約束
ありきたりですが、一度書いてみたかったので書いてみました。
タグ関係はわからなかったので、適当です。
お盆。近くの森からセミの鳴き声が聞こえ、太陽の光がキラキラと輝いている中、私は石の上に座って二人の親友を心待ちにしていた。
一人ですることもなく、ボーッと空を見上げる。雲は一つもなく、青空が広がっていた。
目線を変えて正面を向く。目の前に見える光景は、民家や田んぼが広がるだけの田舎。左を向けば森があり、右を向けば一時間に一本ペースでしか電車がこない駅。と、ちょうど駅の方を向いていたら電車が止まっていた。
「よぉ、久しぶり」
「ごめん美幸! 遅くなっちゃった!」
ようやく二人が現れた。
私の親友の良くんと心ちゃんだ。ちなみに心ちゃんが言った美幸とは当然私のこと。
大方心ちゃんが遅刻したんだと思う。まぁ時間の指定をしていので遅刻もなにもないんだけどね。
二人は揃ってこの田舎から、都会の学校に進学していた。二人の格好は「都会」って感じがする。
それに比べて私ときたら……。ワンピースにサンダル、麦わら帽子という、ザ、田舎。といわれてもしょうがない格好をしている。
「悪いな。こいつが電車間違えてよー」
「しょうがないじゃん! 久しぶりに来たんだから」
予想通り心ちゃんだった。そんな心ちゃんが腕時計を見て時間を確認する。
「ねぇねぇ良、時間ギリギリじゃない?」
「げっ、ほんとだ。あー……とりあえず行くか。またここに戻ってこればいいし」
二人とも今きたにもかかわらず、慌てて移動を始める。心ちゃんが間違えていなかったらもうちょっと余裕があったんだろうなぁ。私はそんなことを思いながら、二人のあとを追う。
少し田舎道を歩いて、電車と同じように一時間に一本ペースでしかこないバスに乗り、小さなテーマパークについた。
入場は無料。パーク内には家族連れが多い。それもそのはず。小さい子向けのテーマパークなんだから。
「ひゃー! 久々に来たー!」
心ちゃんがパークに入ってすぐ、両腕を上げて叫んだ。
「騒ぐな騒ぐな。注目浴びるだろ」
「えー、だってなつかしいじゃんここ! ……あー! 見て見て! なつかしくない、あれ!」
心ちゃんが指さしたのは、風船をたくさん持っているクマの着ぐるみ。
たしかになつかしいけど……。
「……相当くたびれてるな。あれでいいのか? 正直怖いぞ」
良くんの言うとおりクマの着ぐるみは頭の部分の色が変色していたり、目の位置が少し違ったりと色々と不気味さを感じる。
「よーし、それじゃあ一発目はオバケ屋敷だー! 行くぞー!」
「え? マジ? あんなクマが出てきたら俺、泣いちゃうよ?」
心ちゃんが良くんの手を引っ張っていく。その後ろを私がついていく。オバケ屋敷、嫌なんだけどなぁ。
私たちは心ちゃんを先頭にあっちへ行ったり、こっちへ行ったり移動する。
十五分くらい歩きまわっても、一向にオバケ屋敷にたどりつけない。
見かねた良くんが、店員さんから地図をもらい、良くんを先頭に移動を開始する。始めからこうしてればよかったと私は思い、良くんの顔を見て同じ気持ちなんだと感じた。
良くんのおかげで、無事にオバケ屋敷につく。以外に空いていて、五分と待たずに中に入れた。
「うっわー、真っ暗。借りた懐中電灯つけてよ」
「はいはい。……あんま変わんねぇな」
電池が入ってないのか、仕様なのかわからないけど、懐中電灯は時々チカチカ点滅する。
「いやー、なんか昔来たときより怖くね? 俺、なんだか背中の方から寒気がするんだけど」
むっ、私が後ろにいるのに失礼な。そんなこと言うなら私と変わってほしいくらいだよ!
「これぞ暑さも吹き飛ぶ怖さってやつ? あ、見て見て」
そう言って心ちゃんは両手で抱えているものを私たちに見せてくる。
「うおおっ! 怖っ!! お前、ちょ、やめろ! それどっかにやれ!」
「あははっ! ただの生首じゃん。怖がりすぎ」
心ちゃんは笑っているけど、私と良くんは笑えない。あんな暗い中、生首なんて見せられたもう前には進めない。今すぐ引き返したい気持ちでいっぱいだ。
「よーし、進むぞー! 突撃ー!」
「あ、バカ! こんな暗い場所で走るんじゃねぇ!」
二人は私を置いて、先に進んでしまった。
……これはもう仕方ないよね? 戻ってもいいよね?
私は後ろを振り返る。……落ち武者が立っていた。
……よし。すすす進もう。
恐怖に怯えながら出口を目指した。
「おもしろかったね!」
心ちゃんは満面の笑みを浮かべる。私と良くんはベンチに座ってグッタリしていた。
あのオバケ屋敷ってあんなに怖かったかなぁ……。
「昔の美幸を思い出しちゃったよ。もし昔の美幸が今のオバケ屋敷に入ったらびっくりして倒れてたんじゃないかな!」
正解。今の私ですらびっくりして尻もちついちゃったよ。やっぱり成長してないのかな?
「いや、なんかここのオバケ屋敷パワーアップしてないか? メチャメチャ怖かったんだが」
「そうかな? そうでもないような気もするし違うような……。考えたらお腹空いちゃった。お昼にしよ」
「もちっとだけ休ましてくれ」
「おーなーか、すーいーたー」
「わかったよ! なんでこいつはこんな元気なんだよ」
心ちゃんは昔から元気あるよねー。どこにそんな体力があるのか。
二人は食事をするため、ポテトやフランクフルトなんかを買ってきて外のテーブルで食べることにした。
「んん! なつかしー。やっぱりここのポテトはこうでなくちゃ」
「ほんと変わんねぇな、ここ。塩入れすぎだろ」
二人の表情は正反対だ。良くんの言っていたポテトを覗きこむ。……なんて言えばいいんだろう。ポテトに塩をかけたというか、塩にポテトを入れたというか。表現が難しい。
そんなポテトを心ちゃんが勢いよく口の中に入れる。というか詰め込んだ。そして流しこむかのようにフランクフルトを食べ終えた。
「完食」
「早えぇな! いや、いいけど」
良くんがフランクフルトを一口食べて、苦い顔をした。そのあと心ちゃんにフランクフルトを差し出すと、目を輝かせて美味しそうに頬張った。
食事を終えたあと、色んなアトラクションを一通り遊んで、最後に観覧車に乗ることに。
「今日はたっくさん遊んだねー」
「ほんと、はずかしかったー」
虫の形をしたジェットコースター、スピードの遅い機関車、メリーゴーランドにも乗ったなぁ。子供たちがメインのテーマパークだからしょうがないけどね。
この観覧車もそう。五分くらいで終わる小さなものだ。
「わぁー。見てよ良、眺めきれいだねー」
「ん? ……ああ、なつかしいな、この景色」
夕焼け。景色は赤く染まり、光ってみえる。朝にはなかった雲も、赤く染まり夕焼け雲になっている。
会話を忘れ、外の景色を眺めていたら、いつのまにか観覧車が地上についていた。
「そろそろ戻るか」
「うん。そうだね」
テーマパークを出てバスに乗り、来た道を戻る。
その間に会話はなく、空ばかりを眺めていた。
「……あ」
心ちゃんがある一点を見つめて止まる。
昔よく行った駄菓子屋さんだった。
「ねぇ、良。少し……買っていかない?」
「ああ、買っていこうか」
お店の扉を開けて中に入る。目の前にはおばあちゃんがイスに座っていた。
「いらっしゃい。……おや? めずらしい顔だねぇ」
「久しぶりおばあちゃん。少しお菓子買っていくね」
昔よく買ったお菓子をいくつか選んで、おばあちゃんに渡す。
「これからどこかに行くのかい?」
「うん。今日、お盆だから」
「……そうだったねぇ。あの子によろしく伝えておくれ」
「わかった。ありがとうおばあちゃん」
心ちゃんはおばあちゃんからお菓子を受け取り、お店を出た。
再び歩き始め、二人と会った場所に戻ってくる。
そして私は石の上に座った。
「悪いな。来てすぐに出かけちまって」
「はい、これ。美幸が好きだったお菓子だよ」
心ちゃんはそう言ってお墓にお供え物のお菓子を置いた。
『天野 美幸』
墓石には私の名前が彫られている。
「あのね美幸、今日久しぶりにテーマパークに行ったんだ。すっごい楽しかった!」
うん。楽しかったね。
「こいつがオバケ屋敷で走り出して大変だったんだぜ?」
ほんと。置いていかれた時はどうしようかと思ったよ。
心ちゃんと良くんは今日のことを話してくれる。私は時々相づちをうって、二人の話を聞く。
「……でね、観覧車に乗った時の景色が……きれい……で、ね」
心ちゃんは目に涙を浮かべていた。
そんな心ちゃんを見て、良くんは心ちゃんの頭を優しく撫でてあげる。
「ご、めん……ね。あたしが、あの時、走ら、なきゃ……こんな、こと、には」
とうとう涙が溢れて、泣いてしまった。
心ちゃんは悪くない。
あれは仕方のないことだったんだよ。
私は森の方を向いて目をつむる。そしてあの時のことを思い出す。
五年前、まだ私たちが小学生だったころ。
お盆の日、私たち三人は行事に参加するのが嫌で森の中に入って遊んでいた。
山の天気は変わりやすく、この日は突然のゲリラ豪雨が襲ってきた。
私たちはどこかで雨宿りするか家に帰るか話し合っていたのだが、雷が鳴った途端に怖くなったのか心ちゃんが急に走り出してしまう。
私と良くんは慌てて追いかけたけど、足が速い心ちゃんはどんどん前に進んでいった。
ところが、雨で足元が滑りやすくなっていたため、心ちゃんは途中で転んでしまう。転んだ先は下が川になっている崖だった。
普段はおだやかな川だが、豪雨により水位と勢いが増している。
私と良くんは心ちゃんの腕を引っ張りなんとか引きあげ、その場で座り呼吸を整える。
そして私は安堵して立ち上がろうとした時、足を滑らせて川に落ちてしまったんだ。
そのあとのことはもう覚えていない。
気がついた時には私の葬式が行われていた。
そこで心ちゃんと良くんが大泣きしたのを覚えている。それにつられて私も大泣きしたんだっけ。
私自身、マヌケな死にかたをしたもんだ。
心ちゃんが少し落ち着き、涙を拭く。
良くんが少し深呼吸をして、真剣な表情をする。
「美幸、俺、お前に報告することがあるんだ」
良くんは心ちゃんの手を握る。
「俺は……俺たちは美幸の分まで生きるよ。そして心を守ってみせる。絶対この手を離さない。だから美幸、ずっと見守ってくれよな」
「あたしたちはずっと美幸のこと忘れないよ! ずっと、ずーっと、友達だからね!」
うん。二人のことはよくわかってるよ。大切な友達なんだから。
太陽が沈み、少し暗くなってくる。
二人は私のお墓の前にしゃがんで、手を合わせた。
ほどなくして立ち上がり、お供え物のお菓子を心ちゃんが手にする。
「美幸、お菓子もらうね!」
食いしん坊だなぁ。やっぱり心ちゃんには笑顔が一番だよ。
私は石の上から下りて、二人の前に立つ。そして、二人が握りあっている手の上に自分の手を重ねる。
良くん。心ちゃんを守ってあげてね。
心ちゃん。良くんを支えてあげてね。
「また、必ず来るから。約束だ」
「またね。美幸! 約束!」
うん。待ってるね。約束だよ!
ご愛読ありがとうございます。