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カーチェイス

 当然、ジャイアントが上げた声は警鐘となって使徒たちがこちらに注目する。都合のいい時だけよく見える目だ。


「出してくれ!」


 名前は呼ばずに指示だけする。ルームの連中に聞こえていなければ無駄な苦労をしなくても済むのだが──本当に面倒くさい。だがそんな事をぼやいてる場合ではない。ガトリングガンのハンドルを持ち、波のごとく襲いかかってくる【使徒】たちに向けて銃口を向ける。


 音を立てながら発射される銃弾は迫りくる【使徒】を撃ち抜いていく。発射と同時に荷馬車が動き出した。それを見て視界リンクでクロユリがこっちへ戻ってくる。


 乗り心地最悪のガタガタと揺れる荷馬車は吐きそうになるが今はそんな場合ではない。普段からは想像もつかない速度で【使徒】たちが走ってくる。最初に走ってくる連中は荷馬車が走り出してしまえば追いつけない。グラフィックみたいなものだ。現にここ以外では走ってこないし。


 問題は【使徒】たちの波を踏み潰しながら向かってくるジャイアントと馬や港までの道で飛びかかってくる【使徒】。ジャイアントの弱点は顔と顔が下がった時に背中の穴から生えてる根を狙うしかない。


 取り敢えず、距離を詰めさせないために俺はガトリングガンでジャイアントの顔を狙う。しかし難易度がNIGHTMAREのせいか。手で顔を、いや正確には顔から生えている花を庇おうとする。撃ち出された弾の薬莢が風に舞う。


『面倒な奴じゃのう。その上、道までこれか』


 空から先回りして港への道を調べているクロユリがぼやく。街中で本来ならこの道は港まで一直線の筈なのに柵や丸太で覆われているためにルートが潰されている。


「Turn right!」


 念話している余裕がないのかキャスリーンが叫ぶ。荷馬車は右に曲がる。身体が持っていかれそうになるがそれを堪えて荷台にしがみつく。


 当然、ガトリングガンを撃つ余裕などない。曲がりきれなかったジャイアントが民家に突っ込んだ。半壊した家屋の中に油の入った瓶らしきオブジェクトが見える。


 勿論、貴重なダメージソースを逃がす訳にはいかない。


 ジャイアントが瓶を見つけて投げつけようとする。その瓶にガトリングガンの弾が命中すると同時に燃える液体が巨人を燃やす。堪らず奴が膝をついて地面に両手をつく。背中の穴と球根のような根が見えた。ひたすらガトリングガンでそこを撃ち抜く。


 効いているがNIGHTMAREなのでよつん這いになっている時間は短い。しかもこれNIGHTMAREだとジャイアントの追ってくるルートが違う。俺はガトリングガンの弾丸が0になったのを見て弾帯をセットする。やった事ないが人間追い詰められれば出来るもんだ。


『右から来るぞ!』


 右からダイナマイトらしき物を手にした【使徒】が3体現れる。歴史検証など無茶苦茶だが今考える事はこいつらを撃ち殺さないと爆発に巻き込まれると言う事だ。

 俺は身体ごと左に動かしてガトリングガンの銃口を右に向けてハンドルを回す。3体の【使徒】は元から穴だらけの身体を銃弾で更に蜂の巣にされて地面に倒れる。


 そして俺たちが範囲から去った後に爆発して後続の道を塞ぐように民家のかやぶき屋根が道路へと滑り落ちてきた。【使徒】たちはそれを見て一瞬戸惑って自らの身体に急ブレーキをかけようとして身体がボロボロと崩れ落ちる。


「ぐおぉぉぉぉ!!!」


 奇声を上げながらジャイアントが走ってくる。そして叩き払うように【使徒】ごと民家のかやぶき屋根を押しのけた。クロユリが飛んでいた位置へとそれは飛んでいく。


『クロユリ!』

『分かっておる!』


 クロユリは飛んできたかやぶき屋根を右へと危なげなく回避する。その見事な体捌きに本当は元から鳥なんじゃないかと思わなくもない。


「Left!」


 今度は進行方向の屋根から鎌を持った飛び飛び降りようとしてくる。ガトリングガンを左に振ってハンドルを回す。勿論、ガトリングガンの上限限界で上に銃口を向ける事は出来ない。


 民家の大黒柱をふっ飛ばして撃退するのだ。あっという間に柱の一部を失った大黒柱は地面に突き刺さり、同時に屋台骨を失った民家は崩壊し、飛び降りようとしていた【使徒】はそれに飲み込まれた。

 長い。ゲームしてる時にも思ったが長い。一秒が永遠に思える。


『Turn left!』


 馬車が左に曲がる。俺はガトリングガンにしがみついて堪えるが荷馬車の車輪がいつまで持つか、ガトリングガンの弾帯をまめにリロードする訳にはいかないので持ち堪えられるか。

 ぐわぁぁぁぁっぁ!とジャイアントが叫ぶ声が進行方向から聞こえる。見れば先程の経験を学習したのか桶を右手で持ち上げ、投げつけようとしている。


 桶には水しか入ってないので先程と同じようにオブジェクトでダメージを与えようとすると二回目の投擲でダメージを食らってしまうのは動画で確認済みだ。

 俺は右手を狙ってガトリングガンを撃つ。二の腕が引きちぎれたお陰でジャイアントは自らが持ち上げた桶でダメージを受ける。意識が飛んでいる僅かな隙に顔を狙うが途中で弾が切れる。


「クソ!」


 その瞬間、クロユリが荷台に舞い降りて弾帯を器用にくちばしで咥えて持ち上げる。俺はそれを無駄にしないためにすばやく蓋を開けた。そこへ投げるように弾帯をセットし、クロユリは鷹のように空へと舞い上がる。


『ありがとうな!』


 ガトリングガンでジャイアントの顔を撃ちながら礼を言う。奴は悲鳴を上げて周囲の建物が震えて揺れる。


『大した事なかろう。それより奴をどうにかせよ。わっちはお主に賭けておるのだぞ』


 クロユリの言葉が響く中、ジャイアントが地面に手をつく。攻撃のチャンスを逃さずに背中の球根を狙う。効いているのかその球根がジャイアントの胸部に大きな穴を開け、根は口や顔を侵食していく。


 第二形態ではないがより凶暴に変異していく。一定のダメージを受けた為に花による自己保存能力が裏目に出ているのだろう。


 ジャイアントは暴走して民家を破壊しながら港の方へと走っていく。後を通れればいいのだが散乱している家財や柱の残された場所を荷馬車で通れる筈もなくキャスリーンは本来のルートで荷馬車を走らせる。

 上空のクロユリの視界をリンクするとジャイアントは頭や胸を掻きむしり血を流しながら港の方へ向かい、暴れている。


『先に聞いとく事はある?』


 日本版の仕様のNIGHTMAREしか見た事がないので変更されてたら厳しいのでキャスリーンに聞いておく。


『港に置いてあるビッグなlogを持ってくる』


 でっかい丸太をぶん回してくるという事か。俺はガトリングガンで襲いかかってくる【使徒】を射殺し、【使徒】が隠れている民家を破壊しながら敵を蹴散らしていくが弾帯が無限とは言え、ジャイアントを倒すのには相当数の弾薬が要る。ゲームのようにボタン一つリロードならいいが。俺は弾帯を交換しながら視界リンクでクロユリが見ている物を見る。


 キャスリーンが言っていたとおりジャイアントが巨大な丸太を抱えていた。もうすぐこっちに戻ってくるだろう。雷が落ちたかのような轟音を立てながらジャイアントが戻ってきた。瓦礫が水しぶきのように舞い上がってそこら編の道を塞いでいた柵を破壊していく。


 ジャイアントはダメージの影響なのか三割は体積が膨らんでいるように見える。右手は球根で失った部分を補強しているのか一応動くようだ。もっとも球根を破壊して花を枯らさない限り再生し続けるのだが──


「面倒くさい奴だな」


 俺は奴の顔が見えた瞬間にガトリングガンのハンドルを回す。


 荷馬車めがけて丸太を振り下ろそうとしたジャイアントの目に直撃し、奴が怯む。その隙に胸に空いた穴を狙ってガトリングガンを撃つ。球根が一度枯れ落ちて再び元と同じように生えるがジャイアントの輪郭が溶けていってるように見える。


「我が子よ! だらしないぞ! それが四郎様より賜った力か!」


 どこからか聖母の声が響いた。ぶっちゃけあれだけ銃弾受けてて生きてる方が不思議なのだがこの言われようはあんまりだが。

 荷馬車が急に走り出した。キャスリーンの方を見ると怯えている馬を必死に宥めすかしている。あんな物を見たら怯えるのも当然か。


「Last!」


 このカーチェイスも最終コーナーへと入った。左右の民家からから顔を出す【使徒】を仕留めながら全身を赤色に染めたジャイアントが追ってくる。体中から赤い煙を出している。

 恐らく血液だ。


 花の球根を失った事で完全に制御が効かなくなったのだろう。鬼の形相と呼べる顔でジャイアントが追ってくる。俺は地響きと爆音のような足音に気付く。


 こんなものを聞かされて馬4頭がよく平気だったもんだ。そろそろケリを着けないと俺もキャスリーンも馬も持たない。ガトリングガンを回してひたすら胸部に空いた穴から球根を撃ち続ける。


「ぐぉぉおぉぉぉぉ!!!」


 既に声にならない雄叫びを上げるジャイアントは悶える。胸部の球根が枯れるが再び再生するがその速度は最初よりも遅い。顔に咲いていた花が胸に移動する。


 弾帯を込め直して花めがけてガトリングガンを撃ち続けた。ジャイアントの花が枯れ、その巨体が赤から青、そして灰色に変わる。俺は後ろを振り返る。荷馬車を引く4頭の馬は口から泡らしき物を吐き出していた。港は目前と言った所なのに──


「まだ!」


 キャスリーンが叫んだ。俺は慌ててガトリングガンのハンドルを回して銃弾の嵐を浴びせる。だが何ともある巨体がそれだけで止まる筈もなく目の前まで迫ってくる。


 クソ。やり直しか──そう思った瞬間、ジャイアントは俺の、荷馬車を巻き込む寸前で地面に倒れ込みその衝撃で荷台が持ち上がり、耐えていた馬たちが悲鳴を上げた。

 そして俺の世界が反転した。

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