り話さないで欲しい」


「出来る限り、というのは……」


「ティアは僕のスキルについてどう思ってる?」


「すみません、私に使ったところしか見ていないので、まだよく分かっていません」



 ソラは少し考える。ティアの記憶からルノウの性格は読み取っていた。だから、出来る限りルノウに危険視されないためにどうすればいいのかを考える必要があった。

 今のソラの周りの認識はどうなっているか。それは現状では『触れたものを消滅させる』となっている。なので、取り敢えずはそれで通すことにした。まだ周りがソラ自身がそれ以上分かっていないと思い込んでいるので、これから先スキルを試すにあたって消せるもの(・・・・・)消せないもの(・・・・・・)を作ればいい。ソラが消せるものを認識してから、その内のどれを消すのかは自由なのだから。



「今は『触れたものを消滅させる』と言っておいて欲しい。スキルについてはこれから先、僕が何かを試す度に出来るだけ話すようにするからその通りにしてくれると助かるかな」


「分かりました。そうします」



 ティアはそれ以上、ソラの事を詮索しようとは全く思わなかった。自分だけ弱みを握られ、ソラが自分に対してその弱みをほぼ開示していないにも拘わらず。それは自分に対し圧倒的有利な立場にありながら、ソラが一度も命令をしなかったせいでティアの気が抜けてしまっていたというのが大きかった。――してくれると助かる。――して欲しい。ソラの口調は命令ではなく、全てティアに頼むような口調だった。そしてそれは、今までひたすらに人の命令の元に動いてきたティアに、言葉では表現し難い謎の安心感を与えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ