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海上の決戦2

 クロユリの言ったとおりにイッカク聖母は船首の右側から現れた。またよろしくない事に頭に毛のような触手聖母が生えた2形態目へと形態変化していた。


「貴様ら許さぬぞ! 四郎様のお言葉で慈悲を与えてやったが海の藻屑となるがよい!」


 イッカク聖母が聖母の面影など最初からなかったかのように叫ぶ。

 形態が変化すると攻撃が激しくなるから変化の手前で止めておきたかったのだが──


「取舵いっぱい!」


 船長が絶叫する。同時に船が左へと曲がっていく。確か面舵の方が早いから逃げやすいんだったか。本当にこのゲームの制作陣は性格が悪い。


『これでFinishに』


 キャスリーンが右舷側に移動してくる。ゲームだから壊れるまでは支障がないとは言え、この船は急にぶっ潰れるからな。


『分かってる』


 イッカク聖母が頭部から毛のように生えた触手を伸ばしてくる。それは当然ながらクロユリを無視して船に向かってくる。


「これを使え!」


 船長らしき男が叫ぶ。船首にガトリング砲が姿を現す。初見で最初から出せよと思ったのは言うまでもない。俺は船首に走ってガトリング砲の銃口をイッカク聖母の髪の毛触手に向けてトリガーを引く。馬車に積んであったのとは比べ物にならない勢いで銃弾が発射され、触手を貫通し、イッカク聖母の頭部に命中する。


 だがイッカク聖母の速度が落ちない。このままでは船首右舷に体当たりを食らうだろう。逃げる訳にはいかないので撃ちまくるしか選択肢がない。髪の毛みたいな触手から御汁を撒き散らしているがその本数はなかなか減らない。


 弁才船は左に曲がり、大砲が撃てる位置にイッカク聖母を捉えるがこの距離じゃ怯ませても止まらないだろう。キャスリーンが右舷から砲撃を加えるが勢いは止まらない。ちゃんと急所である口や頭部に当たってるんだがな。だからこの形態は厄介なんだよ。

 クソ。計算通りにいっていればこの形態になった瞬間くらいに撃破出来ていたもの。


『突っ込んでくるぞ。何かに掴まれ』


 俺はガトリング砲に掴まろうとしたが銃身が熱くてできないので近くにあったマストにしがみつく。ゲームなら砲身が熱くてもできたんだがな──

 大地を揺るがすような轟音と衝撃が弁才船を襲い、俺はその衝撃に耐えられずに空中へ放り出される。


 ヤバイ。死んだ。そう思った瞬間、クロユリにぶつかれれて軌道を変えるように甲板上へ叩きつけられる。ま、海の上に投げ出されるよりはマシだ。


『助けてくれるのはありがたいが次はもっとマトモな方法にしてくれ』


 俺は痛みで悲鳴を上げている身体を強引に起こす。クロユリはフラフラとしながらも空を飛んでいる。


『次があればよいがな。きゃすりーんはどうした? 落ちてはおらぬか?』


 その言葉に俺はキャスリーンの姿を探すが甲板上にはない。慌てて右舷の縁から海を見る。ロープにしがみついているキャスリーンの姿が見えた。


『助けて……いやそれよりも奴をAttackして。じゃないと』


 確かにキャスリーンを引っ張り上げてる間にイッカク聖母が体当たりしてきたら話にならない。だからと言って見捨てる訳にもいかない。


『奴が左後ろから来るぞ!』


 クロユリが最速を促してくる。連続で食らえば航行不能に追い込まれて詰む場合がある。弾込め以外で右往左往する船員を見て俺は叫んだ。


「お前らも男だろう! 彼女を引っ張り上げろ!」


 今の状態で通じるか分からないが奴らは即反応してキャスリーンが捕まっているロープを引っ張り上げようとする。


「任せるぞ。死んでもやり通せ」


 俺は船員たちに発破を掛けてる。船首を見ればガトリング砲の辺りには船員が次弾を装填していた。ガトリング砲の所まで戻ってイッカク聖母が伸ばしてくる触手を狙って引き金を引く。触手をまず潰さないと大砲が使えない。


 砲弾が急所に命中しないのだ。命中しても威力が削がれるので大ダメージにならない。

 多分、あと数発で沈められる筈なのに──

 大砲の轟音が響いた。適当に撃つのは──


『キャス!』


 左舷中央の大砲にキャスリーンが立っていた。いつの間に引き上げられたんだ?

 砲弾は触手に当たって威力を削がれるが爆発を引き起こし、触手が半数以下に減る。確かにありだがこれがいい方向に転ぶかは賭けだ。


『なんとか!』


 そう言ってキャスリーンは船尾側の大砲へと移ってその前で黙って待っている。俺が前面の髪の毛触手を全部潰せるかどうか撃ち続けて素早く次弾が装填される。NPCの船員がナイスだが大砲を撃てるタイミングまでに間に合うか。


 残り6本、5本、4本、3本、2本、1本。ここでリロードになる。船員が次弾を装填しているがその数秒がもどかしい。


『あれを排除すればよいのだろう? わっちに任せるがいい』


 クロユリが残った最後の髪の毛触手に向かって飛ぶ。だがイッカク聖母は学習したのかクロユリにはも目もくれない。


『たわけが。ない頭を絞ったかじゃが』


 それを読んでいたらしいクロユリは滑空しその足の爪で髪の毛触手の先端にある擬態している聖母の目を引き裂いた。


『ぎゃぁぁぁっぁぁぁっぁ!!! 目が! 目が! わたくしの目がぁぁぁぁ!』


 イッカク聖母が大音量で叫ぶ。クロユリには教えている暇がなかったが髪の毛触手の一つはイッカク聖母の目で海上の様子を見る為の器官だったか。

 御汁が舞い散り、クロユリにもそれがかかる。


『汚い汁じゃ。酷く臭うのぅ』


 そう言えば、イッカク聖母を倒した後に御汁を回収できるのはクロユリからだったか。


『あまりに露骨に1本だけその触手を庇っておればそれが重要な物だと言う事くらい分かるわ』


 クロユリは鼻を鳴らしながら嘲る。相棒ナイスとでも言ってやりたいがガトリング砲で触手を潰す方が先だ。再びトリガー引いて残った最後の髪の毛触手をふっ飛ばす。これでイッカク聖母の顔を守るものはない。

 キャスリーンが待ち構えてるが俺も一番近い左船首側の大砲に向かって急ぐ。


『Go to hell ! f**kin' b*tch !』


 キャスリーンが大砲の導火線に火を着けた。砲弾はイッカク聖母の頭部に命中する。浅いか。


「いい加減に死ね!」


 俺は追い打ちで砲弾を撃ち込む。それはイッカク聖母の口に入って大爆発を引き起こした。今度は言われなくても分かる。クリティカルヒットだ。


(1回の戦闘で2回のクリティカルかよ。天幻、持ってるな)


 外野の声は邪魔なので目の前のイッカク聖母に集中する。

 何が燃えてるのかは知らないがイッカク聖母の身体のあっちこっちから爆発が起こる。攻略本によるとイッカク聖母が取り込んだ【使徒】が腐敗して発生したメタンガスらしいが──


 イッカク聖母がその巨体を揺らして苦しみ悶える。その波で弁才船が激しく揺れた。

 この衝撃で船が壊れたらこのチャプターの頭から再スタートじゃないよな。不安を感じつつ死にゆく奴を眺める。


「四郎様ぁぁぁ! 申し訳ございません! わたくしは、これまでにございます。ならせめて彼奴(きゃつ)らを道連れに!」


 海面でのたうち回っていたイッカク聖母が最後の力を振り絞って絶叫する。分かっているけど止められないのはもどかしい。この体当たりは当然撃っても止まらない。

 しかも大砲は砲弾がなく撃てないし、ガトリング砲は当たらない位置。つまり詰みなのだ。


 イッカク聖母の最後の抵抗である体当たりが左舷の船底にめり込んだ。


「四郎様に、【使徒】に栄光あれ!」


 当然、聖母の身を賭しての一撃に耐えられず筈もなく弁才船は嫌な音をたてながら玩具の船のように真っ二つに裂けた。船員が絶叫し、船長は黙したまま海に投げ出される。

 彼らは陸には流れ着いてきてない。少なくともゲームの中ではそのような描写はない。


『祐。多分、私はこれ以上助けてあげられない。あと頼むよ。出来れば拾って』


 船尾側にいたキャスリーンも海に投げ出される直前に念話で伝えてきた。そう言えば彼女が手伝えるのはこのチャプターが最後になるだろう。


『分かった。必ず助ける。だから待っててくれ』


 俺が海面に叩きつけられる前に言えたのはそれだけだった。

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