魂の宿るアバター
俺は言われた通り関所ルートを進む。キャスリーン曰く、NPC少女が邪魔をしてトラップに引き込めないからスタート地点に置いていくそうだが今回キャスリーンが少女なので彼女はトラップの前で待つ事にしている。
【フラワー】たちは【使徒】の仕掛けたトラップに引っかかって死亡或いは俺たちにトドメを刺されて絶命する。御汁を回収しながら関所へ向かう山道を俺たちは進んでいった。
関所へ向かう山道にトラップを仕掛けまくるとか馬鹿げてるとしか思えないがゲーム内なのでツッコミを入れる気にもならない。
『なんか拍子抜けするくらい楽勝だな』
『楽。But……落とし穴に落ちるとdie。be careful』
キャスリーンは片目を閉じて俺と視界リンクしつつどこに罠があるか示しながら後から付いてくる。クロユリは上空から【フラワー】や【使徒】が来るのを知らせてくる。これなら初めてのルートでもやれそうだな。
俺は好奇心半分に【フラワー】が落ちた穴を覗く。底から棘の付いた枝が落ちてくるのもを手招きする悪魔のように見えた。落ちたら痛いじゃ済まない。太股などに刺されば動脈を傷つけ短時間で死に至るだろう。パンジステークとか言うトラップか。
『danger』
肩を掴まれて俺は罠から引き離された。
『他にも丸太が飛んでくるtrapある』
『分かった。すまん』
御汁だけ何故か回収できるのはゲームの仕様なのだろうが──足を貫かれて動けなくなっている【フラワー】にキャスリーンが斧を振り下ろした。俺は絶命した【フラワー】から御汁を回収して立ち上がる。
ゲームではなく実際に自分がやっているのに感覚が麻痺している。もっとも麻痺していなければこんな気持ち悪い行動は出来ないだろうが──そうなるとゲームもクリアできないので馴染んでいるのは良い事なのか悪い事なのか──
『お主たちに悪いニュースだぞ』
クロユリが近くの背の高い木に止まりながら呟く。関所の方から見えないように彼女は上手いに隠れている。
『どうした?』
その言葉を聞きつつ、罠がないことを確認しながら俺とキャスリーンは森の中に身を隠す。
『関所の様子がおかしい。笠を被った武士らしい男が【使徒】どもを指揮しておる。そんな奴はゲームにおったか?』
俺は知らないのでキャスリーンに視線を送る。彼女は首を横に振りながら口を開く。
『No.そんな奴は居ない。指揮官【使徒】は居たけど多分──』
キャスリーンの言葉から考えると可能性は一つか。
『なあ、クロユリ。もう少し近付けないか? そいつが何か喋っているか聞こえないか?』
それを確証にする為にクロユリに頼む。
『人使いが荒い相棒だ。ちょっと待っておれ』
クロユリが右に飛んで木との先端の位置をギリギリ飛んでいく。生まれた時から鳥だった訳でもなかろうに器用に飛ぶ。その視界リンクで見ているこっちが震える。
彼女は3つある小屋のうち、関所近くにある2つの小屋のうち、こちら側の屋根に静かに着地して笠を被っている人物に向けて顔を出す。
クロユリの聴覚を通して聞こえてくる声は日本語だった。
「あ、面倒くせぇ。どうしてプレイヤーじゃないんだよ。しかも訳分からないホラーゲームだし。格闘ゲームなら負けねぇのに。固有チートが【不死】とか敵で意味ないぜ」
クロユリ→俺を通して独り言を理解したのかキャスリーンが俺の顔を見る。【使徒】で不死だと厄介な相手になる。
『Nosferatu?』
『どうやって殺すかだな』
キャスリーンの問いに俺はホラーゲーム《アビスからの呼び声》のとあるシーンを思い出す。再生能力を持った敵をプレイヤーキャラが廃鉱に誘き出して木の杭で地面に打ち付けて爆破して対処したのを──
『キャス、この後このエリアは戻ったり出来るのか?』
『No! Impassable! Cliff collapse!』
俺の問いの答えは英語で返ってきた。戻れないのか? 話を聞くのに夢中になってるクロユリが訳してくれてないようだ。いや聞いてないのか。
『通れない。崖、崩れる』
キャスリーンは両腕をバツの字にクロスした後、左側の壁を指さして左手で倒れるようなジェスチャーをする。
『なら杭で磔にするか』
俺の言葉にキャスリーンが発煙筒を取り出す。これで視界を奪っているうちに殺るか。
「つーかお前ら俺の命令を聞けよ。立場上、俺の言葉を聞くのが筋だろう」
クロユリが伝えてくる奴の独り言は愚痴ってるようだ。奴を【使徒】とするならば敵は関所前の3体とその周辺を徘徊するバンシー2体に【使徒】が2体で計7体。統制されていたら勝ち目はないな。
出来るのなら関所前に辿り着く前に巡回している4体を倒してしまいたい。
勿論、奴がクロユリに気付いて嘘を付いている可能性があるがそれはあり得ないと判断しておこう。──割と一発勝負か。
『横から仕掛けよう』
俺の提案にキャスリーンが右奥を指差す。出来るだけ近付いてから発煙筒を投げ込んで目眩ましでスニークキルに持ち込むか。多分、キャスリーンも同じ事を考えてる。
キャスリーンが先導して中腰で前へ出る。俺は彼女の背中と森の外を交互に見ながら進んでいく。バンシーの1体が森の中へと入ってくる。
余計な事と思ったがこれはこれでチャンスだ。一体ずつ葬り去る事ができれば数を減らせる。
俺は気に隠れてキャスリーンと離れる。どっちかが後ろを取れればスニークキルで仕留められる筈だ。
草を踏み潰し枝を折りながらこっちへとやってくる。だが途中で止まる。距離は5mくらいか。また面倒な位置で止まりやがって──
仕方ないので小石を拾って奥の木へと投げる。
まるで鳥みたいに反応してバンシーは森の奥へとひょこひょこと歩いていく。だが見た目は山姥なのでとても歪で気持ち悪い。キャスリーンがバンシーから見えない位置で何かジェスチャーで送っているが分からない。
『何? キャス、何が言いたいんだ?』
クロユリが向こうの監視に集中してるせいで声が聞こえてこない。だがバンシーはスニークキル出来る範囲に入ってきた。俺が隠れている木を側を通った瞬間にバンシーの喉に刃物を突き立てた。
バンシーは地面に倒れるがそれを受け止めて地面に寝かせる。
『No! Come the enemy』
その一言でなんとなく分かった。倒されると別の敵が来るという意味だったのか。クソ。まずった。バンシーたちは動く気配はない。だが代わりに笠を被った武士と関所の門番らしき【使徒】2体と更に農民らしき【使徒】2体が森の方へとやってくる。
「なんだ。誰も居ないじゃないか」
何か言いたげな【使徒】の視線を無視して武士らしき人物に成り代わっている奴は関所の方へと戻っていく。農民のような姿の視線を2体は武士を警護するように後ろをついて行ってこちらからは見えなくなる。
『very very lucky!』
俺は木の陰に隠れて様子を伺う。門番の一人は関所の方へと戻り、もう一人はキャスリーンの隠れている方へと向かっていく。
キャスリーンは斧で門番【使徒】を倒し地面に寝かせる。
『あ、すまなかった』
『言うの。忘れた。だからお互い様』
今度は日本語に訳された言葉で念話が返ってきた。
『あまり脅かすでない。こっちがヒヤヒヤしたぞ』
クロユリの言葉に俺は視界リンクを使いながら奴らの位置を確かめた。関所前が4体になってしまった。最悪だ。
ホラーゲーム《アビスからの呼び声》のオマージュ元は日本の某ホラーゲームですw
普通に有名だから一発で分かるよね




