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インターミッション

sideです

クリスマス短編ではありません

 八月朔日祐(ほずみゆう)がプレイしている間に既に最初に突入したプレイヤーがゲームをクリアして別のルームに戻ってきていた。彼ら2人以外にプレイヤーの姿はまだない。

 2人は20代でよく似ていて兄弟のように見える。有名な実況者らしく二人共早解きプレイで次のステージへと辿り着いていたようだ。


「どうやら俺らが最初のクリアプレイヤーみたいだな。つーかまたここかよ。しかもさっきとは別のゲームが並んでるぜ」


 弟と思しき口ひげの男はゲーム機を見ながらため息を吐く。


「今のうちに次はどれをやるかを決めておけ。運良く逃げ鬼があったから良かったものの次もRTA出来る作品とは限らん」


 兄の方が肩を竦めながらため息を吐く。


「ま、俺たちが日本でのRTA記録保持者だったから良かったようなもんを命懸けでゲームなんぞやらせやがって頭にくるぜ」

「で兄貴よ。すぐにプレイするのか?」


「いや思ったよりも巧くいかなかった。15分以内にクリア出来る逃げ鬼で1時間近く掛かったのは不覚と言っていいだろう。24時間以内にゲームをすればいいのだから8時間は寝られるぞ。今のうちに交代で休んでおいて人が来たら決めておいたゲームを開始する。その流れで行こう」


 口ひげのない兄である方は中央にあるモニターの画像をリモコンで変えながら呟く。そこにはカタストロフィ・メサイア内の八月朔日祐が映っていた。


「了解した。FPS系が得意な俺らにはまだ耐えられる分類だな……どうした兄貴?」


「他のルームのやり取りを見ている。個人スキルがポーカーフェイスか。悪くない、いや良いスキルだ。腕も悪くない。それが理解できないとはあのルームの連中は余程の間抜け野郎の集まりなのか」


「兄貴、馬鹿は早めに死んでもらった方がいいぜ。協力プレイする相手がカス揃いだとクリア出来ねぇ。つーかこのルームの馬鹿共は呑気だね。人が居ない状態なら24時間の猶予は休憩時間になるが逆に人がいる状態では制限となる。後になればなるほど追い立てられたり前の奴がコンティニュー地獄でクリアできないかゲーム内で寝る可能性がある。十分な猶予とは思えないがな」


 兄の言葉に弟が思いついたような表情をする。


「なるほど、ゲームのセーフティエリアで睡眠を取り後続を潰す作戦もある訳か」

「追い出される可能性がない。そしてゲームがルームに一つしかなければな。幸いな事にこの部屋には8つのゲームがある。選び放題だな。だが問題なのはそこだけじゃない。問題は別の所にある」

「と言うと?」


 兄の方がルールを指差す。


「ルームでの殺し合いを禁じて居ない。まだ、な」

「誰かが殺されればルールが変わるかもしれないと兄貴は思ってるのか。笑えないぜ」


「このルームはまだマシだ。ゲームが一つしかないルームならどうなる? 考えなくても分かるだろう?」

「殺し合いになるか……あの悪趣味な主催者様なら有り得そうだな」


 弟は小声で言い、辺りを見渡す。当然誰も居ないが全人類をこのゲームに参加させるだけの力はあるような人物だ。警戒しておくに越した事はないと思っているのだろうか。慎重にして大胆それが彼らを日本のトップのRTA記録保持者に押し上げているのかもしれない。


「兄貴、ルールを変えない可能性は?」

「それはないだろう。あのタイプは自分のルールを破られるのを酷く嫌う。自分は平気で破るだろうがな」


 兄の言葉に弟は肩を竦める。


「やってられないな」

「それよりも問題はゲームの中でフレンドリーファイアがあるホラーゲームがあった場合、進まなくなるかそいつと延々と仲間割れしあう事になるかもしれない」


 その言葉に弟は暫く沈黙を返した後に口を開く。


「NPCに置き換えられている奴も居ただろう。そいつがイカれ野郎だったらゾッとするよ」

「人間と化物と神様、誰が一番怖いかと言う話か」

「FPSが大好きな奴が戦闘狂とか? 馬鹿な団体が言いそうな事だ」


 弟は鼻を鳴らす。彼らにとって実況プレイ中継は趣味を兼ねたビジネスに過ぎない。サイコパスなんぞと同一視されたくないのは当然の事だろう。


「とにかくNPCにも注意しないといけないな」

「助けられるNPCになってる人間も居るんだろう? どうするんだ?」

「身内なら助けるさ。今のルールのままならな」


 兄は中央の強大モニターに視線を戻す。そこにはミトコンドリア・ブレインズをプレイしているOLの姿があった。



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 プレイヤーたちが居るルームとは違う部屋。どこかの神殿を思わせる大理石の床に金の装飾が施され、テーブルの上には金や銀で装飾された食器類にカトラリーがおかれ、豪勢な食事が所狭しとおかれている。


 だが上座に座る主は中央に浮かぶ映像を見たままで一口も付けていない。

 主の右手に立っていた羽の生えた女性いや天使は執事のような格好をしているが20代手前の女性で真面目そうな顔には不満の表情が浮かんでいた。


「神様、お食事のお味は如何でしょうか? 早くお召し上がりにならないと折角の料理が冷めてしまいます」


 神や天使は本来食べる必要のないのだが人間の真似事をしたがる神の為に人間を使って作らせたものだ。


「ザドキエル、良いところなんだ。邪魔をしないでくれ」


 彼は片手にワイングラスを持ったまま映像を眺めている。そこに映し出されているのはプレイヤーたちが居たルームでそこではある男が一人で赤い絵の具を壁や床に塗りたくっていた。

 男は白人で30代半ばでスーツ姿だがホワイトカラーには見えずどこか異様な雰囲気を纏い、それを隠そうともせずに持っていたサバイバルナイフで己の周囲を赤に染めていた。

 勿論、それは他のプレイヤーたちの血で当然ながら男以外の人物は死んでいた。


「神よ、止めなくてよろしいのでしょうか?」

「ルールには書いてなかったからねぇ。全く嘆かわしいよ。こんな事すら一々書かないといけないのかと思うと嘆かわしい」


 だが自称神と名乗る男はワイングラスを左右に振りながらワインの香りを楽しみながら本気で気にしている様子はない。再度、問いかけようとしたサドキエルが口を開く前に左手の人差し指を立ててそれを阻止する。


「ルール追加。【ルールその5 プレイヤールームでの殺傷行為の禁止】」


 その言葉と同時に横手にあった全てのルームを写した映像に【ルールその5 プレイヤールームでの殺傷行為の禁止】が追加されていく。


「奴は、フレデリック・バンディー。アメリカの裁判中の連続殺人犯ですが……神よ、殺人のペナルティとしてここでゲームオーバーにしますか?」


「サドキエル、そんな事はしないよ。だって僕らの落ち度だろう? 亡くなったプレイヤーには申し訳ないがルールに穴があったのは確かだ」


 主の返答にサドキエルは表情を曇らせる。


「それでは今回のゲームの意味が──」

「サドキエル、人間たちがよく言う運命論だよ。あそこで犠牲になったのは殺人鬼に殺される運命だったんだよ。だからこれは仕方ないのことなんだ。世界を再生する為の尊い犠牲さ」


 サドキエルは口を開く。出てきた言葉は別の話だった。


「あとサリエルの姿が見当たりません。捜索いたしましょうか?」

「捨て置きなさい。サリエルも子供ではないのですから」


 食事に手も付けずに映像を眺める神の横でサドキエルは聞こえないように唇を動かした。

クリスマスの短編?

うちにはそんな物はありません

サンタさんに頼みなさい

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