島原城
俺はリザルト画面で手ブレや体力強化に振ってチャプター10に入った。
城と言えば、厳重な警備が張り付いておりそう簡単に忍び込めないイメージがある。勿論、これは本来の話だ。
『ふむ。今頃、海岸を調べに行くのか』
【使徒】たちは鎌や斧にナタを手に海岸の方へと走っていく。勿論、こんな数と戦える訳がない。俺とクロユリは黙って見送る。それでも島原城には相当数の【使徒】が残っているが──
『随分大量に行ったな。他にお客でも来たのか?』
『船が欲しいんだろう。江戸を抑えて【使徒】を増やせれば【使徒】側の勝ちだからな』
俺は森の中にも作られた仕切りから辺りを伺いながら答える。
『なるほど。確かに江戸を抑えて全員を【使徒】化できれば日本は抑えられるな。あとは船で世界中に【使徒】をばらまく訳か』
『それは宣教師のイオアンの目的だ』
俺は念話で話しながら警戒に当たっている【使徒】を音で誘き寄せてその顎下にナイフを突き立てた。
『ん? では天草四郎時貞の目的とは違うのか?』
『ああ、奴は人類全てを【使徒】に変えるのが目的だ。人類全てが【使徒】に変異すれば上も下も関係なくなるからな。そうやってユートピアを作ろうとしているのさ。ああ、ユートピアと言うのは理想郷の事だ』
俺は横文字を日本語に直す。そう言えばラスボスは宣教師のイオアンだが一応設定上では悪魔に乗っ取られてるとかあったな。
『とんだ理想郷じゃのぅ。あんな死んでるのか生きてるのか分からん状態なんぞ誰が好んでなりがるものか』
クロユリはバッサリと切って捨てた。
『酷評だな』
俺は【使徒】が周りに居ないのを確認しながらナイフを引き抜き、倒した【使徒】から御汁を回収する。仕切りのせいでこの迷路のようになっている森を抜けて城門の前まで行きたい。幸い、城門への道で【使徒】は居ないように見える。
俺は腰を屈めながら寄り道せずに城門へと辿り着いた。門の上に【使徒】が居ないか確認してから脇戸の隣に背を向けて張り付く。
『思った以上に楽に来れたのぅ』
飛べないのに俺の歩くスピードに普通に着いてきながらクロユリが感想を漏らす。
『難易度NIGHTMAREでは最初の敵の大軍に突っ込まなきゃ配置と数はノーマルと変わらないからな。違いは城門と数だけだが……』
『なるほど。まさにここが鬼門と言う訳か? この門の向こうに【使徒】がおるのじゃな』
察しのいいクロユリは罠を見破った。全部誘い出して処理しようとすると罠に引っかかるんだよな。
『誰が上手い事を言えと言ったんだよ。取り敢えず、2体倒したら脇戸から中へ入る。まあ、見ててくれ』
俺は脇戸を叩いて【使徒】を誘き寄せる。脇戸から現れた【使徒】の喉にナイフを突き立てて地面と捨てる。その身体は消えて斧だけ残す。手を上げてクロユリを制すが彼女はそれで理解したのか黙って見守っている。
次の【使徒】が門戸を潜って現れるがそれも先程の斧で頭をかち割り、倒す。俺は一呼吸間をおいて門戸を潜って城内に入る。クロユリが続けて入ってきて奴らの方を見る。3体の【使徒】が城門を開けて城外へ出て行った。その手には火縄銃みたいな物が握られている。そして城門は締まりつつあるがまだ開いていた。
『今のうちに行くのか?』
『いや。これ二重の罠なんだ。放置して行こうとすると後ろから狙撃されて死ぬ』
俺は攻略動画を参考に城内側の門戸横の壁に貼り付いて機会を待つ。クロユリは俺の目の前を通って背後に付く。
『厄介じゃのぅ。……城門前も含めたら三重じゃな』
門戸が空いて【使徒】が戻ってくる。扉が閉まるタイミングで攻撃し、カバーキルで即死させる。同時に斧が壊れた。取り敢えず、プレイヤー側は銃としては使えないが殴るくらいには使えるので火縄銃を取り上げておく。戻ってくるのは1体だが時間で気がついてしまうので急ぐ事にする。
『これで終わりか?』
俺は頷いて答える。取り敢えず、城門を抜けて二の丸に辿り着いたらチャプター10は終わりだ。
『ここは問題が少ないところだ。問題は次のチャプターだ』
俺は城門から離れ中腰の姿勢で二の丸へと移動する。まあ、上にいる奴にもばれないと思うが心理的なものだ。二の丸側の壁に辿り着くまでは立った状態で歩きたくない。
『……きゃすりーんが出てくるのか?』
クロユリはこの後の展開を察してそうな発言をしてくる。ぼかしていても凡その検討はつくだろうが──
『まだだ。正確にはキャスリーンが演じてるキャラのサユリな。その前に問題が一つある。次に出てくるボスである天草四郎時貞だ。ジャイアントやイッカク聖母と違い、備え付けの武器がないんだよ。それで苦戦を強いられる』
俺は考えたくないので目の前の問題を話す。もっとも俺の態度で彼女にはバレてると思うが。
『天草四郎時貞と言っても特殊な事は水の上を歩いたり奇跡を起こしたりとかそういうのだろう? 人間のままなら関所に居た武士と変わらない気がしなくもないが……そんなに手強い相手なのか?』
クロユリが追ってきたのを確認してから三の丸への門を開ける。こっちは時間経過で敵がくるパターンなので急いで走りきってしまった方が楽になる。
『第一形態は人型なんだよ。そこはまだ問題ない。本番の第二形態は……取り敢えず俺から離れて巻き添えだけを食らわないように頼む。あと遠くに居るからと言って油断して天草四郎時貞の正面や俺と天草四郎時貞が直線に並ぶ位置に立つなよ。一緒に燃やされるからな』
俺は言っておかなければならない事を伝える。
『……なんじゃ火でも吐いてくるのか。面妖じゃな。いや好都合と言う物か。それなら壁か城でも燃やした所で羽根を乾かして上空にでも逃げるとするか』
クロユリは軽口を叩いているが実際そういうレベルではないのだが自分の目で見ないと分からないか。
『……頼むから焼き鳥にならないでくれよ』
『ふむ。分かっておる。善処する。ただ一つ言っておくが』
彼女は立ち止まって言葉を区切る。俺もつられて立ち止まる。危ないのは承知している。だがハッキリさせておかないといけない。
『なんだよ? 最後かもしれないから聞いておくぞ』
『ここまで来て折れるなよ。何があっても止まるな。諦めてはいけない。諦めない限り希望はある。そなたは生きておるのだからな』
クロユリが妙に引っかかる言い方をする。気にはなるが今は問いただしている場合ではない。先へ進む時だ。
『分かった。肝に銘じておく』
『そう言ってくれると年長者として助言のし甲斐があると言うものじゃ』
はいはいと俺は受け答えして二の丸への道を確認する。誰も居ないが狙撃される可能性を考えて壁際で身を隠しながら移動する。歩きながら弾を確認する。ピースメーカーの弾は充分だろうか。一応、天草四郎時貞が周囲の物を壊すと弾が出て来る仕様にはなっている。
だが楽観はできない。出来るだけ早くダメージを与えて二形態目へ移行させる方がパターンが固定されて楽なのだ。
勿論、誰も天草四郎時貞をアバターにして居なければの話だが──
『それで相手が人間だった場合、そなた1人で勝てる勝算は?』
『……そんなの知らんよ。俺が教えて欲しいくらいだ。相手が人間でこのゲームをやった事のあるプレイヤーならかなり厳しい。やった事のない奴なら楽に勝てるだろうが──』
俺は対戦ゲームが苦手なんだがな。それは敢えて口にしない。クロユリに無理をさせて死んでしまったら話にならない。クリア特典の蘇生と言うか1人クリア扱いに出来るのは残しておきたい。
そんな事を考えているうちに二の丸への門の前へと辿り着いた。この向こう側に居る。
『……祐』
クロユリも何かを感じ取ったのか警告してくる。
『ああ、この向こうの二の丸前の広場に奴がいる。リザルト画面が終わったら出てくる。準備はいいか?』
彼女が頷くのを見て俺は盛大に門を開いた。リザルト画面を終えたら奴が居る広場に出る。




