天使たちの密談
sideです
執事のような姿をした20代女性がこの空間に足を踏み入れると白い空間に緑色と植物が生えてくる。天使である彼らは己を色で判別していた。彼女の色は緑系である。背中の翼をイライラしているかのようにピクピクと動いていた。
「あまり時間がない。ここに居るのだろう? さっさと出てきてくれ」
サドキエルの言葉に答えて白い空間に赤い花が咲く。
ブラウンのスチームパンクロリータドレスに身を包んだ少女がため息を吐きながらこの空間に突如現れた。その背中に6枚の羽根を背負い、前髪の一部を染めたメッシュを弄びながら呟く。その輝くような美貌に左目を覆う眼帯が付けられていた。
「サドキエル、騒々しいぞ。お前は静かにするという事が出来ないのか」
少女は呆れ果てたような感情を抱いているのかその人形のような容姿を曇らせる。
「なんだ? ラファエルよ。その格好はなんだ?」
「趣味だ。どうせ、見守る事しか出来ぬのなら格好だけでも真似しようと思ってな。それより某に何用だ?」
ラファエルと呼ばれた少女は何もない空間からパイプ椅子を取り出しそこに座る。
「サリエルを知らぬか? 神の御前にも姿を表さぬのだ」
イライラしているように見えるサドキエルにラファエルは紅茶の入ったティーカップを虚空から取り出して香りを楽しむ。
勿論、彼女は水分を取る必要もないし水分を取る必要もない。ポーズに過ぎない。
「そんな程度の事などどうでもよかろう。あれが神と信じたくない者もおるのだ。サリエルがどう思っておるかは分からぬが気に入らぬのならば仕方あるまい。某も顔など出しておらぬしな。まさかそれを責めにでもやってきたのか?」
ラファエルのその一言にサドキエルが言葉を失う。そして顔を伏せたままで言葉を紡ぐ。
「先の大戦で生き残った功労者の貴女にそのそのような非礼は言わぬ。……あったついでに聞いておきたい。今回の件をどう思う」
「人間たちの事か? それとも神の戯れについてか? 某が口を挟むことではない。ただ見守るのみ」
その言葉にサドキエルは唇を噛む。期待している答えと違っていたかのように。ラファエルは周囲を見渡そうとすらしない。まるで誰かに監視されているのを知っているかのような振る舞いだ。
「なら今回の件に奴が関わってると思うか?」
本来は息を吸う必要のないサドキエルは深い深呼吸をしてから問う。彼女はストレート過ぎて迂闊だなと言いたげに少女は回答までに間を置く。
もっともラファエルにはサドキエルが何を考えているかは分かっている。彼女は白黒ハッキリさせたいだけなのだ。だがそれには認める努力が必要なのだが──
「ありえぬな。サタンは死んだ。魂のレベルから完全に消滅している。それは私も含めた熾天使が確認した。あれは間違いなく神だ」
紅茶の匂いを楽しみながらラファエルは素っ気なく言う。だがサドキエルには彼女が言った意味の真意が伝わってないのか痛みに耐えるような表情をしていた。
「とりあえず、サリエルを見つけたら私が探していた事を伝えてくれ」
言うだけ言ってサドキエルはこの空間から去って行った。そしてそれを見送ったラファエルがため息を吐く。息など吸う必要のない彼女ならそんな必要はまったくないのだが──
「額面通りに受け取りおって。石頭め。他人の言葉の真意を読まぬか。猪め」
だがその一言を発したのは先程までいた空間ではない。既にラファエルが別の空間へ移動した後だ。ここは彼女固有の空間である為、監視の目がここを覗き込む事は不可能だ。
「昔からそういう人でしたからね」
ラファエルの後ろから何のアクションも起こさず狩衣に緋袴と言う出で立ちでたおやかな雰囲気を持つ女性が現れた。いや最初から居たと言うべきか。
「ラドゥエリエル、いきなり某の後ろに立つな」
サドキエルに対して何の驚愕も見せなかったラファエルが不快そうに後ろを見たがそこにラドゥエリエルは居ない。
「身どもの、この程度の芸当で驚く貴女とは思えませんが」
長く真っ白に輝く髪を揺らしながらラファエルの正面に現れたソファーに座る。その手には湯呑が握られていた。
「またそれで緑茶とやらか。お前は変わっているな。某には理解できぬ。お前が天から落ちてきた時からそうだったが」
白髪の平安貴族のような妙齢の女性と眼帯をしたスチームパンクロリータドレスの少女の会合など他人から見れば奇異以外の何物でもないだろうが──
「そんな事よりも此度の件をどう思いますか?」
「……奴が胡散臭いと言う事か」
ラドゥエリエルが深く頷く。
「そんな事は聞くまでもなかろう。某もそなたも考えている事など同じだ。問題はどうするかと言うテーマに過ぎない」
「どうするかですか……取り敢えず奴にバレないように助けようとは思います。それでも身どもに出来る事は限られていますが」
天使の大半が奴に疑問に思っていても行動までは起こせない。奴も彼女たちもそう考えていた。そしてその考えは大方に置いて間違いではない。だが予想外の事は起こる。
「どうやら他にも無鉄砲な奴が居たようだな」
ラファエルは紅茶を飲みながら肩を竦める。
「身どもの想像通りならサリエルは……」
ラドゥエリエルの表情は硬い。それで察したラファエルが肩を竦める。
「無鉄砲な真似をする。サリエルの方には某から接触してみよう。それでラドゥエリエルはどうする」
その言葉にラドゥエリエルが一呼吸置いて底意地が悪そうな笑顔を浮かべる。
「陰ながら人間を助けるつもりです。取り敢えず第一関門を突破した者たちにプレゼントを送るのが身どもの役目ですから」
「物は言いようだな。某は……そうだな。適当に迷子を探した後にお前を手伝うとしようか」
ラファエルはラドゥエリエルの真意を汲み取り、呆れたようにため息を吐いて羽根を羽ばたかせてこの場から姿を消した。
「では人間の技術を使ってプレイヤーたちのホットラインでも作りましょうか」
ラドゥエリエルはラファエルと違い、湯呑の緑茶を飲み干し、それを虚空へと消す。
「……貴女は……貴方たちはどんな未来を望むの?」
虚空に映し出された映像には神にゲームを強要されたプレイヤーたちが何人も映っている。その複数あった中には祐たちの姿もあった。




