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港町

 俺たち三人は船着き場に着いた。ここよりも下流は小舟を着けるような場所はなくキャスリーンの説明によるとこれ以上海へ出ると強制的にゲームオーバーになるのでここで降りるしかない。

 船着き場に入った途端、鼻があまり機能してないのはむせ返るほどの腐臭をマトモに感じないための自己防衛だろうか。空は雨が降り出しそうな湿度を含んだ黒雲が覆っている。ゴロゴロと遠くで音が聞こえる。


「まるで祟り神でも出そうな雰囲気じゃな」


 クロユリが声に出して言う。何故か妙に懐かしそうに空模様を見上げていた。


「取り敢えず広場へ行って認識票を奪って偽装して船に乗り込まないとな」


 俺は天を仰ぎながらため息を吐く。これからの展開は逃げ出す港の人間に紛れて弁才船に乗り込むのだ。もっともその弁才船は【使徒】に襲われて一悶着あった上で北ではなくて南に向かう事になるのだが──


「マイキュート。No, that's not the way.認識票じゃなくてletter。Story違う」


 キャスリーンの言葉に微妙な齟齬があるようだ。俺はクロユリを見た。彼女は知らぬよと言いたげに黒い白鳥は肩を竦めるような仕草をする。


「Into the hut」


 キャスリーンは何してるの?と言いたげに船着き場の小屋を指さしてドンドン進んでいく。俺とクロユリは顔を見合わせてキャスリーンの後を追っていく。

 彼女は船着き場にある質素な小屋のドアを開けて入って行った。何か重要なイベントでもあるのだろう。俺もクロユリを伴って中に入った。


『間に合った』


 荒れた小屋の中では腹から血を流している武士らしき男が地面に座り込みこちらを見上げた、。腰の刀を抜こうとするが俺たちの姿を見て思い留まった。

 身なりから考えるとどうやら幕府のお偉いさんのようだ。


「そなたたちは人間……のようだな」

「ああ、それより傷を」


 見れば結構な深手でこのままでは命が危ない。駆け寄ろうとする俺に男が止めた。


「せ、拙者の事はかまうな。と言っても言葉は通じぬか?」

「いや、日本語は分かる。何がどうしたんだ? 話してくれ」


 俺は普通に日本語で答えた。


「エゲレスかメリケンかは問わぬ。……同じに、人間として奴らを、【使徒】を止めてくれ。こ、このままで、この国だけではなく、諸外国までを、【使徒】が闊歩する、地獄になる。その、前に、奴らを、駆逐しなければ、これを、見せて港の一番、大きな軍艦に乗るのだ」


 男が書状を懐から取り出す。当然だが彼の血で汚れている。嫌だが受け取らないわけにはいかないので俺は左手で受け取った。


「分かった。港でこれを見せたらいいんだな?」


 書状はしまおうと思った瞬間に虚空へと消えた。アイテム欄には収納されている。


「そ、それがしは、佐伯、徳之進と、申す。それがしの、名を、港で出すのだ。夕凪と聞かれたら、朝顔と、かえす、のだ」

「合言葉だな。分かった」


 それだけ言い終わると佐伯徳之進(さえきとくのしん)は頷いた後に息絶えた。その眼からは既に光が失われている。ゾンビと違うのでこのまま放置しても【使徒】にはならないが花を植え付けられると苗床になってしまうのでできれば燃やしてしまいたいのだがそれをすると見つかる可能性が高い。

 キャスリーンの方を見ると彼女はクロユリと話してるように見えた。話の中身を確認していたのだろうか。


『keywordは朝顔ですか』


『のようだな。取り敢えず次の出し物はなんだ? 敵が襲ってくる前に逃げ出したいが』


 俺は地図を出して港への道を探す。キャスリーンとクロユリにも見えているのか空中に出ているそれを覗き込んでくる。


「どう見ても聖母が陣取ってる広場の近くを通らないといけないんだな」


 俺はため息を吐いた。廃鉱から行けばこのチャプター5は海の近くに出て港の乱戦を隠れながら進むのだが……楽な半面、NIGHTMAREだと御汁稼げないんだよな。悩ましいところだ。


『広場の近く。Stableある。そこでCarriageをRob』


 クロユリが翻訳しているがよく分からない。馬車を奪うと言ってるのだろうか?


『とにかく行けば分かるか』


 確かここは馬車を奪ったのは良いが追いかけられる展開じゃなかったか。嫌な予感しかしないが(さい)を投げてしまったのだから行くしかない。

 俺は小屋のアイテムを回収して一呼吸置く。


「行けるよな?」


 2人が頷いたのを見届けて俺は深く息を吐いて小屋の扉をゆっくりと押し開ける。蝶番が錆びついたような嫌な音を立てて扉は外に開いた。海の方を確認すると港へ行こうとする大きな道はすべて板や柵で通れないように塞がれていた。

 多分、合戦場でもここまでしないだろうと言われるほど酷い有様だ。【使徒】の侵入を防ぐ為なのだろうが──


「ここを通るのは無理そうじゃな。一旦街に入ってからじゃないと行けそうにないか」

「Yeah! Let's go!」


 キャスリーンはライフルを手に持っている。俺が先行した方が良さそうだ。


『俺が先でも迷わないか?』

『Yeah! one road!』


 クロユリが微妙に翻訳してこない。これくらい分かるだろうと思ってるのか否か。一本道と受け取ればいいのか。


『じゃあ、わっちが先の様子を見てこよう』


 彼女は2つの羽根を羽ばたかせて海からの風に流されながら空へと舞い上がった。


「行くか」


 俺は街中へと入っていく。この港町の住民や倒された【使徒】が到るところに転がっている。ただし、すぐに目の前の道は行き止まりになった。

 右側に視線を移すと問屋か何かの戸が開いている。この長屋の中を通って行けと言う事なのだなと解釈して俺は建物の中へ入る。


『外のDoorは開けるの。Bad』

『了解』


 キャスリーンが後ろから忠告してくれた。早目に言ってくれよとも思わなくもないが廃鉱ルートでも似たような場所はあるので問屋の中にある銃弾やクロスボウの矢を回収していく。回復アイテムが欲しいのだがあまりないのはがっかりだ。

 次の次のチャプターで海上での戦闘がノーダメージクリアの難所と言われている。俺はノーダメージでクリア出来るほどあのチャプターは得意ではない。


『次は右。Toiletへ。壁Broken!』


 気を取り直して俺は裏に通じていると言うトイレの戸を開ける。開けた途端に和式便器の中から生首が出てきてこちらを無視してあらぬ方向へと走っていった。


 よく見れば蜘蛛か何かが背負っているのだが──本来なら叫んでいる筈だろうこの状況で声一つ上げずに冷静に観察できるのは固有スキルポーカーフェイスのお陰だろう。

 キャスリーンは知っていたのか生首が向かって行った方を見ている。


『言い忘れていた?』

『Yeah,Quickly! 敵来る』


 警告に俺はトイレというか厠の壁が壊れて向こうが見えているのでそこを蹴り飛ばして裏に出る。ここでも住民が死んで倒れていた。本当に戦場の方がマシかもな。

 後から来るキャスリーンの手を取って問屋から出るのを手伝う。


『……Sur』


 言い忘れていた事に対する言い訳なんだろう。多分、あの様子がシュール過ぎて笑ってしまうと言う事なのだろう。


『こっちは余りいい感じじゃないぞ。早く広場に来てもらえるか?』


 クロユリが念話で話しかけてきた。片目を閉じると広場の様子が見えてくる。こっちのルートでもこのイベントあるのかよとため息を吐く。SUN値を削られるから嫌いなんだよな。


『行こう』


 俺はキャスリーンを連れて広場の方へと向かって走る。その途中でリザルト画面が出た。そう言えばここでチャプター切り替えか。

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