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第二のハードル

 ブラック・アウトした視界から恐る恐る瞼を開ける。


 一瞬、自分の部屋を期待したがよく分からない白い部屋の天井が見えた。まるで精神病棟みたいだ。またかよ。だが目の前のモニターにはカタストロフィメサイアのエンドロール後のエピソードが表示されていた。広さ的には16畳くらいはあるか。

 元の時代に返ったスティーブが天を見上げている後ろ姿で終わっている。


「ところでここは何処なんだ。いきなり別のゲームに飛ばされた訳ではなさそうだが──」


 俺は自分の顔を触りつつ、自分の身体と服を確認する。

 勿論、俺が着てた部屋着だ。外に出るには心許ないが今ここに居るには不自由はない。

 なんかゲームっぽいように見えるのは気のせいか──よく考えると自称神のせいで現実世界から飛ばされてるのだからまだゲームの世界でも不思議はない。


 デバッグモードの何にもないポリゴン剥き出しの部屋みたいにすら思える。

 周囲には誰も居ない。よく見るとテーブルとソファーとテーブルが白いので迷彩していた見えにくい。この部屋を作った奴は馬鹿なのか。


 俺は近くに見えた白いドアに忍び寄った。カタストロフィ・メサイアをプレイしてたせいで中腰で歩いてしまう。いきなり敵が出てきて襲いかかってくる可能性もあるのだから念には念を入れておくに越した事ないか。


 心なし身体が軽い気がする。


 ドアの隣に忍び寄ろうとした瞬間、ドアが開いて頭を直撃する。痛ぇ。急に開けた馬鹿は誰だよ。俺はドアから離れて身構える。とは言え、武器になるような物はないし、ただのゲームオタクである俺に格闘技など出来る訳もないのだが──

 そこに立っていたのはカタストロフィ・メサイアの格好そのまんまのキャスリーンだった。


「Hey! 祐。ダイジョーブデスカ?」


 妙に変な日本語だったが彼女もカタストロフィ・メサイアの世界から出てこれたようだ。彼女は力いっぱいドアを閉めて慌てて近付いてきてドアを打ち付けられた俺の頭部を撫ぜる。

 このまま弄ばれていたいが確認しなければならない事は山ほどある。


「【使徒】化した時の影響とかないのか?」


 キャスリーンの顔を眺めながら聞いてみた。心なしかそばかすが減ってるいやなくなってる気がするのだが──


「I am all right.気絶してたみたいで。余り役に立てなくてI'm so sorry」


「ああ。気にしないでくれ」

「これのお陰かな。Talisman」


 彼女は懐から何を取り出しながら笑う。なんか御札みたいな物だ。


「それよりクロユリは?」


 俺はクロユリの行方を聞いてみる。あいつが居ないとキャスリーンとの意思疎通が不安なので居てくれた方が良い。


「そもそもクロユリサンの姿、I’m not sure.……ワカラナイ?」


 キャスリーンは腕組みポーズを取る。胸が強調されて目福である。ん──


「あれ? 普通に日本語喋ってない?」

「Yes.ちょっとダケなら。ジャパニーズアニメーション、subtitlesのJapanese dubbed」


 キャスリーンが身振り手振りで伝えてくる。まあ、かなり英語が混じってるが聞くだけならなんとかなる。

 おいおい。クロユリ翻訳要らないじゃないかと思わなくもないが奴がゲームから出てきてないのは困る。一応、相棒だしな。


「そっちの部屋には居ないのか?」

「People who do not know.シラナイ、ヒト、だらけ」


 その返答に俺は顔をしかめる。取り敢えず、いきなり襲っては来ないが元の部屋でもないようだ。


「エー、This room、チガウplace」


 その返答に少し考えてから結論を出す。


「神の野郎が言ったように別の部屋に転送されたのか」


 俺は状況を把握して考え込む。外でほざいてた外野共がすぐに来られるとは思えないが用心しておくべきか。


「キャスリーンが把握している状態でどのくらい時間が経ってる?」

「んー、one hour.1時間? Clockない。watchもStop」


 キャスリーンは頭を振って腕時計を見せる。電池が切れてる訳でもないのに秒針が動いては戻っているように見える。壊れてるのかと思えば意図的に時間を知られたくないのだろう。

 時計とか弄る奴が出てくるかもしれない。

 俺は何か持ってないかと上着のポケットを探るが何も入ってない。スマホくらいは持っておけばよかった。


「取り敢えず向こうの部屋を見てくるよ。クロユリがいるかも知れないし」


 だが居たとしてもキャスリーンに声もかけないのは変ではある。タイミングがズレてるのかそれとも──取り敢えず見てみなければ分からないので俺はドアノブに手を掛けて引く。

 視界に入ってきたのは最初の部屋と同じく丸く大きな部屋で一周して見るとゲーム機が5台置かれていた。少なくともハズレ部屋ではないらしい。


 俺はキャスリーンを後ろに伴って確認の為に歩く。部屋にいた複数人の男女がこちらを伺っているが話しかけては来ない。知ってる奴はいない。居ても嫌だが。キャスリーンのような外国人もいない。声でも出してくれれば実況者かどうかくらいは分かるのだが──


 彼らは視線をある一点に戻す。


 何を見てるのかと思えば高そうな椅子の一つに何かが座っているようだ。一瞬、黒髪の女性に見えたが黒い霞のような物体が置いてあるのかと思ってよく見てみる。どうやら黒い鳥が座っているようだ。

 もしかしなくても当たりのような気がするがここで使えるか分からないが念話で話しかけてみる。


『クロユリ?』


『なんじゃ。すてぃーぶではないか? 冗談は置いといて。祐、お主も起きたようじゃな。良かった良かった。それよりこやつがわっちに素で話しかけようとするから周りが引いておったぞ。喋る訳にもいかぬから困ったぞ』


 いつもの口調でクロユリが話しかけてきた。そして彼女は俺の後ろに隠れるように着いてきていたキャスリーンを見る。微妙に上着を掴まれていた。

 【使徒】より現実のクロユリを怖がるというのはあれな気がしなくもないが実際にこんなでかくて黒い鳥がいたら躊躇うのも無理はない気がする。


『パッと見てクロユリさんだと思わなかったので』

『酷い。扱いじゃのう』


 いやそれより聞く事があるだろう。


『クロユリ、お前はどうして人間の姿じゃないんだ?』


 俺が聞くと彼女は両羽を腕組みするように顎に添えて考えるポーズをとる。


『神の銅像に蹴りでも入れたかのぅ。どうやら人の姿に戻れぬようだ』


 クロユリの答えはそれだった。奴ならやりかねないがどこか腑に落ちない。こいつ、何かを隠してないか。


『今の奴なら殺されてそうだがな』

『違いない』


 2人で笑うが。キャスリーンは若干渋い表情で見ている。彼女はともかく他の連中からしてみたら変な鳥と話す変な奴に見えるんだろうか。警戒されるよりは侮られる方がマシか。


『それより次のゲームはやらぬのか?』


 クロユリが疑問に思ったのか問いかけてくる。


『まだゲーム機に電源が入ってないから無理』


 キャスリーンがたまに普通に喋ってくるので分からなくなる。クロユリの翻訳か?

 そんな話をしていると正面にあったスクリーンに時間が表示される。それは右下に移動し、カウントダウンしているようでどんどん数字が減っていく。そしてビャクロクと名乗った女が映しだされる。


『ビャクロク?』


 その一言にクロユリは顔を上げ、キャスリーンは逆に顔を背けるように右を向く。


『身どもの名はラドゥエリエル。クリアした方々は知っているでしょうがお手伝いその1です。次のゲームはこのカウンターが0になった瞬間にゲームが表示されます。順番を待つのも部屋に戻って待つのもプレイヤー様のご自由になさってください。その変わり、先頭に並んでいた方は自動的にゲームを開始します。


 スタートダッシュに賭けるか確認してからゲームを選ぶかはどうぞご自由に。


 勿論、お仲間と相談して決めていただいても構いません。また仲間を外して別の人達と組む事も可能です。時間は8時間ほどあります。またチームを変えずに休むのまた選択。それではより良き選択を』


 ビャクロクいやラドゥエリエルは深々と一礼して頭を下げた。

 今度は外から内容が分からないようにしてくるのか。


『だんだんbig hurdleに──』


 キャスリーンは天を仰いでいる。


『やれるのか?』

『分かってる。今は、な。これからどうなるか分からない。上手い事死なないように立ち回れたら良いんだが……』


 クロユリの言葉に俺はそう答えるのが精一杯だった。クソ!

これで第1のゲームは終了です

申し訳ありませんが次の話は1週間から2週間ほどお時間をいただきます


・『面白かった』

 『陰ながら応援してます』

 『出来るだけ早く更新してくれ』


 上記の感想の内どれか一つだけでも一致した方のみで構いません

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