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関所突破

 森と関所の境目の茂みに身を隠しながら小屋を遮蔽物にクロユリの視界を通して関所前を見る。巡回してきた1体は倒したので関所前の4体だけだが残りの連中は動きそうにない。


『サムライは煙幕を使うと日本刀をバットみたいに振り回してきます。当たるとdie。でも時間が経つと崖近くの小屋の【フラワー】がgo』


 訳が適当なのかだろうが言いたい事は分かった。日本刀で斬りつけると即死なのは。洋ゲーにおけるチェンソーみたいな扱いなのか。日本版だと日本刀で斬られても浅く斬られた扱いなのに──


『早めに蹴りを付けないと駄目か』


 キャスリーンが右手でVサインする。あと2分と言う事か。


『Yes! After 2 minutes.雑魚を倒して入るところのトラバサミuse』

『どう殺る?』


『発煙筒threwしてサムライがpanicして自滅してくれたらgoodだけど』


 取り敢えず武士が取り乱して同士討ちを狙うのが一番なのだろうか──


『出たとこ勝負だな。やるか』

『待て。トラバサミの件は考えがある。わっちに任せてくれぬか?』


 小屋の屋根に居たクロユリが左羽根を腕のように伸ばして山道側のトラバサミを指す。武士を誘導するつもりなのか。


『分かった。相棒、任せていいか?』

『勿論じゃ。そなたたちこそしくじるなよ』


 クロユリが小屋の屋根を手前に移動しこっちの様子を伺う。


『キャス。まず小屋の陰に隠れよう』

『位置左右changeで。Pleaseライフル』


 キャスリーンはハンドシグナルでお互いの左右逆に移動する事を提案してくる。このルートに慣れているキャスリーンに武士の対処を任せた方がいいだろう。勿論、バックアップは必要だろうが──

 俺はキャスリーンにライフルを渡した。多分、ゲームの中では役目が逆なのだろうがこの際仕方がない。彼女に渡したライフルは虚空に消える。ゲームだから便利だな。


『OK』


 キャスリーンが頷いたのを見て俺は先に動いて左側へと移動する。そして小屋の土壁に背を合わせる状態で関所前の様子を伺う。


『カウントはthree two oneでOKですか?』


 キャスが確認を求めてくる。一と同時に発煙筒を投げるのだろう。俺が後から動くのがいいだろう。できれば前の二人だけ誘いたいがどうなるか。


 俺は土壁をつたい、端に移動する。当然ゲームじゃないので見えない。主人公が持っていた小さな手鏡を出して関所前を伺う。普通これだけ出せばバレそうな気がするが花が生えているお陰で視界が狭いのかバレないのはありがたいが奴はどうだろう。


『ああ、クロユリは行けるか?』

『いつでも良いぞ。投げたらトラバサミの方へ移動しよう』

『お前が引っかからないでくれよ』


 俺は要らない忠告をしておく。踏まないと思うし重さが足りないとは思うが念の為に言っておく。


『そんなドジはせぬ。では頼む』

『Three! Two! one!』


 キャスリーンの手によって発煙筒が関所前に投げ込まれ大量の煙が辺りを覆い尽くす。風が吹く前に決着を着けなければならない。慌てて手前へと突っ込んできた【使徒】が迫ってきた。

 俺は土壁に張り付いた状態からナタで【使徒】の喉を切り裂く。そのやり取りの間にクロユリが山道の方に戻ってトラバサミの後ろに立つ。


「こっちだ! こっちにいるぞ!」


 クロユリが叫ぶ。俺たちにはちゃんと人間の声に聞こえる。問題は奴らにはただの鳥の鳴き声にしか聞こえなかったらキツイが──


 俺は土壁に張り付きながらもう一体が来るのを待つ。灰色の煙の中で武士が日本刀を振り回している。キャスリーンはタイミングを見計らってるのかまだ動かない。

 日本版では武士の即死攻撃などないので推測に過ぎないがパートナー死んでも恐らくゲームオーバーだろう。


 【使徒】が奇声を上げてクロユリの方へと向かって行った。同時に二箇所から【使徒】らしき悲鳴が上がる。左前で使用人のような【使徒】がトラバサミに掛かった。武士の方を嵌めたかったのだが仕方がない。


 手鏡で関所前を伺う。【使徒】が武士に斬られて絶命していた。灰色の煙の中で分かるのは武士が日本刀を振り回しているせいで近寄れない事だ。ゲームならいざしらずリアルで日本刀を振り回してる奴を素手で殺せと言うのは難易度が高い。


「こっちだ! こっちだ! 臆病者! 武士の風上にも置けない奴め!」


 クロユリが鳥と悟られないように少女っぽい声で叫ぶ。これなら原作通りに聞こえるかもしれない。


「俺を臆病だと! 舐めやがって!」


 煙幕が晴れた瞬間に武士が釣られてクロユリの方へと走る。トラバサミは二個しかなかった筈だ。一つは別の【使徒】が踏んでしまった以上別の罠を使うしかない。

 俺はこのチャプターを知らないので罠に引っかかった時点で発砲して腕を潰すか。だがライフルはキャスリーンが持ってるのでピースメーカーでやるしかない。


『祐。Waiting for a chance!』


 キャスリーンから釘を刺される。考えがある以上、罠に引っかかるのを待つしかない。俺は一度、小屋の裏側に回る。武士は一目散にクロユリの方へ向かって走っていきトラバサミに引っかかった。そして同じく引っかかっていた【使徒】の胴を両断する。適当に振ってるだけなのに斬れ味が良すぎだろう。


『祐。奴の利き手は左です。これからShootしますが多分それでこっちに向かってくるので奴がサムライブレードをLostしたら奥側の小屋の中めがけてタックル。Please』


 視界リンクで確かめるとキャスリーンはしゃがんでライフルを構えてスコープを覗く。手ぶれ補正のスキルは後回しにしているので標準が定まらない。

 とりあえず俺は小屋の端から反対側にあった茂みへと隠れた。


 武士のの左肩にライフルの銃弾がめり込み血の煙が上がる。そして笠が落ちた。当然、武士の目の位置から花が生えている。


「てめぇ! 何しやがる!」


 武士とはかけ離れた言葉使いで激高しながら暴れトラバサミを外してキャスリーンへと向かおうとするがトラバサミを外したのと同時に日本刀が左手から落ちた。いや正確には左手ごと(・・・・)落ちた。


 【使徒】は腐っているからこうなるのだが見ていて気持ちのいいものではない。言われたとおりやるしかない。左目で視界リンクさせながらキャスリーンが次弾を込めているのが見える。中折り式のライフルなので本来はそんな事は必要ない。なのにわざと隙を晒して囮になるのは注意を引くのと向こう側の小屋に奴を放り込むのが目的なのだろう。


 俺は意を決して走り出す。少し遅いか。銃声が響いて武士の左膝が吹き飛ぶ。武士が扉の位置に来る前に全力で体当たりを食らわせる。不意を突かれた奴はそのまま木の扉めがけてぶつかりそのまま小屋の中へと消える。

 ぶつかった俺はその反動で地面に転がった。


「keep your head down!」


 視界の端でキャスリーンが伏せたと思った瞬間に視界がオレンジに染まって爆音が響く。木の破片などが飛んでくるので頭を抱えて身を縮める。そして小屋が原型を留めない程に崩れ落ちていた。奥の小屋は無事のようだが【フラワー】は出てこない。


「最悪だ。耳がガンガンする」


 俺は頭を振りながら何とか立ち上がった。野郎のスキルは不死だと言ってたがこの状態で生きてるのは勘弁してほしいぞ。


「キャス! 生きてるか?」


 俺は立ち上がってナタを構える。元小屋となった瓦礫の山は動かない。


「I'm safe.酷い。It really hurts.祐は?」

「なんとか。クロユリ!」


 キャスリーンが頭を抑えていた。


「叫ばずとも聞こえておるよ。それより奴は?」


 ちゃっかりと木の陰に隠れていたクロユリが顔を出す。


「死神に聞いてくれよ」


 俺はゆっくりと瓦礫へと近付いた。それと同時に瓦礫が動く。

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